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コラム

みずほ総合研究所 調査本部市場調査部  上席主任エコノミスト 野口 雄裕

2020.02.26

正念場を迎える日本経済

 日本経済が景気後退に陥るリスクが高まっている。2月17日に発表された昨年10~12月期の実質GDP成長率は、前期比▲1.6%(年率▲6.3%)のマイナス成長となった。昨年10月に実施された消費税率の引き上げにより成長率が押し下げられることは予想されていたが、大規模な増税対策を政府が実施していたことを踏まえると、日本経済が実体的に弱含んでいると評価している。個人消費は5四半期ぶりのマイナスとなり、自動車・家電などのマイナス幅が大きい。米中貿易摩擦などによる輸出減少に伴う製造業の失速が、国内の雇用・所得環境の下押し圧力として働き、消費の弱さにつながっていると考えられる。2020年1~3月期の実質GDP成長率については、新型ウィルスの影響しだいではマイナス成長となる可能性がある。GDP成長率が2四半期連続でマイナス成長になると、一般的に景気後退と判断される。
 中国湖北省武漢市で発生した新型ウィルス感染については、中国政府が感染封じ込め策を相次いで実施する中、短期間での終息がメインシナリオと考えているが、現段階では終息の兆しは見られていない。中国では日本の自動車メーカーが多くの工場で自動車生産を行っており、生産停止が長引けば日本経済への影響が懸念される。インバウンド消費では既に日本経済への影響が顕現化しつつある。中国当局による団体旅行規制は、春節期間の大手百貨店の売り上げを大きく下押ししている。今後更に長期化した場合、インバウンド消費が大きく下振れるのみならず、夏の東京オリンピックの開催にも影響を与えかねない。
 景気後退リスクに対し、財政・金融政策により下支えを図る必要が出てくる。財政政策については、政府が昨年12月に事業規模26.0兆円の経済対策を閣議決定している。今後も追加の財政出動が行われる可能性が高いと見られるが、先進国最悪の財政状況にある我が国では限界がある。他方、金融政策については日本銀行が大規模な金融緩和政策を進めている。ただし既にマイナス金利政策まで導入されている中、更に金利を引き下げて景気を押し上げる余力はない。
 日本経済の先行きを考えるうえで懸念されるのは消費の弱さだ。財政悪化や金融緩和の限界が意識される中、将来への不安が国民に根強く残っていることが背景と考えている。安倍政権誕生後に進められてきたアベノミクスによって過度な円高が修正され、企業業績が改善したものの、賃金の上昇が限定的にとどまっている。先行き賃金が上昇しないとの見方が強まれば、消費を控え貯蓄にお金を回す動きにつながるため企業は価格を引き上げにくくなる。日本銀行が強力な金融政策を行っても物価が上昇しない要因はこうした家計の動きにあると考えている。人生100年とも言われるように、高齢化が進んでいることも消費が伸び悩む要因と考えられる。年代別の消費動向を見ると、50代以降は消費が減少する傾向が見られる。こうした将来不安を解消していくのは容易ではない。
 日本銀行は当初は2年程度で物価目標を達成するとしていたが現在では長期戦で物価を引き上げていくスタンスである。ただし、金融緩和により低金利が長期化することが様々な副作用をもたらすことに注意が必要だ。具体的には、低金利が金融機関収益や、生命保険会社、年金の運用に与える影響が懸念されている。金融機関のビジネスモデルは、預金で調達した資金を貸し付けるものであるが、日本銀行の金融緩和により貸出金利が大きく低下している。預金金利は既にゼロ%に近い水準にある中で更なる引き下げは困難だ。このため預金金利と貸出金利の差が縮小し、金融機関の収支を圧迫している。また、生命保険会社や年金基金は日本国債への投資を行ってきたが、現状では期間10年より短期の国債利回りはマイナスの水準に低下し運用利回りを大きく押し下げている。こうした中で生保や年金は海外投資を拡大しているが、運用利回りの低下は将来の年金制度の持続性への懸念を高めることにより家計の不安を高めることにつながる。
 低金利の恩恵を最も受けるのは政府である。財政に必要な資金調達手段である国債利回りがマイナスになることで、極めて低金利で必要な資金を調達できている。懸念されるのは財政悪化にも関わらず低金利が維持されることで財政規律が弛緩するリスクだ。日本は先進国最悪の財政状況であるにも関わらず、景気下振れリスクが高まる度に大規模な財政出動を行っており、国債残高は増加の一途をたどっている。現時点ではギリシャのように財政破綻リスクが直ちに顕在化するとは見ていないが、永続的に負債を増やすことはできないだろう。
 ここまで日本経済の不安要素を中心に述べてきたが、日本には強みもあることを忘れてはならない。インバウンド消費は年々増加しており、日本経済を支える要素となっている。過去のオリンピック開催国を見ると、オリンピック後もインバウンドの拡大が見込まれる。また、政治的な安定も強みであろう。安倍政権は憲政史上最長の政権となっており、海外主要国の中でも政権は安定しているため様々な政策を進めやすい。世界を見渡すと所得格差の高まりから欧州などではポピュリスト政権の支持が高まり、既存政党が不安定化している。安倍首相がトランプ大統領とゴルフをする間柄であることは米通商政策における日本への要求が強まることを抑制する要因になっている。こうした強みがある間に国民の将来不安を和らげる取り組みをどこまでできるかが、今後の日本経済の先行きを左右すると考えている。

以 上