メールマガジン

コラム

株式会社ソトコト・プラネット代表取締役 『ソトコト』編集長 指出一正

2022.10.26

関係人口とは

 みなさん、こんにちは。未来をつくるSDGsマガジン『ソトコト』編集長の指出と申します。今回は関係人口について、書き綴ってみたいと思います。
 「観光以上、移住未満」の第三の人口と称される関係人口。いわゆる交流人口でもなく、定住人口でもないイノベーティブな層とも言われていて、そこに住んではいませんが、特定の地域と多様に関わる人のことを指します。2021年3月に国土交通省が発表した「地域との関わりについてのアンケート」によれば、全国にはおよそ1800万人を超える関係人口が存在しています。ぼくは、関係人口の一歩手前の人たちや地域に興味がある若い人たちを含めれば、潜在的にはこれ以上の多さだろうと考えています。
 関係人口をわかりやすく理解するためには、実例が必要でしょう。島根県が2011年より開催している関係人口講座「しまコトアカデミー」はよいお手本の一つです。「"移住"しなくても地域を学びたい! 関わりたい!」をテーマにした「しまコトアカデミー」は今年で11年目。この間、大勢の若い人たちが受講し、島根の関係人口になってくれています。初期は東京、大阪で講座を開いていましたが、ここ数年は広島講座、島根講座までもが立ち上がり、広がりと活況を呈しています。受講生たちは期を超えてコミュニティ化し、島根県内で有福温泉の活性化プロジェクトに参加したり、パン屋さんやイタリアンのレストランを開業したり、金魚の養殖業などで起業したり、UIターンしたりする人たちも次々と現れています。
 和歌山県田辺市の関係人口講座「たなコトアカデミー」は今年で5期目。同市で開催されている若手経営者による創業塾「たなべ未来創造塾」の受講生のみなさんとのコラボレーションにより、着実に仲のいい関係人口が生まれ育っています。東京・青山の国連大学前で行われるファーマーズ・マーケットには田辺市の生産者のみなさんと「たなコトアカデミー」のメンバーたちの協働による田辺市のミカンなどの農産物をおしゃれに販売するテントが定期的に出店されるようになり、人気です。
 奈良県・下北山村では2016年からの関係人口講座「奈良・下北山 むらコトアカデミー」を通して、受講生の若者の成長と、受け入れる村の日常の変化が促されていきました。東京からやって来た若者たちが村内に現れ、歩き、数日間、ときに1か月を滞在するようなことが起き始め、村内にはゲストハウスやコワーキングスペース『SHIMOKITAYAMA BIYORI』がオープンし、若者たちが滞留する空間が生まれていきました。さらに「奈良・下北山 むらコトアカデミー」を受けた女子大学生のひとりが、学生団体『まとい』を結成し、村内には都市部の学生と村の人たちが出会う移住交流体験施設『むらんち』が出来上がりました。また、この講座の1期生である森田沙耶さんは下北山村に惚れ込んで移り住み、宿泊型転地療養サービス「ムラカラ」というローカルビジネスを立ち上げ、話題になっています。
 2021 年から始まった山形県小国町の関係人口講座「白い森サスティナブルデザインスクール」には、2000年代生まれのSDGsや農業、水循環、サーキュラーエコノミーに関心を持つ若い人たちが全国からワイワイと大勢参加しています。
 ここまでご紹介してきた関係人口の講座は、ぼくがメイン講師や監修を務めさせていただいていますが、いずれの講座でも気をつけているのは、受講する若い人たちが、それぞれの地域を「自分が見つけた!」と感じてもらえているかという点です。この「自分で見つけた地域」ほど、関係性が育ちやすいところはありません。講座仕立てでなくても、地域に出会う際の大切な要素となります。
 関係人口のルーツ、それは2004年の新潟県中越地震です。当地の復興に携わった若者がボランティア活動を通して地域の豊かさやこれまで見たことがない美しい風景、そして人々の心の温かさに触れ合いました。東日本大震災でその傾向はますます顕著になっていきます。その土地に「通う」というフレーズが、信頼関係が強まるにつれ、その土地に「関わる」に変わっていったのです。それらを踏まえると、関係人口には約20年の関わりの形態の蓄積があります。
 2022年の現在、関係人口には新しい傾向が見られます。まず、「地域内関係人口」です。これは遠い距離間の関係性ではなく、同じ地域のなかで、まちとまちを行き来する関係人口のことを指します。たとえば栃木県宇都宮市のローカルプロジェクトに、益子町や鹿沼市、大田原市の若者が関わっているようなケースです。「オンライン関係人口」はデジタルやオンラインのプラットフォーム上から、ある地域との関わりを成立させている人たちです。秋田県湯沢市に行ったことがない若者たちがクラウドファンディングを使って湯沢市のりんご農家さんを応援し、そのりんごを使ったクラフトビールを完成させました。「流域関係人口」は山形県の最上川、徳島県の吉野川、福井県の九頭竜川、福岡県の筑後川などといった大きな川沿いに現れた層です。その川の流域に暮らす若者たちが行政の区分をまたぎ、互いのまちを往復しながら、マルシェやリノベーションなど、それぞれのプロジェクトを協力し合い、盛り上げています。
 現在、日本にある1718市町村のうち、約1100の市町村が何かしらのかたちで関係人口の施策を行っているといわれています。この数は非常に象徴的です。関係人口が現れると、何が起こるのか。「まちが幸せになる」、大きくはこのひと言に尽きるでしょう。人口減少のもとでまちが停滞し、生じる「心の過疎」を防ぐために必要なことは、新たな関わりがまちに絶えず起きることです。
 そして、ぼくは「関係人口は数ではなく、粒の論理だ」とずっと話してきています。ひとりひとりを認識し、大切にする粒立ち。これは都市と地方の関係人口の論議だけではありません。わたしたちの暮らす社会のなかで、「そこにある」という、誰もが誰かの存在を認め合えることによる安心感。人は、互いに関わることを楽しみ、それによってウェルビーイング(中長期的な幸せ)度が増すのです。関係人口を理解するうえで大切な視点です。
 関係人口のコミュニケーションは、そこに住んでいなくても、愛情を持って何かがはじまります。都市と地方を分けずとも、これは普段の暮らしのなかで、当たり前にある行動や感情なのでしょう。ロジカルや啓蒙的でなくても、全然いい。 地域に関わることの楽しさが、関係人口から進み出します。