メールマガジン

コラム

特定非営利活動法人 岡崎まち育てセンター・りた 事業推進マネージャー 三矢勝司

2022.11.24

ファシリテーションことはじめ

1.ワークショップと会議の違い
 ワークショップ(写真1)とは、創造的な対話の場のことである。これに対して「会議」は、およそ決まった結論があり、この結論に対して意見を述べる形式がとられ、どちらかというと会議主催者が提示する結論に対して異論や意見が出ないことが望ましいとされる。一般的に、会議の主催者と参加者には上下関係が想定されており、上位に立つ主催者から下位におかれた参加者への意思伝達、説明、調整や同意に向けて場が進行される。
 これに対して「ワークショップ」は対局的な世界観をもっている。「ワークショップ」では、仮に仮説となる結論、たたき台があったとしても、それに対して自由に意見を述べることが期待されている。ワークショップの参加者から次々に自由闊達な意見が飛び交い、当初想定されていた結論(たたき台)が解体され、昇華し、新しい結論が発見され、みんなの力で新しい結論を生み出すことが望ましいとされる。ワークショップの主催者と参加者には水平的な関係が想定されており、お互いフラットな関係で、建設的な意見や提案が飛び交い、場が進行される。
 つまり、垂直的なコミュニケーションの場としての「会議」と、水平的なコミュニケーションの場としての「ワークショップ」という違いがある(図1)。

2.ファシリテーション
 このようにいうと、行政職員の方々からは、市民を巻き込んだワークショップを巡り「市民と行政が水平的な関係で語り合えるわけがない」という反論が出るかもしれない。実際、権力をもつ行政と、そうでない市民の対話は難しいようにもみえる。例えば、都市開発を巡って、開発を進める行政と、それに対して異を唱える市民、といった形で、行政と市民が対立することすらありえることであり、工夫をしなければ、対話にはなりえないだろう。
 そこで登場するのがファシリテーターである。ファシリテーターは対立を対話に変える。ファシリテーターとは「ファシリテーションの技術を使って、創造的な議論の場を企画運営する人」を指す。「ファシリテーション」は、ファシリテート(facilitate)という英語の名詞形であり、ファシリテートは直訳すると「〇〇することを容易にする」という意味である。ここから転じて、ワークショップをファシリテートするというのは、日本語に変換すると「創造的な対話をすることを容易にする(転じて、議論を活性化する)」という意味となる。
 ここで、私が読者の皆さんに伝えたいのは「前提として人間は、創造的な対話をする能力をもっており、むしろ、創造的な対話をしたいという根源的欲求を持っている」という原理である。人間にはふつふつと湧いていく思いやアイディアがあり、集まって自然体で語り合えば、創造的な議論になる。ところが、お互いが気兼ねなく語り合える関係でないとか、下手なことを言ったらまずい、という何かしらの問題が存在することで、その思いが押しとどめられ、思考停止に追いやられてしまうことがある。
 換言すると、人間が本来備えている創造性の発揮を止めないようにする、創造性の発揮を容易にするのがファシリテーションの技術(表1)である。例えば都市開発を巡って、市民も行政も良い物にしたい、いい街にしたいと考えているはずであり、創造的対話のパートナーとなることは理論的には可能である。

3.ワークショップ成功のためにファシリテーターが考えること
 ファシリテーターは「どのようにしたら、人々は気兼ねなく、自然に発言をはじめ、他者との対話を始めるだろうか」とか「今回のワークショップで得たい成果、目標に到達するために、どのような手順で人々に情報を共有し、議論を展開すればよいだろうか」ということを事前に考える。このため2時間のワークショップの企画(写真2)について、6時間以上の検討を重ねることは多々ある。
 日時や会場、参加者構成、タイムスケジュール、ワークショップの進行をアシストする資料(一番簡便なツールは付箋紙であり、より高度なツールとしてはワークシート等のグッズを用意する)、当日の役割分担、ワークショップ当日に参加できない人々の意見を集める必要はないか(あるとすればどうすればよいか)等、多岐にわたって企画検討と準備を進めていく。
 これは私の先輩ファシリテーターから聞いた言葉だが「ファシリテーターが事前に検討した密度は、ワークショップ当日の議論の成果密度に比例する」。ファシリテーターがワークショップの企画をして、当日の運営をシミュレーションしている段階で「これならいける」と直感するところまで企画密度が高まっていれば、ワークショップ本番がワクワクとした場となることはほぼ決定している。

4.おわりに
 ここまで、ファシリテーションの技術の必要性や可能性を示してきた。「ファシリテーションの技術、すごい!」と思っていただけたら幸いである。「市民と行政の創造的な対話を実現して政策実現の推進を図りたい」と思った方は、プロのファシリテーターを登用するなり、自らファシリテーションの技術を習得して、実践に赴いていただけたらと願っている。

1.jpg

写真1 ワークショップ風景

図1 垂直的なコミュケーション、水平的なコミュニケーション

表1 ファシリテーションの技術あれこれ
・アイスブレイク(参加者同士の関係をほぐす/好きな〇〇は?等)
・体験(体を動かす、現地をみてみる、話を聞いてみる等)
・グループワーク(全体を少人数のグループに分けて話し合う)
・参考情報の提示(成功事例、参考となる図版を準備する)
・ワークショップグッズ(付箋紙にアイディアを書く、ワークシートを準備する)
・アートワーク(物語をつくる、絵にしてみる、作品をつくる)

2.jpg

写真2 ワークショップの企画風景(ファシリテーター、市職員、大学教員など)