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コラム

執筆者:常滑市副市長 山田 朝夫

2017.06.29

「流しの公務員」仕事の流儀

【「流しの公務員」って何?】

 私は、昭和61年に当時の自治省に入省しましたが、35歳で一大決心。「流しの公務員」となるべく、霞が関を飛び出しました。「流しの公務員」とは、「各地を渡り歩き、求めに応じて、単身、地方行政の現場に飛び込み、関係者を巻き込み、その潜在力を引き出しながら、問題を解決していく『行政の職人』」を意味する私の造語です。

【席替え問題】

<10数年前のある日の夕食後>

息子(中2)「今日、クラスで、席替えをやることになったんだ。人数は36人で、6人ずつの6つの班。黒板に向かって、縦2×横3の6つのブロックがある。2つの班は後の方が希望。4つの班が前の方がいいって言うんだ。前を希望した班には、それぞれ視力の弱い生徒が数人ずついて、彼らが黒板の字を見やすいようにというのがその理由。どの班も妥協しない。先生は『みんなで話し合って決めろ』って言うんで、明日に持越しになったんだけど、どうやってまとめたらいいと思う? やっぱり、ジャンケンかな?」

私「生徒が席に座るのは何のためかな? 授業を受けるためだよね。授業を受けるのは基本的に生徒一人ひとりでしょ。そうなら、班がまとまって着席しなくていいんじゃない? 視力の弱い生徒は黒板に近いところへ。そもそも席は固定でなくたっていい。鞄はロッカーに入れ、必要な教科書やノートを持って移動する。班で話し合いや作業をする場合には、まとまって座ればいいじゃない。」

息子「わかった。それいい考えだね!」

<翌日>

私「どうなった?」

息子「先生は『班の"まとまり"は大事だ』っていうんだ。」

私「まとまって座っていれば、班の"まとまり"がでるのかな? "まとまり"をつくりたいなら、もっと別の方法があるんじゃない? たとえば、まとまって『仮装大賞』に出るとかさ。」

息子「オレもそう思うんだけどなあ...」

【多言語PRパンフレット】

職員「わが市が、他の5つの自治体と共に『日本遺産』に認定されました。国から補助金が出るので、"多言語PRパンフレット"を作ります。」

私「それはめでたいね。ところで、そもそも何が評価されたの? 一緒に認定された自治体の中で、特にわが町が自慢できるところはどこ? PRの目的は何? 何を、誰にPRするの? 相手によってアピールする内容は違うよね。どこで配るの? 効果はどうやって測るの?」

職員「・・・」

【事業評価】

職員「昨年度の『食育推進事業』の事業目標は、年2回の『食育推進協議会』の開催でした。7月と3月に無事開催できました。事業評価はAです。」

私「食育推進事業って何のためにやってるの? 協議会を開催して、『食育』が推進されたの?」

職員「・・・」

【仕事とは何か?】

 「仕事」ってなんでしょうか?

 私は、「仕事」とは「心の底から"問題"を解決したいと思って行う"具体的な行動"である」と考えています。そして「問題」とは「あるべき姿と現状のギャップ」のことです。

 問題が適切に立てられなければ、良い仕事はできません。そのためには、「問題の本質(根源)」から目をそむけず、正面から向き合う必要があります。

 でも、多くの場合、問題の根源に触るのには"危険"が伴います。「頭のよい人」や「保身に走る人」は、そんな"大変なこと"から逃げようとします。あるいは、達成可能な低い目標を設定して(あるいは目的をそれにすり替えて)、お茶を濁そうとします。

 目的と手段の取り違えもよくあります。また、困難が予想されるため、目的を達成するために真に有効な手段が選択されない場合もあります。あれもこれもやろうとして、結局何も達成できないこともよく見かけます。

 いずれにしても、問題が適切に設定され、有効な手段が選択され、それが効果的に実施されて、はじめて、「"仕事"をした」と言うべきだと、私は思うのです。

【市町村職員の仕事は面白い!】

 多くの市町村職員は仕事を面白がっていないように見えます。問題が見えているのに、守りに入って前例を踏襲し、一歩進んで住民に喜んでもらおうとしていない。むしろ「つまらなくやるのが公務員の仕事なのだ」と思っているようにさえ見えます。

 しかし、私の20年にわたる「流しの公務員」の経験から、市町村の現場の仕事は、やりようによってはとても楽しい。小さい自治体であればあるほど、住民に直接喜んでもらえる仕事ができます。

 大分県久住町(現竹田市)で、住民の意見を徹底的に聴きながら、小さな公民館をつくった時、普段は辛口の高齢の男性から「公務員冥利に尽きる」言葉をいただいたことがあります。

 「あんたに乗せられて、何度も話し合いに出て、いろいろ意見を言わされて、でもどうせわしらは言うだけ、あんたらは聞くだけと思うちょった。でも、実際こうして出来てみると、この建物には、わしらの意見がよう取り入れられちょる!」

 こんな経験は、霞が関では、絶対にできません。

 拙著「流しの公務員の冒険」に、こんな読者レビューをいただきました。「この本を読み、公務員の皆さんは、仕事は自由に範囲を決めずに市民のためになることであれば押し広げてもいいのだということを感じてほしい」

 もし、公務員に「身分保障」があるのだとすれば、「前例やしがらみにとらわれず、勇気を持って、本当に住民のためになる仕事ができる立場」を担保するためにあるのではないか。私はそんなふうに考えています。(終)