メールマガジン
コラム
高崎経済大学地域政策学部 大学院地域政策研究科長・教授 櫻井 常矢
2022.05.25
協働による地域づくりと自治体職員の役割
1.地域コミュニティと自治体職員のいま
各地では、市民との協働を重点政策とした取り組みが進んでいる。近年の特徴としてはまた、従来からのNPO・市民活動から地域運営組織(RMO)等の地域コミュニティを協働のパートナーに位置づけていることも注目される。高齢化・人口減少が進むなかで、独居高齢世帯や空き家の増加、自然災害等々、地域の暮らしをめぐる課題が深刻化している。一方で、独居高齢世帯の見守りは民生委員などの近隣住民が支えているように、地域課題の多くが実は地域コミュニティの力がなければ解決できないものでもある。決して行政の力によってのみ解決できているわけではない。市民と行政との協働が求められる大切な理由がここにある。とは言え、担い手不足が顕著なように、解決主体となるべき地域コミュニティの衰退もまた現実である。地域は、今こそ力を発揮しなければならないのにもかかわらず、それに対応できずにいるという矛盾した状況にある。
他方、こうした政策課題に取り組む自治体職員の現状を見つめてみる。地方分権改革は自治体職員一人ひとりの働き方や能力をどのように変えたのか。効率的な行財政運営と職員の能力が高まることとは必ずしもイコールとは言えない。この間の行財政改革は、予算の縮小、職員の減員など効率化という名の「削減」であり、むしろその変化に耐えることを職員は強いられてきた。職員の減員にもかかわらず業務内容の見直しが十分に行われないことで、各人の精神的・身体的負担も増しつつある。その上、首長のマニフェストが重視されるなかでは、通常のルーティーンに加え新規事業が数多くのしかかり、一層現場の職員たちの負担感、疲弊感が蔓延している。削られる訓練、我慢する訓練は受けていても、極めて短期間のうちに結果を求められるなかで、試行錯誤の時間と経験が少なくなっている。ましてそうした時間を最も要する地域コミュニティとのかかわりなどは、自治体職員のノウハウとしては実に乏しい。
2.自治体職員のシゴトを振り返る
地域コミュニティにかかわる自治体職員に求められることは、「地域活動に積極的に参加する」といった前のめりの意識改革ではなく、地域と行政との間にある従来までの関係構造を俯瞰した気づきである。例えば、先進事例と評される地域を訪問し、地域リーダーたちにその頑張りの理由を問うとき、「市役所に言われたから」、「交付金をもらったから」を理由にされることが少なくない。振り返ってみれば、行政は地域に何らかの事業活動を促す際、そのための要綱を整え、交付金を予算化し、組織づくりや活動のマニュアルを用意し、市民に動員をかけての説明会を開催して、地域の取り組みを作り出す。所管課や事業の名称こそ異なっても、おおむねこのような行政の働きかけが繰り返されてきた。ここに至る一連の姿を見て、地域を行政依存と語る自治体職員もまたそこにいる。地域は、本当に自ら依存しているのだろうか。
こうした両者の関係をふり返ってみると、取り組もうとする事業活動が「なぜ必要なのか」を考える機会が少ないことに気づく。「何のために(=目的)」を自ら考えることのないままに、「行政に言われたから」との理由で取り組んできた経過がある。こうした関係の蓄積を通して、地域が自らの知恵と工夫で地域活動の内容を組み立てたり、課題解決を進めたりする主体とは成り切れずにいる状況を理解しなければならない。なぜ必要なのかを考えもしない市民がいるのではなく、考えさせない行政がいるのではないか。先に必要な事業活動(=答え)を提示することで、地域・市民を悩ませることのないこうした自治体職員のかかわり方や仕事の仕方が、地域の自治の力を奪ってきたとは言えないだろうか。
3.協働による地域づくりを進めるために
地域づくりとは、その成果をすぐに可視化できるものばかりではない。とりわけひとづくりは、そこに暮らす人びとの時間をかけた意識的な歩みが欠かせない。ひとは、自分の頑張りに対する周囲からの承認を得ながら存在意義を見出し、地域の大切な人材=担い手となっていく。各地で深刻な担い手不足の解消は、この丁寧なプロセスを経ずして現実のものとはならない。そのように見れば、取り組むべき活動の内容やマニュアルをあらかじめ行政が用意し、説明会の開催から始まる一連の流れにはやはり違和感がある。与えられる「サービス」によってではなく、地域自らの努力を通じて成し得たという実感こそが周囲の人びとをさらに巻き込み、面としての地域力へと結び付いて行く。自治の力を奪うかかわりではなく、このように地域の課題解決力を高めるかかわり=エンパワーメント支援が求められる。
協働とは、お互いが果たすべき役割とは何かを問うことである。地域コミュニティについて言えば、ここまで述べてきたように従来までの行政のやり方を変えなければ、地域もまた変わり切れずにいる。人口減少社会を前に地域は新たな取り組み方や変化を求められているが、自治体職員が自分たちの役割や仕事の仕方をそのままにして、果たして対等な関係といえるのかどうか。新たな地域づくりを促しながら、そのプロセスを通してまずは自治体職員の自己変革を追求することこそ重要なのではないだろうか。