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第42回2010.09.22

日系定住外国人施策に関する基本指針

2010年8月31日に、内閣府に置かれた日系定住外国人施策推進会議(議長:荒井聡内閣府特命担当大臣)は、「日系定住外国人施策に関する基本指針」を策定しました。今年度中に基本指針に基づき行動計画を策定し、計画に盛り込まれる新たな施策については、外国人に係る住民基本台帳制度がスタートする2012年夏に本格実施を目指すとのことです。日系定住外国人とは、日系人であることにより、「定住者」、「日本人の配偶者等」などの在留資格で在留する外国人を指します。

基本指針によれば、今回の指針を策定した理由は以下のとおりです。2008年秋以降の経済危機の中で、ブラジル人やペルー人の相当数が帰国したものの、日本に残り続けている者がかなりの数に上っており、日本での暮らしが長期に及んだ者はこのまま定住を希望する傾向にあること、従って、日系人に単に定住を認めるだけでなく、日本社会の一員として受け入れ、社会から排除されないようにするための施策を国の責任として講じる必要があること、さらに、日系定住外国人が集住する地方自治体が、国に対して、外国人施策について国としての体系的・総合的な方針の策定を要望していることです。

基本指針の内容は、「施策の基本的な考え方」、「施策の具体的な方向性」、そして「国として今後取り組む又は検討する施策」からなっています。基本的な考え方としては、日本語能力が不十分な者が多い日系定住外国人を日本社会の一員として受け入れ、社会から排除されないようにする必要があること、その際には、国籍などの異なる人々が、互いの文化的違いを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、日本社会の構成員として共に生きていくという視点が大切であることを述べています。これは、総務省の「地域における多文化共生推進プラン」(2006年)に示された「地域における多文化共生」の定義をもとにしたものです。

施策の方向性としては、「日本語で生活できるために」、「子どもを大切に育てていくために」、「安定して働くために」、「社会の中で困ったときのために」、「お互いの文化を尊重するために」の5つの分野を示し、それぞれの分野について、具体的な施策を列挙しています。

政府が、外国人施策に関する基本指針を策定したことは初めてのことであり、その点は高く評価すべきと言えます。基本指針に基づき行動計画を策定するので、今後、外国人施策の取組が本格化することが期待できます。特に、「多文化共生」を謳ってはいないものの、総務省の「地域における多文化共生」の定義をもとに、「地域社会の構成員」ではなく、「日本社会の構成員」として「共に生きていく」という視点を挙げたことは評価できます。

一方で、どうして「定住外国人施策」ではなく「日系定住外国人施策」としたのか疑問が残ります。「日系定住外国人」という用語は、これまでほとんど用いられていませんし、各府省の取組も、必ずしも日系人に対象を限定してきたわけではありません。そもそも日系人に関する統計も存在しません。

指針の中でも、「日本に居住する他の外国人も、同様の課題を抱えている場合があると考えられ、日系定住外国人に対して講ずる施策については、可能な限りこれらの他の外国人に対しても施策の対象とすることが望ましい」と述べています。今回、日系定住外国人の多くが不十分な日本語能力のために、様々な生活上の困難を抱えていることが強調されていますが、そうであれば、日本語能力が不十分な定住外国人を対象とする指針とすればよかったのではないでしょうか。

もう一点、今回の指針で疑問なのは、「お互いの文化を尊重するために必要な施策」の具体策として、総務省が「『地域における多文化共生推進プラン』の普及を通じ、地方自治体における自主的な多文化共生の取組を促進する」ことと、内閣府が「日系定住外国人の社会への受け入れの必要性・意義について国民に周知することについて検討する」ことが挙げられている点です。総務省の「地域における多文化共生推進プラン」は、ただ単に「お互いの文化を尊重する」のではなく、「地域社会の構成員として共に生きていくこと」、そのために、コミュニケーション支援、生活支援、そして施策の推進体制を整備することを自治体に求めるものであるので、今回の位置づけは、プランの意義を狭めるものとなりかねません。また、日系定住外国人の社会への受け入れの必要性や意義を国民に周知することは大切ですが、これも「お互いの文化を尊重する」ことにとどまらないはずです。この二つの取組は「お互いの文化を尊重しながら共に生きるために必要な施策」として整理すべきと言えます。

2012年に外国人も住民基本台帳法の対象となることが日本の外国人政策にとって大きな転換点となることは間違いなく、今回の指針策定において国も強く意識しているものと思われます。今後、多文化共生を推進している自治体や市民団体は、2012年に向けて、国が今回の指針をもとに、定住外国人全体を対象とする施策の基本的な考え方や方向性を検討すること、そして、人権尊重や社会参画、国際協調といった多文化共生の理念を示すと同時に施策の推進体制を整備するために、多文化共生社会基本法を制定することを求めるべきではないでしょうか。