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コラム
兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科 教授 阪本真由美
2022.06.22
災害発生後に優先して取り組む市町村の業務について ―大規模災害時の避難所対応に着目して―
1 避難所運営をめぐる課題
災害発生後に市町村が優先的に取り組まなければならない業務の一つが、避難所対応です。市町村は、災害時に避難所にどのように対応するのかを地域防災計画や災害対応マニュアル等に定めています。ところが、いざ災害が発生すると、避難所が混雑して施設内に入れない、食料や物資が不足し必要な支援を得られない、避難所の生活環境がよくないなどの問題が報道等により指摘されます。なぜ、避難所問題はなかなか改善されないのでしょうか。
避難所対応がうまくいかない理由としては、市町村の備えが最悪の事態を想定していないという点があげられます。避難所運営が難しくなるのは、地震や大規模な浸水被害が発生するような災害です。これらの災害では、避難者数が避難所受入許容人数を大きく上回ることもあります。当然ながら、避難所対応は厳しい状況となります。なぜなら、避難者に全員に行き渡るだけの食料・物資を備蓄しているわけではありませんし、また、千名を超える人を受け入れ食事や物資を提供することや、一人ひとりの要望に耳を傾け対応することは容易ではありません。
2 最悪の事態を想定した避難所対応の重要性
従って、避難所運営においては受入想定人数を超えるような災害が発生した時にどのように対応するのか、という方針を検討しておくことが大切です。対応策としては、第一に特定の避難所で避難者を受け入れることが難しい場合の二次避難、三次避難先の検討と確保です。例えば、学校の体育館のみを指定避難所としている場合は、教室の災害時の避難先としての利用可否やその時の鍵の管理方法、他の避難所への避難の可能性を事前に検討しておくと、避難所が万一満員になった時にも対応することができます。
第二に、食料・物資配布が避難している人に十分行き渡らないときの対応を検討しておくことです。豪雨災害時の避難を呼びかける緊急メールに、「食料・物資を持って避難してください」という言葉が添えられた事例があります。これはとても良い取り組みだと思います。なぜなら、避難している人の数に見合うだけの食料や物資が提供できないことを率直に伝え、避難している人の協力を得ることにより問題解決方向性を見出そうとしているからです。
また、避難している人への食料・物資提供に際しては、「公平」に提供することが望ましいとはいえ、食料・物資が不足すると公平に対応することが難しいケースもあります。そのような場合に、「先着順」とするか、もしくは高齢者・障害者・乳幼児等の中で必要性が高い人から「優先順」で提供するのかという選択を迫られます。当然ながら、「避難所で提供する物資は先着順です」とか、「体調が悪い人に優先的に物資を提供します」と伝えると不満を抱える人は当然出てきます。それならば、普段から避難所対応が先着順とならざるを得ない、あるいは、食料や物資を避難者全員に行き渡るだけの数を確保することが難しいことがあることを市民に伝えておく必要があります。そうすれば、早めに避難しようと考える人や、あるいは自分で食料・物資を持ち避難する人が増えるかもしれません。
第三に、長期化する避難所対応において、避難している人の生活の質(QOL)を改善することです。市町村の災害対応の備えは、災害発生直後の命を守るために最低限必要とされるものの提供に重点がおかれがちです。例えば、寝具については毛布を備蓄している市町村が多くありますが、床の上に毛布だけを敷いて眠る生活が一週間も続くと体中が痛くなります。したがって、徐々にマットレス、ベッドというように環境を改善し、QOLを上げていく必要があります。
3 避難所対応のリーダーの育成
前段述べたような、避難所運営策をどうすれば実現できるのでしょうか。これまでの避難所運営では、行政を中心に避難所を開設するための体制づくりに焦点がおかれていましたが、避難所は「地域住民」「施設管理者」「避難所派遣行政職員」「避難者」「ボランティア団体」等の、多様な人がかかわる協働の場です。従って、災害が起きた場合は多様な主体との協働の仕組みづくり、例えば地域の人・支援者との協働による避難所運営会議を開催し、そのなかで共通のルールを定め、問題を解決していく必要があります。
また、日頃から避難所運営の知識と技術を持つ人材を、職員や地域住民のなかに増やしていく必要もあります。避難生活におけるQOLを向上させるためのノウハウのなかには、過去の災害対応の経験から得られるものもあります。そのため、過去の避難所運営から学ぶ場を設けるとともに、いざというときに相互に助け合える、避難所運営の専門的な知識を持つ人材育成の仕組みが必要です。国(内閣府)は、新たに被災者支援制度拡充に向けた取り組みをスタートさせています。これらの場を通して、あらゆるセクターの人が避難所運営の知識や技術を高めることが、今後の防災対策には求められます。