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コラム

株式会社東レ経営研究所 ダイバーシティ&WLB推進部長 宮原淳二

2021.05.26

新型コロナウイルス感染拡大が働き方に与えた影響 

本コラム執筆時、新型コロナウイルス感染拡大(以下感染拡大)の影響で東京や大阪など6都府県に緊急事態宣言が発令中である。昨年から3度目の緊急事態宣言になるが、感染拡大でビジネスパーソンにとって働き方に影響が出たのは、何と言っても在宅勤務であろう。これまでパソコン貸与(台数限定)やセキュリティ問題などが障壁となり遅々として進まなかった在宅勤務が一気に定着した。もちろん、宣言解除とともに在宅勤務実施率が低下する傾向はあるが、かなり浸透したと言えよう。今回、感染拡大が働き方に与えた影響について、働く人の属性面と業務改善を踏まえた生産性向上という2つの視点から話を進めたい。

ここ数年、政府が働き方改革を後押しした成果として、長時間労働の是正や多様な人材の労働参画(女性や高齢者)が進んだ。しかしながら今回の感染拡大では、主に飲食や観光などサービス業で働く非正規の女性が危機にさらされた。このような状況下、世界経済フォーラムが先日発表した日本のジェンダーギャップ指数は2020年報告で120位と先進国の中で最低レベルであった。その理由の一つに男性との経済格差があげられる。夫の収入が家計の屋台骨である家庭が多く、妻は夫の扶養の範囲内で働いていることが要因だ。それぞれの家庭事情はあろうが、国として真の女性活躍を進めるのであれば、正社員の女性を増やし、雇用を安定化させると共に、指導的立場を目指せるよう、キャリア支援を本気で進めるべきだ。それには「男性=家計の大黒柱で女性は家庭を守る」という古い固定概念を社会全体で払拭していく必要があろう。

もう一つの側面は業務改善を踏まえた生産性向上である。こちらはデジタル化の推進が必要不可欠であろう。昨年来、筆者は感染拡大の影響で出張が激変した。ワークライフバランスや働き方改革に関する講演をこれまで数多くの自治体から受託してきたが、昨年の上期は中止や延期で売上が大幅に減少した。しかしながら、ZoomやTeamsといったオンラインツールを駆使し、夏頃にはほぼ全ての講演をオンライン化できた。出張での移動時間もなくなり効率的に仕事が進められている。行政機関でもデジタル化の波は避けられまい。昨年1人10万円の特別定額給付金の支給方法で混乱を極めたのは記憶に新しい。マイナンバーカード普及率の低迷や国と地方自治体でのシステムが共通化出来ていなかったことが主な原因だが、職員2人1組で紙の支給申請書を読み合わせしているシーンは世界的にも"日本=IT後進国"を印象づけてしまった。給付金支給も含め行政サービスのデジタル化は生産性向上の一丁目一番地と考える。効率化で生まれた時間をもっと付加価値の高い仕事へシフトさせる必要があろう。

「コストがかかる」「デジタルに不得手な高齢者はどうするか」などデジタル化に抵抗する人もいて、スムーズな導入は言うほど楽ではないことは承知している。一方で変化対応力の高い自治体では弊社が実施している講演をいち早くオンライン化するなど柔軟性がある。審議会も同様で、リアル会議からオンラインへと移行している。参加する委員からすれば、会場までの移動時間の短縮、行政側は会場手配や大量の資料のコピーや席上への配布、また委員へのお茶出しなど、補佐的な業務が大幅に減る。デジタル化によるメリットは計り知れない。

地方行政のデジタル化は総務省・自治行政局が旗振り役を担っているが、まずはマイナンバーカードの普及率向上が最優先事項であろう。2023年3月末にはほとんどの住民がカードを保有することを目標に掲げている(2021年4月1日時点28.3%交付率/総務省)。個人情報保護の問題など、マイナンバーに対する不信感を持つ住民も一定割合いる中で、どう進めていけば良いか、そのヒントが欧州のデンマークにある。2018年に「デジタル化のフロントランナーになる」という国家戦略を掲げた。デジタルテクノロジーが国家を成長させ、国民の生活を豊かにする、という視点で取り組んでいる。40年以上にわたりデンマークのIT化を担当したKMD社のソレン・ヘンリクセン氏は雑誌のインタビューで、「デジタル化の最も大切なポイントは国民の信頼を獲得することだ」と明言している。伝統的に高度な福祉を国民に提供し信頼を得ていることも後押しとなっているようで、市民ポータルサイトでは苦情申請や離婚手続きまでオンライン化されている。今年9月に創設される『デジタル庁』に大いに期待を寄せており、海外の事例を参考に積極的に推進してもらいたい。

少子高齢化の進展で税収も伸び悩んでいる日本。地方自治法第2条第14項には「地方公共団体は、その事務を処理するに当っては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」と規定されている。コロナウイルスは私たちの働き方を根本から変えるよう促しているようにも感じられる。今こそ、前例に捉われず、新しい働き方に果敢に挑戦すべきだ。