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コラム
一般社団法人チーム力開発研究所 理事 KPMGコンサルティング ディレクター 青島未佳
2020.06.24
「チームワークで成果を上げる秘訣」 〜最新研究からわかるチームづくり〜
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現場のチーム"力"がますます重要となる
不確実性、多様性がますます進む環境の中、チームづくりに悩んでいるリーダーが多い。
性別・年齢構成・価値観も多様な人材が増え、これまでの「阿吽(あうん)の呼吸」や「過去の成功体験」が通じなくなり、部下のマネジメントに悩んでいるという声をよく聞く。
一方で、VUCA(※1)ワールドと称される現在、トップが決めた戦略・戦術を愚直に実行するのではなく、現場の「知恵・情報」や「タイムリーな判断」がより経営の数字に直結する。現場のチームの"力"がより大切になっているのだ。
高い成果をあげるチームを作るために必要な要素は、書面で書くとそれほど難しいことではない。チームとは「共通の目的を持った複数のメンバーが相互に協力・連携しあう組織」であり、この定義を確実に体現出来ているチームづくりができれば、どんな時代でも成果が上げられるチームになるだろう。実際に我々の研究でも高い成果を上げるチームの主な要因は、以下の4つだった。
(図表1)
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なぜチーム作りに苦労するのか?
一方で、なぜこれほどチームづくりに苦労しているリーダーが多いのか?
それは、チームを構成するのが人間であり、感情的な側面があるからだ。メンバーは、上司の"一言"を気にし、上司の顔色を窺ったり、忖度したり、上司にどう思われるのかといった不安を抱えながら仕事をしている。また、メンバー間でも、公平に扱われているのかや、同僚にどう思われるかが少なからず気になっている。
このように、どんなチームでも多かれ少なかれ、本来の仕事とは違った別の不必要な"タスク"に気を取られている。現に、コロナ禍でのリモートワークにおける意識調査でも明らかになったのは、上司は、"部下がさぼっていないか不安"であり、部下は"上司からさぼっていると思われないか不安"という心理だった。
(図表2)
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チームの土台は心理的安全性
うまくいっていないチームは、役割分担・時間管理・段取り不足といった課題もあるが、この不必要な"タスク"にメンバーが時間を割いていることが多い。
これを解決するための1つのキーワードが、"心理的安全性"である。心理的安全性とは、"psychological safety"の日本語訳であり「組織・チームの中で、対人リスクを恐れずに思っていることを気兼ねなく発言できる、話し合える」状態をいう。要するに率直に物事を言い合える風土だ。
これはチームの土台ともいえ、この土台の上に目標共有や相互協力をすることでチームがチームとして機能していく。
一方で、日本の社会においては、実際の組織・職場では、"心理的安全性"が確保された場は少ない。
多くの職場で、阿吽(あうん)の呼吸を求められ、お互いにその場の空気を読みながら、仮に「白」でも上司が「黒」と言ったら"黒"と言わなくてはならない。どうしても言う必要があるときは、できる限り婉曲(えんきょく)的に伝えるといった"心理的安全性"の定義と真逆のことが起きている。
特に日本人は、集団からはみ出たくない、人と同じでありたい、失敗をしたくないといった思考が強いため、仮に自分の意見が客観的に見て正論であったとしても、少しでも意見を言える空気ではない場合には、敢えて発する行動はとらない事が多い。 "やっかいもの""出る杭"と思われたくないという心理が勝つ。
この概念を提唱したエドモンドソンは、心理的安全性がない職場では、人は、"無知・無能と思われたくない""邪魔をする人と思われたくない"心理が働くため、率直に発言できないと言っている。人は、多かれ少なかれこのような心理を抱えながら仕事をしているのだ。
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心理的安全性を作るのはリーダー
では、心理的安全性が確保された職場を作るにはどうしたら良いのだろうか?その答えの多くは、リーダーにある。チームの風土は7割がリーダーによって決まるとも言われている。我々の研究でもチームづくりに影響を与えている因子はリーダーのリーダーシップであることが判明している。
心理的安全性の高い職場づくりにむけて必要なリーダーの行動・指標はいくつかあるが、重要な1つの指標は、リーダーが部下の「安全基地」になれているかどうかだ。
「安全基地」とはジョン・ボウルビィの愛着理論から生まれた概念であり、子供にとっての、母親という「安全基地」「安心できる場所」をあらわす。子供はこの「安全基地」があるからこそ、成長の過程で、未知の世界・外の世界に興味を持ち、チャレンジできる。一方で、安心できる場がなければ、挑戦もできない。これは組織でも同じだろう。
ちなみに、「安全基地」となっているリーダーの特徴は、部下から「このリーダーは、気分が安定しており、支援的な存在であると思われている」ことである。(詳細は、セキュアベースリーダー※2を参照)
もしあなたがリーダーならば、部下の「安全基地」になれているだろうか?
振り返ってみてほしい。
改めて、新型コロナウイルスの影響で急速に推進したリモートワークは、終息後も一定程度続いていく。その中で、相手の表情が分からない、真意がつかみづらいリモートワークの中では、前述した不要な"タスク"が生じやすい。この危機と環境変化を乗り越えるためには、心理的安全性の確保が益々重要となるだろう。
※1:VUCAとは、Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)の時代、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さの略字)
※2:セキュアベース・リーダーシップ―〈思いやり〉と〈挑戦〉で限界を超えさせる:ジョージ・コーリーザー, スーザン・ゴールズワージー他、プレジデント社