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コラム

中央大学文学部社会学専攻 教授 山田 昌弘

2022.09.27

少子化問題の日本的特徴について

 日本では、ここ数年、出生数が急減している。
 昨年(2021年)生まれた子どもの数は、81万1,604人と発表された(厚生労働省人口動態調査)。コロナ禍であったとはいえ、低下のスピードは加速している。1949年には約270万人、1973年には約209万人生まれていた数が、1980年には158万人にまで低下したものの、1990年から2000年にかけては、120万人前後とその数は安定していた。それが81万人である。20年前、2001年(約117万人)のほぼ三分の二まで減ったのである。これは、30年間、少子化を放置した結果、子どもが少なくなった世代が出産期に入ったからで、今後減少傾向が止まることはないだろう。
 特に地方での少子化は深刻である。2021年の出生数を2001年と比べてみよう。実は、東京都は、20年間でほとんど減少していない(9万8,421人→9万5,402人)。区部ではむしろ増えている。しかし、地方は、秋田(8,874人→4,335人)青森(12,889人→6,513人)岩手県(12,272人→6,472人)の北東北三県は、ほぼ半減。他の地方でも、大都市がない県では、大幅に減少している(例えば、高知6,736人→4,090人)。
 合計特殊出生率(女性1人当たりが産む子どもの数)は低くても、東京など大都市部には、地方から若い女性が流入する。地方では女性差別的慣行が残っている所が多く、まともな職を求め比較的高学歴の女性は大都市に行ったまま戻ってこない。地方では「世間体」意識が強く、若者が自由に恋愛できる雰囲気ではなく、イエ意識が強いのも一因である(沖縄県は例外)。合計特殊出生率がそこそこ平均でも、母数となる若い女性の数が減り続けているため、地方の子ども数が急減するのだ。
 日本の少子化は、「結婚」の減少が直接の原因である。近年低下気味とはいえ、結婚した夫婦はだいたい子どもを二人産んでいる。2020年の30-34歳の未婚率は、男性51.9%、女性38.5%である。子育て真っ最中の男性の半数、女性の三分の一以上が未婚であれば、子どもは少なくなる。また、日本では、未婚の女性の出産が極めて少ないし、そもそも恋人がいない若者が増えている事も調査(出生動向基本調査)から分かっている。
 欧米のように、独身者の一人暮らしが多く、男女交際が活発な国では、保育所を作ったり、子ども手当を出せば、子どもは増える。一人で暮らすよりは、二人で暮らす方が経済的だし、子どもがいれば楽しい。このように欧米では、子育てにお金がそれほどかからない。
 日本で、保育所を整えても、子ども手当を出しても、そもそも結婚どころか交際相手がいない人にとっては、直接何の効果もないだろう。保育所ができました、では、結婚してくださいと言っても、相手がいなければどうしようもない(保育所整備や子ども手当の拡充は当然進めるべきだが、それだけでは効果はない)。
 では、なぜ結婚相手がいないか。そこに、日本特有の事情がある。それは、結婚には、愛情よりも、「お金」や「世間体」が重要と考える人が多いということである。それは、「(生まれてくるであろう)子どもにつらい思いをさせたくない」という家族の感情に基づいている。子どもにお金の面で不自由させたくない、他の子どもが持っているものをお金がないから買えないと言いたくない、大学に行くときにお金を出してあげたいと思えば、将来にわたって相当な収入が確保される見通しがなければ、子育ては無理と考える人が増えるのは当然だろう。
 更に、現在の若者の経済状況は悪化したままである。30年前のバブル経済崩壊後、若者に大きな格差ができた。バブル崩壊前であれば、男性は全員正社員か安定した自営業の跡継ぎで、将来収入が増えることは見込まれた。女性は夫の将来の収入増大に期待して、結婚していったのである。
 しかし、現在、非正規の若者、正社員でも低収入の若者、先行きが見えない自営業の跡継ぎの若者が増えている。特に地方での雇用の衰退は著しい。今では、企業だけでなく、地方自治体も不安定な非正規職員、非常勤職員を大量に雇う時代である。女性はそのような男性と結婚したくないと思うし、近年は、女性にある程度の収入を求める男性も増えている。
 そもそも、欧米と違い、日本の若年独身者の大部分(約75%)は、親と同居している。都会はともかく、地方では未婚の一人暮らし女性は少数派である。親と同居していれば、自分の収入が少なく不安定でも、それなりに生活することはできる。特に女性は、収入の高い男性でなければ、親と同居したままの方がよい生活ができる。そして、収入が高い男性は、特に地方では枯渇している。そんな地方に見切りをつけた女性は、都会に出て収入の安定した男性をみつけて結婚する人もでてくる。その結果、収入が低い未婚の男女が親と同居したまま歳をとっていくというのが現代日本社会の姿なのである。
 このような状況に対して、どのような対策が取れるだろうか。もちろん、若者の雇用を安定させ、収入が増加する見通しをたてるようにすることは必須である。そのためには、女性の差別的取り扱いをやめ、女性も男性と同じように十分な収入をもって働ける環境を作ることが少子化対策として必要である。
 それだけでなく、地方自治体は、今増えつつある中高年親同居未婚者、「80-50問題(80歳前後の親と50歳前後の未婚の子)」へのアプローチとして、親亡き後の将来の生活破綻に備える必要がでてきている。