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コラム

日本大学経済学部 教授 石川恵子

2020.09.23

地方自治体の内部統制の考え方

はじめに
 2020年4月1日より、47都道府県と20政令市は、地方自治法に依拠した内部統制の整備・運用を開始した。政令市以外の市町村は努力義務団体として位置づけられた。もっとも今年度は、新型コロナウイルスへの対応が喫緊の課題となり、職員の一人当たりの業務量も増えたことから、制度の施行は受難の幕開けとなった。
 こうした中で、努力義務団体は、地方自治法に依拠した内部統制の整備・運用に対応すべきか否かを逡巡されているのではないだろうか。本稿は、たんなる内部統制をチェックの仕組みの総称としてだけでなく、組織の持続可能性を維持するためのツールとみなして論を展開する。これにより、努力義務団体が内部統制を検討する上での一助としたい。

内部統制とは何か?
 内部統制とは、組織の中に設けられたチェックの仕組みの総称である。例えば、契約事務の場合には、組織内には、担当者から、係長、そして課長へといったようなチェックの仕組みがある。このように、内部統制は、地方自治体の組織内にすでに設けられている。
 もとより、地方自治法が改正されるに至った背景には、契約事務に関連して不適正な経理処理が顕在化したことがあった。不適正な経理処理とは、契約事務に関連して行われた「預け」などである。問題の所在は、不適正な経理処理が前例踏襲で慣例として行われていたことであった。そして、これを防ぐためには、例えば、検品担当者を設け、納品された品物をチェックするという内部統制の見直しを行うことが必要になる。実際、当該問題に関連して、地方自治体は検品担当者を設けるなどの内部統制の見直しを図ってきた。

なぜ、内部統制の見直しが必要か?
 本稿は、たとえ努力義務団体であっても、上述した内部統制の見直しは必要と考える。このように考えるのは、内部統制の見直しの意義が、不適正な経理処理への対応もさることながら、引継ぎのリスクに確実に備えることができることにあるからである。
 人口減少のあおりを受けて、若手の職員を確保することは容易ではない。多くの地方自治体が会計年度任用職員や中途採用の職員により対応している状況がある。また、その一方で、一人当たりの業務量が増加していることにも注視していく必要がある。
 これまで、地方自治体では、主たる業務の引継ぎは口伝であり、前例踏襲で行われてきた。この方法は、将来的に地方自治体の組織の硬直化を招く可能性を高める。ここに、努力義務団体であっても内部統制の見直しが必要な理由がある。

どのように内部統制の見直しを進めるのか?
 内部統制の見直しとは、「業務の流れを可視化して、そこから派生するリスクや対応策、法令等を可視化すること」からなる。その参考になる事例が、滋賀県の湖南市の業務手順書である。湖南市は人口が約50,000人程度の一般市で、2019年度から業務手順書を活用した内部統制の整備・運用を開始した。
 もとより、湖南市が業務手順書を作成した経緯は、ISO9001の認証取得を行うことから始まった。現在、ISO9001 の認証取得をしていないものの、原課の職員が作成した業務手順書がHP上で公表されている。これには、地域住民に対する説明責任の向上の意味がある。さらに、2019年度より、業務手順書は年に2回、4月と10月に原課の職員によって、見直しが行われている。その効果は、極めて明快であり、引継ぎのリスクを抑え、職員が誤った法令解釈をするリスクを低減している。

RPA/AIの活用の可能性
 最後に、内部統制の見直し、すなわち「業務の可視化」がRPAやAIの活用の可能性にもつながることを示したい。いずれも人手不足への対応の1つとして期待されていることは周知のとおりである。とりわけ、RPAは、新型コロナウイルスの影響もあって、今後、実務への導入がますます増えていくであろう。
 RPAの活用事例としては、群馬県の前橋市・高崎市・伊勢崎市の共同事例、富山県の市町村の共同事例、そして山口県の宇部市・山口市・岩国市・周南市の共同事例がある。RPAを活用するために最初にすべきは、業務の流れの可視化である。これは、RPAが活用できる箇所を特定するために行われている。
 また、AIの内部統制への活用も検討され始めている。AIの内部統制への検討事例として参考になるのが、茨城県の水戸市の事例である。水戸市では、2018年から財務会計システムを利用したAIの内部統制への活用の可能性を検討している。AIには機械学習が必要であり、そのための大量データが必要となる。組織内のどこに内部統制に関連するデータがあるのかを明確にするためには、業務およびデータの可視化が不可欠となる。

おわりに
 内部統制の見直しは、単なるチェックの見直しというよりも、組織の持続可能性に目的があると考える。その考えのもとで大事なことは、業務の可視化を含めた内部統制の見直しが、「働き方」の見直しにもつながることを組織全体で共有されることである。