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コラム

総務省地方財政審議会 会長 小西 砂千夫

2022.01.26

自治体の自律的な財政運営~制度と最新の動向~

 JIAMのこの研修では、地方財政制度の構造を深く学ぶことで、自治体の財政運営において必要な知識を習得できることを目指している。財政等担当者は、財政運営の見通しを示さなければならない。その際に求められるのが、制度リテラシーともいうべきものである。
 基本は、地方交付税(および臨時財政対策債)の総額がどのように決まるかの論理である。地方交付税法第6条は、第1項で「所得税及び法人税の収入額のそれぞれ100分33.1、酒税の収入額の100分の50、消費税の収入額の100分の19.5並びに地方法人税の収入額をもつて交付税とする。」とある。すなわち国税5税収入の一定割合ないしは全額としている。これは地方交付税の法定率(交付税率ともいう)を定めた規定である。しかし、国税収入にリンクして総額が決まるという理解は早計である。
 地方交付税の前身は、昭和24年のシャウプ勧告に基づいて、翌年度に創設された地方財政平衡交付金である。それは、財政需要を見積もって財政収入との差額を交付する財源保障型の交付金とされた。世界のどの国にもない制度を勧告したという意味で、驚くべき発想であった。
 地方財政平衡交付金は、占領統治が終了し、昭和29年度に地方交付税に改組された。そこでは、先の条文のように、国税収入の一定割合を地方の「持ち分」とすることに改められた。その結果、「本来地方の税収入とすべきであるが、団体間の財源の不均衡を調整し、すべての地方団体が一定の水準を維持しうるよう財源を保障する見地から、国税として国が代わって徴収し、一定の合理的な基準によって再配分する、いわば『国が地方に代わって徴収する地方税である』」という意味で、地方交付税は、依存財源でありながら、地方の「固有財源」と位置づけられた。
 と同時に、財源保障という考え方は維持された。地方交付税法は、「運営の基本」を定めた第3条の第1項で「総務大臣は、常に各地方団体の財政状況の的確なは握に努め、地方交付税の総額を、この法律の定めるところにより、財政需要額が財政収入額をこえる地方団体に対し、衡平にその超過額を補てんすることを目途として交付しなければならない。」として、財源保障の性格を明示している。
 そうなると、地方交付税の制度理解でもっとも重要なのは、地方の財政需要のうち、どの部分が財源保障の対象であって、どのような考え方で捕捉されているか、ということになる。それが制度理解の基本であって、そこを出発点にすると、体系的に知識が身についていくこととなる。

 地方の財政需要は、シャウプ勧告では、個別団体ごとに見積もって積み上げていくことが想定されていたが、実務的にはそれは不可能であった。そこで、法制度を創設する際に、以前から存在していた地方財政推計を基に、地方財政計画として法定する(地方交付税法第7条)こととした。
 地方財政計画の歳出は、国の予算と整合的に捕捉されなければならない。先日も、総務省から「令和4年度地方財政対策の概要」が公表されたが、その日付は12月24日であった。それは、令和4年度の政府予算案の閣議決定日である。国の予算の骨格が決まったことで、地方の財政需要の柱の1つである補助事業が決まる。国の予算における地方向けの補助金が、適切に執行されるためには、その補助裏を含めて、地方財政計画の歳出に補助事業費として見積もられて、それと同額の財政収入が確保される必要がある。
 地方の財政需要のもう1つの柱は、給与関係経費、すなわち人件費である。人件費については、地方財政計画上の定員と国家公務員に準拠した給与水準や諸手当を勘案して見積もられる(裏を返すと、自治体の人件費の実需要に基づくわけではない)。近年では、会計年度任用職員の人件費も、一定の枠として積算されている。さらに、過去の地方債の発行実績等を基に公債費が見積もられる。単独事業については、一定の積算根拠を基に、一種の財源枠として「枠取り」される。
 このようにして積算された地方財政計画の歳出と同額の歳入を確保するように、地方交付税および臨時財政対策債が決定される。令和3年度の地方財政計画の策定段階では、コロナ禍で国税・地方税が大幅に減額することが想定されていた。交付税の原資が減っているので、臨時財政対策債が大幅に増えたものの、地方税の減収を補うだけの総額が確保されている。令和3年度は、地方財政の財源保障機能の効用が実感できた年度といえる。
 そこまで理解できると、次に令和4年度はどうなるのか。令和3年度の国税・地方税は、政府が見通したほどの減収にならなかったが、そのことが、地方交付税の制度運営にどのような影響があるのか。また、そのような総額の動きが、個別団体への配分結果にどのように反映されるのか、と関心が広がっていくはずである。そこに、財政担当という仕事の奥の深さがある。財政の仕事を任されたのなら、是非、そこに到達していただきたい。