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第60回2012.03.28

東日本大震災と外国人政策

2012年3月に、外務省・国際移住機関(IOM)・明治大学の共催によって、「東日本大震災と外国人政策」をテーマに掲げた外国人の受け入れと社会統合のための国際ワークショップが明治大学駿河台キャンパスで開かれました。内外の有識者や在京外交団,報道関係者そして一般市民を含めて約240名が参加しました。

 外務省がIOMと組んで外国人受け入れに関する国際シンポジウムを初めて開いたのは2004年度のことで、それ以来、2008年度まで毎年一回、開いてきました。2009年度からは、国際ワークショップと名称を変え、今回が3回目となります。

 東日本大震災は,地震,津波に加え原子力発電所事故が重なる複合的なものであり,日本社会全体に多大な影響を及ぼしました。そうした中,外国人の受入れと社会統合をめぐる課題もあらためて浮き彫りとなったといえます。今回のワークショップでは、今回の震災が在日外国人に及ぼした影響を念頭に置き、国内外の有識者や実務者により「東日本大震災時の在留外国人への支援」及び「東日本大震災後の外国人受入れのあり方」という二つのテーマについて討議しました。

 まず午前の部で、IOMのウィリアム・スウィング事務局長、国連人道問題調整事務所のオリバー・レイシー=ホール・アジア太平洋地域事務所長、オーストラリア国際教育協会のデニス・マレー・リサーチ&ビジネス・ディベロップメント・ディレクターそして被災地在住外国人としてフィリピン出身の佐々木アメリア氏の報告がありました。

 午後の部では、二つのパネル・ディスカッションが行われました。「東日本大震災時の在留外国人への支援」に関するセッションには、宮城県国際交流協会の大村昌枝企画事業課長、IOMのウィリアム・バリガ駐日代表、外務省の髙橋政司外国人課首席事務官の3名がパネリストとして、そして多言語センターFACILの吉富志津代代表と前述のホール氏がディスカッサントとして参加し、静岡文化芸術大学の池上重弘文化政策学部教授が議長を務めました。

 このセッションでは、今回の大災害に際して外国人への情報提供と各種支援がどのようになされたか、地域(宮城県国際交流協会)、国(外務省)、国際機関(IOM)の取り組みの成果と課題が議論されました。その中で、震災を契機に被災地の外国人コミュニティは互助組織としての機能に加え、受け入れ社会とのつながりを深める機能を担うようになったことが指摘されました。また、これまで外国人は、災害弱者として捉えられることが多かったのですが、被災地でのボランティア活動に参加するなど、支援する側として活躍した点も指摘されました。災害からの復旧復興は、外国人が受け入れ社会に参画する機会にもなっているといえます。

 最後に、今回の震災の教訓から平時の準備の必要性が浮き彫りになり、首都圏直下型地震も想定される今後の大災害に備えて、地域、国、国際機関等の連携の仕組みづくりとともに、外国人も平時の防災活動に関わるような取り組みが求められることが強調されました。

 「東日本大震災後の外国人受け入れのあり方」に関するセッションには、日本経団連の川口晶産業政策本部副本部長、明治大学の横田雅弘国際日本学部教授、移民情報機構の石原進代表取締役の3名がパネリストとして、そしてテンプル大学日本校のロバート・デュジャリック現代アジア研究所長と前述のマレー氏がディスカッサントとして参加し、私が議長を務めました。

 このセッションでは、世界金融危機そして震災の影響で外国人が減少傾向にある中で、外国人政策を立て直すにはどうしたらよいか検討しました。まず、「世界に開かれた復興」の理念のもと、震災復興期の今こそ、外国人の受け入れにかかわる課題に積極的に取り組むことが重要であることが指摘されました。そして、受け入れ推進でほぼコンセンサスのある高度人材と留学生にかかわる課題を中心に議論が進みました。留学生は将来の高度人材となりうる存在であり、オーストラリアなど外国の事例も参考にしつつ、これまで切り離されて議論されがちであった留学生政策と外国人政策をリンクして、より総合的な観点から省庁横断的に検討すべきことが指摘されました。

 一方、国内に暮らす200万人を超える外国人の中には、政府が受け入れを推進している「専門的・技術的分野の外国人労働者」に加え、技能実習生や日系人など、実質的には非熟練労働者として働く者も少なくなく、受入れを認める外国人労働者の範囲を拡大すべきという意見も出されました。

 筆者は2006~9年度のシンポジウムにも参加しているので、通算5回目の参加となりますが、今回は例年以上に外国人の姿が聴衆の中に多く見られたことが印象に残りました。この一年間、東日本大震災と外国人をテーマにしたシンポジウムがいくつも開かれていますが、日英同時通訳が提供されたこともあり、特に外国人聴衆が多かったのではないでしょうか。外国人の受け入れや多文化共生は、国や自治体など国内の観点から議論されがちですが、今回のワークショップは国際的観点も含めて討議した貴重な機会であったと思いました。