メールマガジン

多文化共生社会に向けて

明治大学商学部教授 山脇 啓造 氏

第04回2007.07.25

多文化共生と「骨太の方針」

先月、日本政府は来年度予算の基本方針を定める「骨太の方針2007」を閣議決定しました。2006年には、「平成18年内の生活者としての外国人総合対策策定等、多文化共生社会構築を進める」と、初めて「多文化共生」が骨太の方針に含まれましたが、今年はまったく言及がなく、残念でした。

今振り返ると、「多文化共生」に関する国レベルの去年の展開は驚くことばかりでした。私が座長を務めた総務省の「多文化共生の推進に関する研究会」の報告書「地域における多文化共生の推進に向けて」が、2006年3月7日に記者発表され、同省のサイトに掲載された時点では、マスコミも取り上げず、省庁が毎日出している数多いレポートの一つにすぎないのかとも思われました。ところが、4月7日の経済財政諮問会議で竹中平蔵総務大臣(当時)が、次のような発言をして、一気に歯車が回りだしました。

「外国人労働については、内閣官房に関係省庁の連絡会議がある。そして、在留管理については、犯罪対策閣僚会議の幹事会として、外国人の在留管理に関するワーキングチームというのがある。ところが、・・・生活レベルについて言うと、これは国の中に検討の場がないというのが現状だと思う。」「多文化共生の研究会というのをつくり、いろんな事例を集めて、自治体には周知をした。ただ、自治体には頑張ってもらうのだが、国のレベルで生活の問題、この検討の場というのは、やはり何か必要なのではないかと思う。」

この発言を受けて、会議のメンバーの間で、外国人労働者の受入れをめぐって興味深い議論が展開されます。そして、小泉純一郎首相(当時)の以下の発言を受けて、安倍晋三官房長官(当時)の指示によって、在住外国人の生活環境の整備について省庁横断的な検討が始まりました。

「好むと好まざるとにかかわらず、日本に来たいという外国人はたくさんいる。それを日本人として、日本人社会で働きたい、定住したいという外国人をどうやって摩擦なく、気持ちよく受け入れられるかという対応を今から考えないといけない。」「しっかりとした労働力として快く働いてもらうような環境なり、教育なりをどうやって整備していくかということを考えないと。」

当時の総務省の担当者は、この日以来、関係省庁などから報告書に関する問い合わせが急増し、冗談交じりに霞ヶ関で「多文化共生バブル」が起きていると言っていました。そして、政府が2006年5月に策定したグローバル戦略には、「地域における多文化共生社会の構築」が政策課題として位置づけられ、6月に「『生活者としての外国人』問題への対応について(中間整理)」が出された後、前述のように7月に策定された骨太の方針にも「多文化共生」が含まれました。そして、12月に「『生活者としての外国人』に関する総合的対応策」が公表されました。

この対応策には、「我が国としても、日本で働き、また、生活する外国人について、その処遇、生活環境等について一定の責任を負うべきものであり、社会の一員として日本人と同様の公共サービスを享受し生活できるような環境を整備しなければならない。」とあります。国がこうした認識を示したのは初めてであり、画期的なことといえます。


追伸 2007年7月4日、宮城県議会で全国初の多文化共生推進条例案が可決されました!(詳細は次回に。)