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コラム
特定非営利活動法人多文化共生マネージャー全国協議会 副代表理事 田村太郎
2023.01.25
多文化共生施策の現状と課題
新型コロナ対応による入国規制が緩和され、2022年半ばから在留外国人が各地で急増。2020年、2021年度漸減していた在留外国人数は、2022年6月末現在で過去最多を更新した。コロナ禍前から進展していた国籍や在留資格の多様化がいっそう進展しており、日本人と比べると若い世代が多いものの、来日して20年、30年が経過して高齢期を迎える外国人も増えている。「外国人」といってもその暮らしぶりや直面する課題は本当にさまざまであり、以前にも増して丁寧な情報提供や相談支援が必要な状況となっている。
外国人が暮らす地域も多様化している。リーマンショック以前は製造業に就業する外国人が多く、工業団地の近くに集住する住まい方が目立ったが、近年は建設業や介護、農業などに少人数で分散して就業する事例が増え、これまで外国人がまったくいなかった地域でも外国人が暮らしはじめるようになった。自治体や国際交流協会は従来の外国人住民への支援に加え、外国人との接点が増える地域住民への意識啓発や相互理解のための取り組みにもよりいっそう力を入れて取り組む必要が生じている。
外国人の増加や多様化を後押ししている直近の引き金は、2018年6月の骨太の方針で政府が外国人を幅広く受け入れる方針を示したことにある。この方針を受け、2019年4月に施行された改正入管法で在留資格「特定技能」が新設され、14の業種に限定されているものの、名目上初めて外国人を労働者として受け入れる制度がスタートした。また外国人を労働者として正式に受け入れるにあたり、政府は2018年7月に「外国人の受入れ環境の整備に関する業務の基本方針について」を閣議決定し、来日後の日本語教育や相談体制の整備を進めることとなった。
各地で日系人等が急増した1990年の改正入管法施行時には、こうした方針が国から示されることはなかった。日本語教育や相談体制の整備は自治体や国際交流協会、あるいは地域住民によるボランティア活動に委ねられ、たまたま自分が暮らす地域に丁寧な支援があれば「ラッキー」で、多くの日系人たちは就労だけでなく住まいや病気の時の通訳、時には子どもの教育まで派遣会社に頼らざるを得なかった。短期の雇用契約を繰り返し、健康診断も受けられないまま大病を患い、年金ももらえないまま高齢期に入っていく日系人たちの姿を見ていると、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
しかし今回は状況が異なる。閣議決定に沿って政府は「外国人材受入れ・共生に関する関係閣僚会議」を設置。日本人と外国人が安全・安心して暮らせる社会の実現に寄与することを目的とした「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」(以下「総合的対応策」)を2018年末にとりまとめ、その後も毎年改訂を重ねながら内容の充実が図られている。自治体は「総合的対応策」に掲載された各省庁の施策を吟味し、地域のニーズに合わせ必要な施策を予算化して交付申請することで、日本語教育や相談体制の整備に臨むことができる。また2022年6月には関係閣僚会議が「外国人との共生社会実現に向けたロードマップ」を策定し、向こう5年間で政府が取り組むビジョンと重点項目をとりまとめており、「総合的対応策」と照らし合わせながら自治体が計画的に施策を検討できる状況となっている。
自治体による外国人施策については、2005年度に総務省国際室が「地域における多文化共生の推進に関する研究会」を開催。2006年3月に「多文化共生推進プラン」を策定し、「コミュニケーション支援」「生活支援」「多文化共生の地域づくり」[1]の3つの分野で自治体が体系的・計画的に多文化共生を推進するよう促している。2020年にはプランを改訂し、「地域活性化の推進やグローバル化への対応」を加えた4つの分野で受入環境の整備と持続可能な地域の形成を多文化共生推進の今日的意義として整理した。
関係閣僚会議の「総合的対応策」も総務省の「多文化共生推進プラン」も法律ではないため、具体的な施策を推進するか否かは自治体の判断に委ねられている。総務省国際室は毎年、全地方公共団体を対象に多文化共生推進プラン策定状況を調査しているが、2022年4月現在でプランを単独で策定しているのは144団体と、全体の1割にも満たない。このままでは自分が暮らす地域の自治体が丁寧に共生施策を推進してくれれば「ラッキー」で、そうでない地域で暮らす外国人は相変わらずボランティアや家族による手弁当での支援に頼ることとなってしまう。
自治体はまず、地域の状況を俯瞰して外国人住民が直面する課題を直視し、必要な施策を体系的・計画的に推進するための方針を定めるべきだ。そのうえで、まずは多文化共生分野の担い手の育成に臨んでほしい。「総合的対応策」で予算は示されたものの、その予算を使って日本語教育や相談体制を整備するには専門性の高い人材が欠かせない。予算が10倍になったからといって、日本語を教えられる人は急に10倍には増えない。多文化共生分野に必要な人材の育成を急ぎ、質の高い施策を推進することで、10年先、20年先を見据えた外国人とともに持続可能な地域づくりを急ぎたい。
[1] 2020年の改訂で「多文化共生の地域づくり」は「意識啓発と社会参画促進」と項目名は変更された。