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コラム

JA共済総合研究所主席研究員 濱田健司

2021.09.22

『今なぜ農福連携なのか~「ゆるやか〇〇〇」のススメ~』

 農福連携(「ノウフク」ともいう)とは農業と福祉が連携する取組みであり、具体的には障害を持つ人々が農業生産に従事することをいう(狭義)。農業サイドにとっては、新たな労働力・担い手を得る機会となり、福祉サイドにとっては働く場、就労訓練、より多くの賃金を得る機会となっている。
 この取組みが広がる背景には、恒常的に高齢化がすすみ人手不足にある農業サイドと、障害者の一層の賃金向上と新たな仕事を求める福祉サイドとのニーズが一致することがあげられる。
 元来、障害者等を支援するための障害福祉サービス事業所(障害者施設ともいう)は、街中より市街地周辺の農地や森林などに囲まれた地域に立地することが多い。また近年、こうした事業所の周りでは農業者の高齢化・人手不足もすすんでいる。基幹的農業従事者数は平成27年175.4万人であったが、令和2年には136.3万人と毎年約8万人ずつ減少し、65歳以上が約70%を占めるなど、担い手および労働力不足に歯止めがかからない状況にもある。
 一方事業所においては、障害者が施設内で就労訓練をしたり就労を行ってきた。その仕事内容は菓子製造、弁当・惣菜製造、工業製品等の内職作業、自治体等からの指定管理業務などさまざまであるが、施設内での作業が多く、障害者の賃金は極めて低い状況にあった。例えば、就労継続支援B型事業所で働く障害者の月額賃金(いわゆる工賃)は令和元年度は16,369円となっており、障害者・事業所職員・行政・中間支援団体などの努力により賃金は毎年徐々に向上しつつはあるものの、障害者の自立や社会参加には程遠い状況にある。
 そこで著者は今から17年ほど前に、この二つのニーズをマッチングする農福連携の普及をすすめることにした。研究だけでなく、「点」をつくり「線」、「面」にしていく活動を始めた(詳細はJA共済総合研究所『30周年記念論文集』、農政ジャーナリストの会『農業と福祉 その連携は何を生み出すか(日本農業の動き209)』を参照)。
 最初は、実態調査からスタートし、取組みを広げるべく障害者就労を支援する全国団体とタッグを組むこととした。また障害福祉サービス事業所が資金的に農業に取り組みやすくするように、農林水産省や厚生労働省に事業を整えていただいた。さらにメディアや地方自治体の協力も得ながら、福祉サイドを中心に取組みを広げていった。
 令和元年にはJA全農、JA全中が三か年計画に農福連携の推進に取り組むことを盛り込み、JAグループで農福連携がすすめられることとなった。これを契機に、それまで「点」であった農業サイドの農業者やJAの取組みが、急速に広がりをみせた。
 さらに令和元年4月に、農福連携の取組みをより一層発展させ広めていくために、内閣府において農林水産省・厚生労働省・文部科学省・法務省・内閣府が構成員となった「農福連携等推進会議」が設置され、6月には「農福連携等推進ビジョン」が掲げられた。目標として農福連携の「認知度の向上」「取組の推進」「取組の輪の拡大」などを行い、5年後には取組主体を3000増やすことを目指している。
 また令和2年には経団連・商工会・経済同友会・JA全中・全森連・大日本水産会・セルプ協等、そして農林水産省・厚生労働省・文部科学省・法務省が幹事となる「農福連携等応援コンソーシアム」が設立され、業界団体が農福連携を応援することとなった。農林水産省では(「農福連携等応援コンソーシアム」主催)、実際に農福連携に取り組んでいる障害福祉サービス事業所や農業者や企業、それを支援する中間支援団体などの全国表彰がスタートし、「ノウフク・アワード2020」として令和3年1月に16団体が受賞した。
 つまり農福連携は、第一フェーズとして福祉関係者、第二フェーズは、農業関係者、第三フェーズでは国、国民、地域への広がりを見せている。
 農福連携が目指すのは、農業と福祉の課題を解決するだけではなく、単なるWin-Winの関係でもない。関係するすべてのあらゆる人々や組織そして自然がHAPPY-HAPPYになることである。つまり障害者を含む多様な人々・自然と共に生きることができる社会であり、それは「ゆるやか社会」を目指すものでもある。実は「ゆるやか労働・教育・人間関係」であれば、私たちの暮らしは真に多様で豊かなものになるのである。その理念、手法を示したものが農福連携である。農福連携は、人間でいう最も弱い立場にある人々が、農業を支え、地域を支えるものとなっており、農福連携は取り組むすべての人々が、幸せを感じるものである。
 明治以降導入された政治、行政、教育も、そろそろそのあり方を変えても良い。また農福連携、障害者から新たな生き方、社会のあり方を学んで欲しい。