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コラム

早稲田大学電子政府・自治体研究所教授 岩﨑尚子

2021.12.22

「地方行政のデジタル化」

 早稲田大学電子政府・自治体研究所では2005年から世界のICT先進国64か国を対象に,デジタル政府ランキングを発表している.このほど,「第16回早稲田大学世界デジタル政府ランキング2021」を発表した.このランキングは,デジタル政府の進捗度を主要10指標で多角的に評価しており,デジタル社会への貢献が期待され,世界の関係機関からも注目を受けている.
 今年のランキング結果で,日本は世界9位となった.1位:デンマーク,2位:シンガポール,3位:英国,4位:米国,5位:カナダ,6位:エストニア,7位:ニュージーランド,8位:韓国,9位:日本,10位:台湾と続く.日本は前回の7位から2つランクを落とした.
 過去16年にみる世界のデジタル政府の進展,総合ランキング推移,主要国のデジタル庁等によるデジタル政策,注目の新潮流や,提言などのテーマをはじめ,日本のデジタル化が遅れた原因,長短所,デジタル政府の意義と未来像を国際比較で論じている.詳細は是非研究所のWEBサイトでご覧頂ければ幸いである.
 改めてこの1年を振り返ると,日本では,国や地方自治体のデジタル化の司令塔ともなるデジタル庁が9月1日に発足,デジタル社会形成基本法が制定された.本法は,デジタル社会が日本の国際競争力の強化や国民の利便性の向上に貢献し,少子高齢化等の課題解決にきわめて重要な役割を果たすとして,基本理念や施策の策定に係る基本方針,国,地方公共団体及び事業者の責務等が定められている.
 このようにデジタル関連政策や新庁の設立等目まぐるしい進展が見られた.一方で,デジタル技術を活用した住民への迅速な経済的支援の実施や,地域での感染状況やそのリスクの把握といった取組を行ったものの,他国と比較すると日本のデジタル戦略の遅れが指摘された.多くの国がコロナ禍で,給付金支給,マスクの需給対策,感染状況の把握・通知,教育・医療,診療などでデジタルが活用され,新しいビジネス,サービス,アプリケーションが誕生した.
 今回のコロナ禍でみえてきた日本の課題は,①官庁の縦割り行政,②電子政府(中央)と電子自治体(地方)の法的分離,③地方公共団体の財政・デジタル格差,④デジタル政府の推進役となるICT人材不足が顕著である.
 すでに高齢化率が約29%に上る日本では,将来の少子・超高齢・人口減少社会を見据え,デジタル活用による官民連携やデジタル・イノベーションを進めていくことが最も効率的である.さらに,デジタルを併用することにより,行政のコスト削減と効率化はもとより,国民生活の利便性向上にも大きく寄与することは間違いない.デジタル政府ランキングのトップグループに位置するシンガポールでも,将来の高齢化に備えたリスク対策として,デジタルの利活用を国策で積極的に進める.
 それでは地方自治体は何をすればよいのか.まず,中央と地方,都道府県と市区町村の連携だ.各自治体のデジタル投資も,ガバメントクラウドの利用やシステムの標準化・共通化で縮小できるはずであり,行政コスト3割削減の低コストガバメントにも一翼を担う.行財政改革はデジタル政府推進の要である.そして,自治体戦略2040構想で言及されたように,将来の行政職員数の減少への対策として,AI等先端技術を活用し,職員の働き方改革や効率的な行政運営を進めることである.テクノロジーの活用で,住民サービスの質の向上に寄与する職員の再配置も可能になろう.
 一方,住民側のデジタルの利活用やICTリテラシーの向上にも手助けが必要である.この点に関しては,民間の協力を仰ぐことも一考だ.電子申請のやり方,スマホの活用等,今後マイナンバーカード機能のスマホ搭載を見据え,高齢者に多くみられるICT弱者に対する社会包摂が必要となる.高齢者のスマホの所有率,利用率は高くなりつつあるが,利活用率はまだまだである.
 今後,日本は,人口減少社会に突入し,DX投資が出来る自治体とそうでない自治体に地域・経済格差が広がる.確実に起こりうるリスクに対して,デジタルは解決策になる意識変革がまず必要だ.情報システムの標準化・共通化,マイナンバーカードの普及促進,自治体行政手続きのオンライン化,AI・RPAの利用促進,テレワークの推進,セキュリティ対策の徹底,地域社会のデジタル化,デジタルデバイド対策,BPRの徹底,オープンデータの推進,官民データ活用推進計画策定など取り組み課題は山積している.
 岸田政権の所信表明で言及された「デジタル田園都市国家構想」では,主役は地方,とうたっている.「地方創生テレワーク交付金」「地方創生拠点整備交付金」と合わせ,「デジタル田園都市国家構想関連」の交付金は計660億円が計上される.デジタル化のチャンスに地方自治体は積極的に関与すべきである.住民に最も身近な地方自治体の役割は大きい.中央政府と地方公共団体の有機的な連携を早期に模索し,住民が満足できる行政サービスを提供してはじめて,"だれ一人取り残さない社会"が実現できる.