メールマガジン

多文化共生社会に向けて

明治大学商学部教授 山脇 啓造 氏

第05回2007.08.22

多文化共生を推進する条例と基本法

先月、宮城県で「多文化共生社会の形成の推進に関する条例」が制定されました。正確には7月4日の宮城県議会で可決され、7月11日に施行されました。これは、日本で初めての多文化共生推進条例です。2006年3月に総務省の「多文化共生の推進に関する研究会」が報告書を出したことによって、多文化共生社会に向けた動きは大きく前進しましたが、今回の条例制定は、日本社会全体にとっても、同様に大きな意義があると思います。

宮城県では、2005年10月に第1回の条例制定のための懇話会を開いて以来、「多文化共生社会の形成の推進に関する条例」案の検討を進めてきました。私は懇話会座長として制定に協力しましたが、その間、県知事の交代があり、懇話会委員の県議の交代もありましたが、無事、制定にたどり着き、感慨深いものがあります。

条例の目的は、第一条に次のように記されています。

この条例は、多文化共生社会の形成の推進について、基本理念を定め、並びに県、事業者及び県民の責務を明らかにするとともに、多文化共生社会の形成の推進に関する施策の基本となる事項を定めて総合的かつ計画的に施策を推進することにより、国籍、民族等の違いにかかわらず県民の人権の尊重及び社会参画が図られる地域社会の形成を促進し、もって豊かで活力ある社会の実現に寄与することを目的とする。

これまで、地方自治体にとって多文化共生(外国人住民)施策というのは、根拠法令が曖昧で、悪い言い方をすれば、やってもやらなくてもよい分野でした。1990年後半以降、外国人住民施策の基本方針や計画を策定する自治体が現れ、2005年には全国に先駆けて、川崎市と立川市が多文化共生を謳った指針と計画をそれぞれ策定しました。今回の宮城県の条例は、そうした動きの延長線上にありますが、指針や計画とは比較にならない重みをもつものと言えます。

実は、自治体と同じことが、国についても言えます。日本政府には、外国人住民に関する基本方針がないどころか、関心さえなかったといわざるを得ない状況が長く続いていました。そうした状況が一転するきっかけとなったのが、2006年3月の総務省研究会の報告書でした。そして、2006年12月に「『生活者としての外国人』に関する総合的対応策」がとりまとめられました。これまでの経緯を考えれば、国がこうしたとりまとめを行ったことは高く評価できますが、内容的には当面の課題への対応策を列挙したに過ぎません。国には、関係省庁の施策を総合調整するような組織も定まっておらず、自治体のほうがはるかに先を行っていると言えるでしょう。私は2002年頃から多文化共生施策の推進体制を整備する基本法と条例の制定を提言してきましたが、他の自治体も宮城県に続くことによって、国レベルでも基本法を制定する機運が高まることを期待したいと思います。

ところで、お隣の韓国では、条例どころか基本法まで最近、制定されています。この続きは次回に。


*条例の詳細については、宮城県のサイトをご覧ください。
http://www.pref.miyagi.jp/kokusai/kokusei/tabunka-jorei.html