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コラム

明治大学政治経済学部 地域行政学科長・教授 牛山 久仁彦

2022.02.24

人口減少社会における自治体議会の重要性

1.地方分権と地域政治の意義
 地方分権の推進は、自治体の権限を拡大し、自治体行政が果たすべき役割と責任を増大させることとなった。しかし、その意味を自治体政治にかかわる人々は、いや地域住民は理解しているのであろうか。このところ、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、地域住民へのワクチン接種や定額給付金などの国の施策にふりまわされ、自治体は下請けのように使われているだけだという声を聞くことが多い。確かに、最近の中央政府の自治体に対する対応は、地方分権などなかったかのようなふるまいも散見され、自治体関係者の嘆きも大きくはずれたものではないかもしれない。
 しかし、その一方で、新型コロナの感染拡大をはじめ、現在日本が直面している地域社会の課題は、自治体のあり方を問うているのではないか。人口減少、少子高齢化、激甚災害等への対応のみならず、今後の自治体の組織や財政のあり方についての地域の選択が求められている。
 いうまでもなく、それらを決定するのは、自治体において展開されている地域政治である。自治体は、公選の首長と議会という制度に加え、住民の直接参加制度も国政に比べて格段に整備されている。そして、そこでの決定が、住民に対する政策のアウトプットとして提供されることになる。ここでは、とくに自治体議会が果たす役割について考えてみたいと思う。

2.人口減少社会と自治体議会
 周知のごとく、日本は人口減少社会に突入し、深刻な少子高齢化に悩んでいる。国立社会保障・人口問題研究所によれば、日本の総人口は、長期の人口減少過程に入っており、「平成 52(2040)年の 1 億 1,092 万人を経て、平成 65(2053)年には 1 億人を割って 9,924 万人となり、平成 77(2065)年には 8,808 万人になる」と推計されている(「日本の将来推計人口(平成 29 年推計)」)。重要なことは、高齢者人口割合が長期にわたって増大し続けることである。平成 54(2042)年をピークに高齢者人口が減少するにもかかわらず、 50 年間老年人口割合が増加を続けるのは、年少人口、ならびに生産年齢人口の減少が継続するからだと解説されている。
 国は、こうした状況に対応するため、地方創生を掲げ、全国の自治体にそのための具体的な戦略の策定を求め、現在もさまざまな措置が講じられている。しかし、その効果がどの程度現れているのか、人口減少は緩和されていないのが現状である。確かに自治体は、国の総合戦略を「勘案」して政策に取り組み、国の補助金等を利用して事業を実施することに努めてきた。しかし、問題はその中身である。
 各自治体の地方創生戦略は地域の実情に見合ったものとなっているのか、地方創生に有効な手段を講じることができたのか、自治体行政の課題は多い。行政側の評価への取り組みもさることながら、議会がもつ役割は重大で、最後にその方針を承認し、決定した責任は大きい。
 20年ほど前に、米国国務省のインターナショナル・ビジター・プログラム(現在のインターナショナル・リーダーシップ・プログラム)に参加する機会をいただき、全米各地の自治体を訪問したが、その際に、政策評価への取り組みで米国内でも注目されていたオレゴン州を訪れた。ワシントンで連邦から表彰されたという政策評価の担当者にヒアリングを行った際、さぞかし政策評価を誇らしく語るのだろうと思っていたが、彼が語ったのは、「政策を評価する基本は、議会にある」ということだった。政策を決めるのも、評価するのも議会で、彼らはそのための評価結果やそれを導く手法を開発し、わかりやすく議会に示すことだというのである。担当者の個人的な意見かもしれないが、あらためて議会の重要性を再認識させるような言葉であった。
 日本が直面している状況の中で、自治体議会はそうした役割を果たせているのであろうか。先にみたように日本の人口減少や少子高齢化は深刻で、人口規模や地域経済の状況、財政力など、地域間の差は極めて大きい。そうした中、国の地方創生戦略を勘案するだけで有効な政策が打てるはずはない。行政が提案する政策は、地域社会において有効性をもっているのか、また結果として成果をもたらすことができたのかを、議会が入り口と出口でしっかりと議論しなくてはならない。当然、議会からの自発的な政策提案もありうるであろう。
 地方分権は、自治体行政の権限拡大をめざし、対等な国地方関係を指向するものである。そして、それは自治体の長の力を増大させることになり、それが正しい方向に進んでいるのかを厳しくチェックする必要がある。それが議会の重要な役割なのである。

3.新型コロナ対策と議会の責任
 このコラムを書いているのは、オミクロン株による新型コロナ感染拡大第6波の真っ最中である。自治体行政もさまざまな困難に直面し、非常事態宣言やまん延防止措置の発令をめぐって対応に苦慮している。それでは、新型コロナの感染が拡大する中で、議会は、どのような対応をしてきただろうか。
 しばしば聞こえてくるのは、感染拡大を受けて一般質問を取り止めたとか、行政の苦境を慮って質問を控えたという話題である。地域住民は、感染拡大、経済、ワクチン接種など、さまざまな面で不安を抱え、自治体の動きに注目している。だからこそ議会は、むしろ活発に活動し、住民の信託に応えるべきではないのか。もちろん、オンライン会議の開催方法等法制度についての課題はあるだろう。問われるのは、議会が住民の不安とニーズに応える努力と工夫をどれだけしたのかということである。
 自治体議会が地方分権の下で取り組んできた。議会改革の真価が問われている。