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コラム

早稲田大学電子政府・自治体研究所 教授 岩﨑尚子

2020.07.22

だれ一人取り残さない理想のスマート自治体とは?

新型コロナウィルス感染症がもたらしたこれからの自治体業務改革とスマート自治体の未来

はじめに
 昨年12月上旬に中国・武漢で発生した新型コロナウィルス感染症は,3月にWHOがパンデミックに相当すると発表して以降も世界の感染者数は1000万人超,少なくとも50万人以上が死亡,さらに拡大している.第1波で経験した多くの課題を全て整理し,必ず来るであろう第2波に向けて日本社会全体で課題解決策を講じることが喫緊課題だ.
 新型コロナウィルス感染症拡大による最大の社会変化は"新しい生活様式"へのシフトだろう.毎年3月の確定申告は感染症拡大状況を鑑み,期限延長等柔軟な対応をとることになった.そしてマイナンバー活用による特別定額給付金支給というデジタル・トランスフォーメーションが実装された.

「スマート自治体研究会」発足の経緯
 新型コロナウィルス感染症は,自治体のデジタル化が進み,少しずつ成功事例が生まれつつある最中に起きた.筆者が委員として参加した総務省「スマート自治体研究会」発足の経緯をみると,「自治体戦略2040構想研究会(2017・2018年度)」の第2次報告に遡る.報告書には「今後の労働力の供給制約の中,地方自治体が住民生活に不可欠な行政サービスを提供し続けるためには,職員が企画立案業務や住民への直接的なサービス提供など,職員でなければできない業務に注力できるような環境を作る必要がある」と明記された.そして行政のデジタル化実装に向けて総務省「スマート自治体研究会」が発足,業務プロセス・システムの標準化やAI・RPA活用のロードマップが策定されたのである.ウィズコロナの"新しい生活様式"の中でテレワークが一気に普及し,デジタル教育が進展し始めた.県境,国境を跨ぐ移動が不可能となり,オンラインで営業活動やビジネスが行われた.デジタルが生活の基軸になる中で,デジタル・トランスフォーメーションへ絶好のタイミングといえよう.

自治体が抱えるデジタル化の課題
 一方,スマート自治体の推進には3つの大きな課題が浮き彫りになっていた.
 1点目は,自治体のAI・RPAの普及である.総務省による全都道府県・市区町村を対象とした「地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」(平成30年11月)の結果によれば, AIを一業務でも導入している団体は,都道府県で約36%,指定都市で約60%であったが,その他の市区町村では約4%にとどまっており,指定都市以外の市区町村では,AIの導入予定もなく,検討もしていない市区町村が約7割に上った.
 2点目は業務プロセス・システムの標準化である.デジタル化にはICT投資も必要だが,コスト・メリットを鑑みれば業務プロセス・システムの標準化により共同利用することによって,将来的により安価に導入することが可能になる.各自治体がカスタマイズしてバラバラに導入するのではなく,複数自治体が利用できる仕組みを作ることで,コスト削減,住民サービス向上,高いセキュリティ水準にも寄与するだろう.
 3点目はICT人材の不足である.AIやRPAの導入には新たなICT人材が必要だが,官民問わず「2025年の崖」といわれるDXで深刻なICT人材不足が露呈している.ICT分野に精通しているCIO,ならびに首長の理解が第一義的課題であるが,外部から任用している自治体も多くなく,迅速な人材育成と官民連携の両輪が望まれるところである.また,私の研究ではスマート自治体に寄与するCIO,ICT人材への権限付与も曖昧な部分が多く,首長直轄のCIOやICTリーダーの設置が重要だ.

"だれ一人取り残さないスマート自治体"を構築するために
 一方,サービスを受ける側のユーザ視点も不可避だ.高齢者の情報格差の問題は大きい.新型コロナウィルス感染による死亡者数のうち,高齢者の占める割合は約9割に上ることが明らかになった.自然災害による最大の犠牲者も高齢者が圧倒的に多いことから,情報且つ災害弱者でもある高齢者が,行政サービスを受けることが出来るスマート自治体構築は,超高齢社会日本においては必然である.
 筆者が委員として参加している総務省政策評価審議会で議論された「総務省行政評価局レポート(令和2年4月)」によれば,70歳以上の高齢行政相談員等の新型コロナウィルス感染症関連情報の入手手段は広報紙,チラシが50%を占め,回覧板が20%に上った.「対面」や「紙」は相変わらず高齢者のニーズが高く,国連SDGsが言及する"だれ一人取り残さない社会"を目指すには,必要最低限のアナログを残しつつ,高齢者のICTリテラシーを高める行政職員の活躍が大事である.

 最後に提言を述べたい.

1.AI・RPA活用のスマート自治体を推進するためにICT人材の育成を早急に進めるべき
2.行政予算の再配分―特にデジタル化ならびに関連予算を再度検討すべき
3.EBPM活用による自治体の政策立案を徹底すべき
4.コロナ対策の教訓を,民間とのオープンイノベーションで第2波到来予測や新規事業,ベンチャー起業そして新規雇用に徹底活用すべき
5.5G,8K活用によるPPPインフラ連携を進展させ,オンライン教育,在宅勤務,遠隔医療等,"新しい生活様式"に備えるべき
6.国連SDGsの"だれ一人取り残さない"超高齢社会日本のスマート自治体モデルを構築し,政府と一体となり輸出展開すべき