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コラム

フィンランド大使館 広報部 プロジェクトコーディネーター 堀内都喜子

2021.07.28

フィンランド社会のライフスタイル 家族と子育ての現状

 今年、4年連続の幸福度世界一になったフィンランドも、かつては欧州で最も貧しい国の一つだった。人口も少なく(現在550万人)、天然資源が乏しいこの国では人が一番の資源であり、各自ができるだけ健康に暮らし、能力を伸ばし活かすことが、国の発展に欠かせない。現在、生まれてくる子どもは4割が事実婚から。国際結婚、離婚、再婚、同性婚、移民も増加。家族の形は多様化しているが、未来をつくるカギを人に据えているところは変わらない。時代に合わせて変化させつつも全員を対象に、基本的な教育や福祉サービスを提供している。
 フィンランドが貧しく乳幼児の死亡率が高かった1920年代、日本でも注目されている母子の健康を見守るネウボラの前身が誕生した。現在は妊娠期から子どもの就学前まで定期的に健診やワクチン注射などを行う。面談は個別に毎回30分から1時間かけ、最近は母子だけでなく父親や兄弟も含めて家族全体を対象とし、利用率も100%に近い。
 フィンランドには里帰り出産も、3世代同居もほとんどない。しかも出産時の入院はわずか1-2日。だからこそ出産直後に父親が育休をとることは重要で、現在の取得率は8割。赤ちゃんと父母が家族の基盤をいかに早く作るかということを大切にしている。
 さらに、配偶者控除をなくし男女共働きを当たり前とするフィンランドでは、役割分担意識を変え、保育や家族支援制度を整え、働き方に柔軟性をもたせることで、男性も女性も仕事と家庭を両立しやすくしてきた。今は就学児童が共に過ごす時間は父親の方が母親よりも長くなっている。
 そんなフィンランドも、かつては家事と子育ては女性の仕事と考えられていた。60~70年代に女性の社会進出が進んだが、待機児童や少子化の問題もおきた。1973年に各自治体に保育園整備の義務を明記した保育法ができ、80年代には親の就労の有無に関わらず全ての子どもには保育を受ける権利があると明記された法もできた。現在、地域によっては希望の保育所に入れないこともあるが、通常の入園時期には申請から4か月以内、急な都合で保育が必要な場合は2か月以内に自治体は保育の場所を提供しなければならない。
 デジタル化の進むフィンランドでは、保育利用の申請も全てオンラインで済み、決定の連絡も手続きもメッセージや電話のみ。フィンランドのオンラインの公共サービスの利用率は世界トップクラスを誇る。保育に限らず、転入出、様々な公共・民間サービスの住所変更も一度オンラインで入力するだけで全て済む。窓口に手続きに出かける必要も、何度も同じことを入力する必要もなく、手紙が送られてくることも少ない。60年代からマイナンバー制度が始まり、銀行口座、税金、医療や薬のデータも紐づいている。それがコロナ禍では大きな強みとなり、様々な手当支給もワクチン接種も大きな混乱なく行われている。
 とはいえ、コロナは人々の生活を一変させた。もともと週に一度以上の在宅勤務をしている人たちは3割いたが、感染拡大に伴い6割になった。統計によると欧州で最も早く、多くの人たちが在宅に移行したそうだ。現在は在宅が定着し、オフィスの縮小や移転、郊外への移住やセカンドハウスの購買が増加している。
 子どもたちの生活も変わった。2020年春、突然の対面授業の中止。しかし、その二日後には遠隔授業が始まった。子どもの教育を受ける権利を確保し、生活のリズムを整えて日常生活をおくることが、家族全体のウェルビーイングに欠かせないと考えられたためだ。見切り発車ではあったが、試行錯誤を重ねて結果的にはうまくいったようだ。
 家庭と学校を結ぶ電子連絡帳が普及していたこと、多くは小学1年から自分の携帯電話をもっていることなども遠隔授業がしやすかった背景にある。また、現場に裁量があるため柔軟に対応できた。例えば年齢や家庭環境に応じて学校に来ることを許可したり、自治体によって希望者に給食の代わりにレトルト食品やパン、牛乳などの食料配布がおこなわれたりした。その後、義務教育は対面中心に戻ったが、急激に感染が拡大した場合や、濃厚接触者が出た時には地域や学校、個別に遠隔に切り替えて対応している。
 コロナによって良い方向に変わったこともある。ここ10年下がり続けていた出生率が、昨年、今年と上昇傾向にある。ワークライフバランスがある程度整っていたフィンランドでも親子一緒の時間が増え、改めて家族の価値を見直すきっかけにもなっているという。一方で、DVや虐待などの増加の問題も聞かれる。課題もあるが、長年培ってきた国や制度への信頼、時代や個にあわせて柔軟に変化してきたことが、コロナ禍でもウェルビーイングの高さにつながったようだ。
 子ども家族をとりまく制度は今後も大きく変わる。この秋からは義務教育が18歳までに引き上げられ、育休制度は来年の法改正が決まっている。新制度は平等と父親の権利に配慮し、母親と父親に7か月ずつの同等期間の育児休暇を保障している。政府にとっては出費増となるが、夫婦にも親子関係にもいい影響をもたらすと期待され、親子の幸せのための投資と捉えられている。