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コラム

龍谷大学政策学部 教授 服部圭郎

2020.04.22

海外の事例から考える人口減少時代のまちづくり

 人口減少の勢いが止まらない。日本の人口は2008年に1億2808万人を記録すると減少に転じ、2019年11月時点における日本の総人口は1億2618万人と予測されている。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると10年後の2030年には1億1912万人まで減少する。このような人口減少は地域社会にも大きな影響を及ぼし、地域の活力を奪い、その持続可能性が危ぶまれるような状況をもたらすことが危惧される。実際、農山村では、里地・里山の荒廃や二次林の管理放棄が見られ、都市部においてもニュータウンにおいては住民が高齢化する中、コミュニティ機能維持が脆弱化し、さらに地方都市では都心部においてさえも商店街の衰退、自動車社会が進展したが故のモビリティの低下など、それらの持続可能性が揺らぐような状況に直面しつつある。

 さて、しかし、このような人口減少は日本だけにみられている社会現象では決してない。いや、むしろ普遍的に先進国では観察されている政策課題である。ヨーロッパではスペイン北部、ルーマニア南部・ブルガリア、アルバニア・モンテネグロ、エストニア・ラトビア・リトアニアのバルト三国、そして旧東ドイツにおいて大きな人口減少が世紀の変わり目においてみられた。アメリカ合衆国のように国全体の人口は増加傾向にあっても、デトロイトやクリーブランドといった都市レベルでみると人口は減少している場合もある。最近では、中国でも人口減少が大きな社会的課題となっている都市や地域が出現している。そして、どの国の都市・地域もその決め手となるような解決法が見出せず、試行錯誤をしつつ、それを日本のように模索している状況にある。あたかも、この原稿執筆時の2020年4月時点で世界中にて猛威を奮っているコロナウィルスのように、有効な処方箋が見出せず、各国があたふたしているような状況である。もちろん、短期間で死をもたらすコロナウィルスと長期間にわたって真綿で首を絞めていくような人口減少とでは、社会に与える影響も違うが、それらに対処する決定打がないという点では共通していると思われる。

 このように人口減少の対策としての絶対的な処方箋がない中、筆者がその中でも効果的ではないかと思うのは旧東ドイツが遂行してきた縮小プログラムである。旧東ドイツは東西ドイツが再統一した1990年以降、極端な人口流出を経験する。最初は、社会主義体制に辟易していた人達が旧西ドイツへ逃げるように移転する政治的な動きであったが、しばらくして、資本主義経済と競合できなかった社会主義時代の産業が潰れていくと経済的な理由から人々は旧東ドイツから流出していく。その結果、再統一する直前には1866万人いた人口が2011年には1590万人と20年ちょっとで15%も人口が減少する。

 ドイツ再統一直後はベルリンやライプツィヒ、ドレスデンというプロイセン王国やザクセン王国の都として華やかな歴史を有していた都市群は、投資ブームが起き、その開発への期待に多くのドイツ人が夢を抱いたが、その希望はすぐに潰える。そのような状況下、ドイツ連邦政府はそれまでの都市・地域政策の常識を覆すような大胆な政策を遂行する。それは、「東の都市改造(シュタットウンバウ・オスト)」と呼ばれる2002年から開始したプログラムで、人口減少に対応した「縮小する都市」の構築を促すものであった。それまでの都市計画は成長を前提としていたが、このプログラムは縮小を前提とした計画を策定することを促したのである。具体的な縮小計画は、自治体が策定するために一様ではないが、中心部を守り、周縁部の社会主義時代に建てた団地群を撤去し、そこを撤退、もしくはコンパクト化するというものが多い。

 このプログラムは2016年まで続くが、それが有効であった14年間で旧東ドイツの人口は緩やかに減少から増加へと転じ、終了時には1615万人まで回復する。都市別にみると、その回復はさらに劇的で、例えば絶対数では旧東ドイツで最も人口が減少したライプツィヒは2011年から2016年にかけ、12%の人口増加率をみる。同市のある地区は2010年には一平米133ユーロであった地価が、2017年には438ユーロまで高騰したり、人口縮小時に余分となったため壊した小学校や幼稚園が現時点では不足して新たに作り直さなくてはいけなくなったりするなど、むしろ成長の弊害がみられるほどになっている。

 このような増加の背景には、同プログラム以外にも、難民を積極的に受け入れたことなどもあるが、マクロな地域レベルで人口減少を人口増加へと転換させた旧東ドイツの試みは、人口縮小に悩む日本の地域・都市にとっては参考となるだろう。特に1995年は人口が約980万人あったが、2015年には約900万人へと大きく減少した東北地方にとっては多くの示唆に富む例ではないかと推察する。現在、実施されている「立地適正化計画」とも共通するようなアプローチではあるが、あくまで自治体に縮小のあり方を考えさせている点などは異なる印象を覚える。人口縮小のあり方は、人口が成長していた時よりもさらに地域によって温度差があり、トップダウンではなく自治体が主体となったまちづくりをすることが強く求められている。