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コラム

京都大学大学院地球環境学堂 准教授 浅利 美鈴

2022.12.28

行動するSDGs

 大学で研究室に配属されて以来、ごみ研究がメインテーマである。所属する研究チームでは、1980年より毎年、家庭ごみを400種類くらいにまで細かく分ける細組成調査を続けており、宝のようなデータとノウハウがある。そこから、プラスチックごみや食品ロスの存在を指摘してきた。発生実態の分析のみならず、3R(リデュース・リユース・リサイクル)の取組と効果などを探求している。私自身は、ごみ研究に携わるようになった頃と時期を同じくして、環境教育・啓発・コミュニケーションの学生活動(その名も「京大ゴミ部」)を始め、今に至るまで、ライフワークのように取り組んできた。そのような経緯もあり、現在の専攻は環境教育論である。
 このように、学生のころから性懲りもなく、これらのテーマに向き合ってきたが、最近のSDGs(国連の提唱する持続可能な開発目標)や脱炭素化に向けた機運の高まりは、強度が違うと感じる。ESG(環境・社会・企業統治)投資の広がりからも、企業等の意識変容、取組の主流化も確認できる。いよいよSDGs時代への突入か。もちろん、アンチSDGs的な思想やSDGsウォッシュなどへの指摘もあり、それも受け止めねばならないが・・・
 私自身がSDGsを意識するようになったのは、SDGs採択の翌年あたりからだ。きっかけは、学生さんだった。私たちは、2013年から大学での環境活動を「エコ~るど京大」という名のもとで再開した。私自身は、教員の立場だが、多様な専門性や関心、バックグラウンドを持つ学生さんたちを中心に、社会人も加わり、様々な取り組みを行っている。ある日、そこに新しい学生メンバーが加わったのだが、聞くと高校のときにSDGsについて学んでおり、大学ではもっと深められると期待していたと言う。ところが、京都大学では全く気配がない。その声に突き動かされ、私たちは、SDGsなどを出発点に、持続可能な生活を探求する「持活(じかつ)」プロジェクトを立ち上げることとなった。17ゴールと169ターゲットという大きな壁を前に、手探りの日々が続いた。なかなか具体的な活動の方向性が見えない中、何はともあれ動いてみよう!と始めたのが「一日一SDGs」トライアルである。エコ~るど京大や研究室のメンバーがそれぞれ、SDGsの17ゴールにまつわる行動を、一日一つずつ考えて実践し、記録しようというもの。17日後、まがりなりにも17ゴール×約20名の実践例が集まってきた。苦戦した目標もあったが、それらについて議論したり、実践できることはシェアして継続したり、トレードオフ(あちらを立てればこちらが立たず)の関係にあるゴール間の解決策を検討したり、他者にも広げるためのイベントや教育プログラムにしたり・・・活動は様々な方向に発展していった。ここから学んだことは、SDGsの中身に関することだけではない。知識を得ることや議論も重要だが、見切り発車であっても、小さくても、具体的な行動を起こすことが、取り組み推進の一歩になり得るということを実感した。今、環境問題を含む様々な社会課題について、意識と行動のギャップが指摘されている。知識はだいぶ行き渡っており、意識も高まっているものの、行動変革に至らない・・・その課題解決のヒントが、この経験からも得られたと感じている。
 学生さんたちとの活動に刺激を得て、新たなネットワークも立ち上げた。1,300年の歴史を持つ京都には、持続可能性についてのヒントが多くあるに違いないと、2019年に「京都超SDGsコンソーシアム」というネットワークを立ち上げたのである。京都大学、京都市に加え、多様な民間企業約20社がメンバーとなり、持続可能な社会の実現に向けた、学び・議論・実践に取り組んでいる。中でも力を入れているのが、中山間地域の活性化だ。多くの自治体や地域が、持続可能性の危機にさらされていることは、誰もが知るところだろう。実は、京都市内にもそのような地域がある。私たちがフィールドに選んだのは、1,300年前に桓武天皇が平安京を造都するにあたり、その材を求めたとの伝承が残る京北地域だ。林業で知られ、以前は1万人を超えていた人口が、いまや半減以下。持続可能性の危機にさらされている典型的な里山だ。廃校も多く生まれており、私たちは、その中の一つに少し手を加え、京都里山SDGsラボ「ことす」として運用を始めた。社会課題の解決に向けた研究・教育・社会貢献・事業活動の創成拠点、いわゆる「SDGsバレー」とすべく、様々な試みを始めている。京都超SDGsコンソーシアムには、全国・世界規模の企業も名を連ねるが、どこも何らかの形でコミットしてくださっている。
 全国の中高生や留学生を含む学生さんとの活動も、積極的に「ことす」で行うようにしている。その中で得られた手応えからは、ポストSDGs時代に向けた示唆も得られる。私たちには、自分で何かを作って生きることができるという実感、自分が大切に思う何かを持続させたいという熱意、自然や仲間に囲まれて心を緩めるという時間が、大変有効であり、それは里山では絶対的に得やすいという事実だ。
 今回は、消費者をテーマに話を進めてきたが、里山の住人は、生産者でも消費者でもあり、良くも悪くも自然の一部でもある。移住しなくとも、市街地から1時間もあれば里山の体験ができるというのは、大変恵まれた環境だ。進化した義務教育で基礎知識を学び、具体的なプランがなくとも、空き時間に里山に向かってみて頂きたい。その一歩が、きっと、自分自身や、世界を変える何かにつながるに違いない。