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第54回2011.09.28

野田内閣

2011年9月2日、野田内閣が発足しました。2009年9月に始まった民主党政権の中で、野田佳彦氏は鳩山由起夫氏、菅直人氏に続いて3人目の首相となります。

 鳩山首相は、就任直後の所信表明演説で「多文化の共生」や日系人に言及したことで、外国人施策関係者の間で期待が高まりました。また、全国で最も外国人住民の割合の高い群馬県大泉町を2010年4月に視察し、群馬県知事や大泉町長らと意見交換し、町内のブラジル系スーパーとレストランを訪問しました。鳩山氏は「多文化共生の時代をつくりあげ、国を開いていくことが非常に大事だ」と述べ、外国人に開かれた国づくりを推進する考えを表明しました。しかし、同年6月、突然の辞任表明で鳩山内閣は総辞職となりました。

 一方、菅首相は、特に外国人政策に関する発言もなく、関心は高くないものと思われました。菅内閣の下で「日系定住外国人施策に関する基本指針」(2010年8月)および「日系定住外国人施策に関する行動計画」(2011年3月)が策定されていますが、菅首相が指導力を特に発揮したものではないようです。ただし、菅内閣は「一人ひとりを包摂する社会」をめざし、その中で外国人にかかわる課題を取り上げていたことは注目に値します。また、2010年11月に東京で開催された外国人集住都市会議には、末松義規内閣府副大臣、笹木竜三文部科学副大臣、小宮山洋子厚生労働副大臣が政府高官として初めて参加しました。

 野田首相の所信表明演説には、多文化共生の観点から特に注目すべき点はありませんでしたが、野田内閣はこれまでよりも期待を持たせる構成となっています。小宮山氏が厚生労働大臣に就任したこともありますが、何よりも外国人政策に関心の深い中川正春氏が文部科学大臣に就任したからです。

 中川氏は、鳩山内閣と菅内閣(第一期)で文部科学副大臣を務めています。2009年12月に、「定住外国人の子どもの教育等に関する政策懇談会」を設置し、有識者等との意見交換の場を主宰し、外国人政策の分野で唯一といってよい政治主導による取り組みを進め、2010年5月に、外国人の子どもの就学や留学生に対する日本語教育等について、今後の政策のポイントを取りまとめました。また、取りまとめの中で関係府省庁が連携して取り組むべき課題も指摘したうえで、外国人政策に関する関係府省庁の副大臣会合を主導しました。

 中川氏は、ブラジル人労働者の多い三重県出身であり、民主党がまだ野党であった2006年に党内に設置された外国人労働者問題作業チームの座長を務めて以来、外国人政策に最も精通した与党議員の一人といえます。

 野田内閣においては、まず前述の基本指針および行動計画を、定住外国人全般を対象としたものに改めるべきでしょう。指針策定時の議事要旨を読んでも、複数の副大臣から「日系人」に限定することへの疑問が出されていたことがわかります。施策の対象を日系人に限定したことは、総務省の「地域における多文化共生推進プラン」(2006年3月)以来、政府が積み上げてきた社会統合への取り組みを後退させるものと言えます。

 また、震災後の外国人政策の再構築のために、関係府省庁の大臣による協議の場を設けることを期待したいと思います。震災復興が最優先でそれどころではないという見方が多いかもしれませんが、東北地方の復興そして日本の再生のためにこそ、多文化共生を推進し、国籍や民族などを問わず、国内外のあらゆる人材の力を最大限に活用すべきだからです。