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コラム

オフィス・ウスイ代表 臼井 純子

2021.10.27

「提案を実現するための技法」

 新たな事業の立ち上げ、既存の事業の方向性の修正、拡大など組織内でなにかを始める時には、必ず「企画提案」作業がつきものである。担当者は企画提案のためのプレゼンテーション資料の作成に頭を悩ませる。昨今は地方自治体においても、依頼・自主を問わず提案書の作成、企画立案が必要となる業務が増加しており、経験年数に関わらず企画書の作成が要求される場面が増えている。過去においては、企画提案業務は企画課の専任業務だったが、現在は、水道・下水道、消防、健康・福祉などのインフラ事業においても「企画提案」能力が要求されてきている。これは、限りある地方自治体の経営資源である「人・もの・金」をどう適切に配分していくかが最優先課題になってきているからである。コロナ禍を経て、これからの限りある予算の配分を巡って部門間競争が起きてくる時代には、提案書の作成能力とプレゼンテーションスキルの良し悪しが、その結果を左右することになるかもしれない。
 
 一般に提案には、提案資料に共通する必要項目として、提案の問題意識、目標、問題とその解決策、スケジュール、体制、費用、費用対効果が挙げられる。この中で一番大事なのは解決策の内容であり、知恵を絞って他の良い事例を取り入れると共に、想定問答の答えを用意することで、内容を磨き上げることが求められる。日頃自分が意識している問題の解決策に対して深く堀りさげ、調査をし、あらゆる可能性を追求することで知識が増え、表層的ではなく、深く考える習慣が身に付く。この経験がプレゼンの際に役に立つ。
 実際にプレゼンをする時には、誰が意思決定者であるか、キーパーソンは誰なのかを認識してプレゼンに臨むことが重要であるが、自分の想いを形にした提案は、どんな質問がきても経験値に支えられた強みがある。これが自信につながっていくのである。ただし、独りよがりにならないことに気をつけなければならない。意思決定者の立場で自分の提案を再考してみると、視野が広がり、視野狭窄から抜け出すことが可能になる。くれぐれも忘れてはならないのは、提案の最終目的は、聞き手が説明を理解した上で意思決定を行えることにある。
 
 プレゼン資料を作成する際に気を付けなければならないことは、以下の2点である。まず、提案のコンセプトを明確にすることである。何について話すのか、発表するのかをきちんと考えてタイトルをつけることが重要である。タイトルを見ただけで、提案相手が内容をある程度具体的に予想できるようにする。長すぎるタイトルは出鼻を挫けさせるので、タイトルとサブタイトルに分けることを考える。
 次に大切なのは、「ストーリー」を作ることである。一つ一つの話が次につながるような「流れ」をつくる。コンセプトをストーリーに展開する前に、①目的(何のために?)、②場所・状況(どこで、どのような状況で?)、③提案の対象者(誰に?)、④手段・道具(何を使って、どのように?)、⑤制限時間をしっかり確認しておくことが必要である。

 また、わかりやすい話し方にするためには、滑舌を良くするように練習するのも一考である。一般的に、話し慣れてない人は、語尾が曖昧になる傾向がある。自分は伝えたつもりでも、相手には十分伝わっていないことも多い。そのため、自分が普段どのような話し方をしているのか、一度ビデオに撮るなり録音するなりして、自分の癖を知っておくとよいだろう。話す時の癖は十人十色で、落ち着きのない人、やたら視線が動く人、相手を見ずに勝手に話している人などいろいろだが、どのような癖も直すことができる。まずは「自分を知る」事から始めることをお勧めする。さらに、コロナ禍では、Zoom対応が余儀なくされている。Zoomでのプレゼンの際は、対面よりも一層話し方に気をつける必要がある。滑舌、話すスピードのコントロール、語尾を明確にするなど意識的にすることでより相手に伝わりやすいものとなる。

 一方的に話をせずに、間(ま)の取り方に気を付け、相手の反応を確かめながら話すことも大切である。落ち着いて相手を観察し、時間配分に気を付けて話す。始まりの挨拶と終わりの挨拶をきちんとする。そして、何よりも、資料を「読まない」ことが一番重要であろう。そのためには、読み上げ用の資料を持たずに話せるように練習をして、時間を計り、語尾に気をつけることである。このように進めるためには、資料の準備は少なくとも1日前に終えて必ずリハーサルをすることで、自信をもってプレゼンに臨むことができる。

 最後に、素晴らしい提案を行ったとしても、不可抗力の様々な理由から提案が却下される、企画が「お蔵入り」や「没」になることもあるかもしれない。その時には意気消沈せずに相手の反応をみることで、再提案が可能かどうか、何が問題だったのかなど、反省と再挑戦の道が開けてくる。不思議なもので、提案が断られて始めて、本気でその提案を実現したい自分がいることを発見する場合もある。いずれにせよ、提案書を作成しプレゼンをするということは、年齢、性別に関係なく、提案書を書く前、そしてプレゼンをする前の自分より確実に自分を成長させる経験だと言えるのではないだろうか。