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コラム

追手門学院大学地域創造学部 教授 藤原直樹

2023.02.22

アフターコロナの自治体国際政策

 日本政府は5月から新型コロナウイルスの感染症法上の分類をインフルエンザと同じ「5類」に移行する方針を固めた。韓国政府は室内でのマスク着用義務を1月末から緩和し、中国政府もゼロコロナ政策を撤廃しており、日本への観光客増加圧力は高まっている。厚生労働省によれば2022年10月の外国人労働者数は約182万人、外国人を雇用する事業所数は約30万か所で過去最高となった。数年にわたったコロナ対応の生活も終わりが見え、社会経済の正常化に向けて大きな節目を迎えている。
 コロナ後の社会において自治体の国際政策はどのように展開されるべきか。2022年度に筆者は一般財団法人地方自治研究機構の自治体マネジメント研究会「国際市場に向けた地域産業政策に関する調査研究(委員長:早稲田大学政治経済学術院 稲継裕昭 教授)」に委員として参加した。研究者や実務家よりなる研究会の最終報告書は3月に公開される予定であるが、その概要を先んじて紹介したい。
 日本創生会議のいわゆる「地方消滅論」では、「東京=グローバル経済圏」「地方圏=ローカル経済圏」という対立構造のような図式が提起されたことで、地方圏では国際市場に向けた地域産業政策が後景に退いた。他方で、国の地方創生政策では国際市場に向けた地域産業政策の可能性も幅広く示されている。
 地域産業政策は「行政サービスの客体が自律的に活動を行う経済分野であること」が大きな特徴であり、衛生費・教育費に代表される住民生活に密着した直接的な行政サービスや地域社会基盤整備などと本質的に異なる。経済活動は自治体区域を超えて行われ、自治体は行政サービスの客体である労働力と資本の移動をコントロールできない。そして、財政力の低い団体ほど産業の維持や奨励的な施策への直接的な財源投入が大きい可能性がある。
 自治体の国際関係業務は、姉妹都市交流やJETプログラムなど「地域の国際化」を目指す国際交流から、自治体が持つノウハウを活用して発展途上国を支援しようとする国際協力、外国人住民との共生を目指す多文化共生、さらには、地域産品の販路拡大や外国人観光客の誘致をはじめとする経済交流へと、その範囲を拡大してきた。
 自治体組織も、2000年頃までは国際交流課、文化国際課など国際交流・協力を担当する部署が太宗を占めていたのに対し、最近では「国際」等の語を冠する課室の属する部局が企画、産業、観光系にまで拡大している。数としては増加している自治体海外拠点の運営形態は、独自事務所、機関等派遣、業務委託の3つに分類できるが、業務委託等が全体の3分の2を占めており、費用をかけずに海外拠点を増加する傾向がみられる。
 様々な規模の自治体による国際政策の事例として、富山県は伝統工芸、農林水産業、観光の3分野において国際展開による地域産業の存続・再生の取り組みを行っている。福井県は終戦直後から繊維製品の輸出に向けて海外販路開拓を施策展開していたが、2004 年に東アジア・マーケット開拓戦略プランを策定し、国際市場の獲得に向けた政策を特別の行政計画としてまとめ上げ、支援施策の対象を業界団体からやる気のある個別企業に転換している。
 和歌山市では、2017年度から始まった現行の長期総合計画の「国際交流の推進」項目において、友好親善等の視点だけでなく、産業振興や観光振興の視点を加えた「国際戦略の推進」施策を初めて盛り込んだ。「第2期和歌山市まち・ひと・しごと創生総合戦略」にも、第1期にはなかった「国際戦略の推進」を長期総合計画とほぼ同じ内容で盛り込み、「新技術の活用と海外展開の支援による産業振興」と称した地域再生計画を立て、海外展開・販路拡大の積極的支援に取り組むこととしている。
 山形県酒田市は2015年以降、海外の需要を取り込むため日本酒輸出促進に取り組んでいる。市長等を団長とする使節団をイタリア、ロシア、中国などに派遣し、現地で日本酒のPRを行うほか、各国の卸業者・バイヤーを酒田へ招聘することで、市内酒造会社がそれらの国々へ輸出するきっかけを創出している。
 自治体の国際関係業務の変化により自治体職員の求められる能力にも変化がみられる。従前は外国語能力があるなど国際親善的な活動ができればよいと考えられていたが、国際的な視野、バランス感覚など新たな能力も必要とされる。自治体の独自研修は難しい場合でも全国市町村国際文化研修所(JIAM)を活用することが有意義であり、他分野においても全国規模で提供されている研修の受講が有用だとする。
 研究会報告書では、社会経済環境の変化に合わせて自治体がどのような国際政策を実施できるか、政策推進のための計画(戦略)、組織やその運営手法、人材育成はどうあるべきかについて具体的な事例を交えながら考察している。
 本報告書の全文は、2023年3月に地方自治研究機構のホームページから閲覧できるようになるので、ぜひご一読いただきたい。