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コラム

甲南大学 マネジメント創造学部教授 前田 正子

2021.03.24

新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態下の保育への自治体の対応について

 東京オリンピックが開催される予定だった2020年は、誰も想定し得ない年となった。突然2月27日には全国すべての小中高、特別支援学校を対象として3月2日から春休みまで臨時休校の要請が出された。
 4月7日に出された新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言の対象地域は、最初埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県及び福岡県の7都府県であったが、4月16日には全都道府県が対象となった。その後、緊急事態宣言は5月31日まで延長されたが、実際に全都道府県で解除されたのは5月25日であった。
 学校は休校となった一方、厚生労働省は休校要請や緊急事態宣言下においても保育園と学童保育(放課後児童クラブ)は「原則開所」という要請を出した。保育所や学童保育は働く親を支える重要な社会インフラだからだ。突然の休校要請と保育所の原則開所、ウイルスの正体もよくわからない状況で、自治体は何が正解か分からず苦悩しただろう。
 それではこのような緊急事態下で保育所はどのように運営されていたのだろうか。そこで筆者は兵庫県の自治体に調査を実施し、県内41市町のうち28市町から回答を得た。回答自治体には人口100万人を超える政令指定都市から数万人規模の自治体も含まれている。
 28市町のうち、通常の保育を継続していたのは10自治体、通常とは違う特別保育を実施していたのは18自治体である。さらに特別保育の実施期間もまちまちである。最も早いところでは休校要請に合わせて3月2日や3日の開始であり、最も遅いところは4月20日開始である。ただし、早くに特別保育を開始した自治体はこの時点では感染者は出ていない。感染者の有無より学校の休校要請と時期をそろえたと考えられる。一方、最も遅い4月20日開始の自治体ではすでに3月頭に感染者が出ている。
 緊急事態宣言の期限とされた5月31日に合わせて特別保育を終了した自治体が10あるものの、それより早く5月23日終了や逆に遅く6月に入ってから終了のところもある。最も遅い終了日程は6月14日である。
 また受け入れ児童の選定や、特別保育の打ち出し方も自治体によって異なる。基本的に「臨時休業」であることを前面に出し、やむを得ない事情の子どもだけ預かりますとしたケース、「なるべく自粛をお願いします」と保護者に依頼したケースもある。逆に保育は通常通り実施し「保育園での感染が心配な場合は自主的にお休みしてください」と呼び掛けたところもあった。
 受け入れた保護者の業種についても自治体によって判断が分かれた。国は保育提供を縮小しなくてはならない場合でも、社会維持に携わる世帯への保育は提供するようにと要請していた。例えば医療従事者や介護関係者及び国民の安定的な生活の確保(電力・ガスなどのインフラ関係)、社会の安定の維持(金融・物流・警察・消防等)、食堂や宅配、ドラッグストアなども生活必需物資の小売りとして含まれている。
 国の例示通りに保育を利用できる保護者の職種を限定した自治体では、厳密にこの職種かどうかを確認するだけでなく、両親が共に指定された業種である場合のみ保育したり、片親のみの指定業種での勤務で保育可能とした場合もある。業種はただの例示にとどめ、やむを得ない保育の必要性がある世帯は利用可能としたケースもあった。一方、他には職種でなく家庭の希望で判断したり、逆に国の指針に入っていた業種であっても保護者に可能な限り利用自粛をお願いしたところがある。テレワーク等在宅勤務についても両親がともにテレワークなら保育利用自粛、片親だけでもテレワークなら自粛と判断が分かれている。
 このように同じ県内の自治体でも特別保育の開始時期も、保育利用が可能な保護者の選定基準もまちまちであった。
 しかもこういった自治体ごとのルールで動いていたのは基本的には公立施設である。いくつかの自治体では公立施設での対応は示した上で、民間施設の対応はそれぞれの施設に任せたところもある。そういった地域では同じ自治体内の民間施設がそれぞれ悩みながらルールを独自に決めており、登園自粛の働きかけや扱いも違い混乱があったと考えられる。
 保護者には自治体間だけでなく、同じ市内でも保育所によって対応が異なり不公平感が生まれただろう。もちろん自治体任せでいいのかと「保育所の行事の扱いなど、国は何らかの明確な指針を示すべき」という意見も自治体からある。
 一方、兵庫県内では「よい子ネット」という個々の保育施設が保護者との連絡を取るためのメールシステムが開設されている。そこである自治体では民間施設に行政側の方針を説明するとともに、保護者に説明するモデル文章を渡し、それぞれの園から保護者に同じ説明文章がメールで行くようにした。公民いずれの保護者にも同じ方針が統一的に示されたことになり、保護者の混乱は少なかったという。
 コロナはゼロにはならず、しばらくコロナ下での保育は続くだろう。東京都港区は詳しく保育所でのコロナの感染状況の疫学調査をし、2020年11月には園内での感染リスクは極めて低いと「区内の保育園における新型コロナの事例報告」を発表している。(※)
 ある施設長は日頃からインフルエンザ対策を含め、衛生管理をしっかりしている施設では、それがコロナ対策となり特別なことをする必要がないと述べる。
 だが最近は変異株が各地で相次いで見つかり、しかも子どもへの感染も見られている。今後何らかの対応が保育に必要になった場合は、今一度2020年の緊急事態下の保育対応の精査が必要であろう。


(※)https://www.city.minato.tokyo.jp/houdou/kuse/koho/press/202011/20201111_press.html