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コラム
淑徳大学総合福祉学部 教授 結城康博
2020.05.27
社会的孤立の増加と自治体の対応~孤独死対策を考える~
1. 中高年のひきこもりは「孤独死」予備軍の可能性
「孤独死」問題は65歳以上の高齢者に限らず、少ないながら30歳代からの事例も挙がっている。いわば年齢に限らず「孤独死」は、社会全体の問題といえよう。
その大きな背景が「社会的孤立」である。自ら外部との関わりを避け、「引きこもり」「閉じこもり」といった状態が続き体調を崩しても誰にも気にされず、「孤独死」といった事態を招く。
もちろん、普段から「人」との付き合いがある者が、たまたま「孤独死」として遺体となって発見されるケースも多くある。このような「社会的孤立」でない事例は、見守り活動の重層化で、一定程度「孤独死」対策を講じることができるであろう。
しかし、「社会的孤立」といったケースでは、支えられる「受援力」が備わっておらず、いくら見守り活動を講じても限界がある。
なお、40歳~64歳における「ひきこもり」推計が約61万人となっている(表1)。これらは、将来、同居する親が亡くなれば独居世帯となり、周囲の見守りを拒み「孤独死」となる可能性が考えられる。いわば中高年の「ひきこもり」は、一部、「孤独死」予備軍といえる。
2.大阪府でも「孤独死」データが公表
これまで公式な「孤独死」データは東京都監察医務院によるもののみで、特別区(東京23区)に限られていた。しかし、2020年2月7日朝日新聞配信によるニュースによれば、はじめて大阪府警が2019年1年間の孤独死データを公表し、その合計が府内で2,996件であったという。
そのうち65歳以上の高齢者が71%を占めたが、一方で40~50代が18.4%ということであった。なお、この大阪府のデータは一般的な「孤独死」データと異なり、自殺者も含まれる。全国データでは、50歳以上の年間自殺者は2万人 を超えている(表2)。
いずれにしろ、毎年、特別区(東京23区)で約5千人弱、大阪府で約3千人と、大都市2つの公式データから、多くの人が「孤独死」で亡くなっていることがわかる。
3. 社会的孤立と自治体の役割
このように、①「社会的孤立」が背景にあった「孤独死」の事例。②一般的な独居世帯であっても外部との繋がりがあったにも関わらず「孤独死」となった事例。といった2つの側面で、「孤独死」対策を考えていく必要がある。
現在は 、自治会、配達業(民間事業所)、民生委員、近所の人間関係などによる「見守り活動」を中心に「孤独死対策」が講じられている。そして、自治体は、いわば「バックアップ体制」としての役割を果たしている地域が大多数であろう。
しかし、このような地域主体の「孤独死」対策では、「社会的孤立」を背景とした事例には限界がある。そもそも「受援力」が備わっていない「人」に地域住民が関わっても、避けられるのは当然であり、公的機関の強い関与が必要である。
4. 自治体職員が戸別訪問
具体的には、地域住民の見守り活動の中で、「受援力」のない「社会的孤立」の対象者を拾い上げてもらい、それらのアプローチは自治体職員が中心となって対応していくべきであろう。
このようなケースの中には、本来、受診すれば精神疾患や軽い認知症と診断される人もいる可能性がある。例えば、保健師と地域福祉課の職員が定期的に戸別訪問するなど、あくまでも自治体職員が訪問することで、何らかの関わりを持つことが必要と考える。そして、状況に応じて専門機関に繋げていくことも必要であろう。
これまでの見守り活動では、すべての住民を対象に地域住民が行っていたことが、逆に地域の負担を増してしまい、その結果、担い手が不足してしまうといった事態を招いたと考えられる。
5.「受援力」を高める啓発活動
また、「受援力」を高めていく啓発活動も自治体の役割として重要であろう。単なる「孤独死」対策キャンペーンやシンポジウムではなく、一定の「孤独死」の写真(個人情報保護を重視して遺族の方から承認を得るなど)を公開して、「孤独死」の悲惨さを伝えていく必要もある。筆者も「孤独死」の写真を大学の授業で学生に見せることで、その重大さを痛感してもらうように取り組んでいる。
主に40歳以上の「人」を対象に、何らかの集会やイベントを通して「孤独死」は悲惨な結末であることを、具体的に啓発していかなければ、人の「受援力」を高めていくことはできない。
6. 孤独死対策は自己変容
その意味では、中高年の「ひきこもり」対策と並行し、「人」の生活スタイルを「自己変容」させていくことでもある。それには、自治体の役割が大きな鍵となる。単なる見守り活動の重層化では、「孤独死」対策は不十分である。
つまり、「社会的孤立」の背景にある地域住民の意識・生活スタイルを変えていくことが、自治体に課せられる大きな役割である。これは「虐待防止」「自殺防止」といった対策にも類似することから、保健行政も中心となって対応していくべきであろう。
そのため「保健」と「福祉」の連携が自治体内で十分になされなければならない。現在の自治体における「孤独死」対策は、地域包括支援センターなど「福祉」部局が中心となっており、「車の両輪」である片方の「タイヤ」が欠けている状態といえるのではないだろうか。