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コラム
国立大学法人徳島大学総合科学部 准教授 田口 太郎
2019.09.25
地域づくりをサポートする外部人材の役割
我が国全体の人口減少が始まり、日本創成会議による「消滅可能性自治体」の問題提起がなされてから我が国の各自治体は沸き立ったような人口獲得競争のただ中にある。居住者の獲得が頭打ちになると、次なる人口として「関係人口」の獲得競争まで始まっている。その中心的な位置づけに置かれてきたのが「移住者」であり、移住フェアは東京や大阪を中心に無数に開催されている。しかし、こうしたムーブメントの中で「なぜ人口を獲得する必要があるのか」という根本的な問いかけはあまり見られないのも事実である。地域の活力は「人口」に依存するわけではない。地域の活力は地域に住まう人々の暮らしの質に依拠するものであり、様々な地域づくりを評価する際にもこの「住民の質的な暮らし」の充実を図ることが重要である。本稿のテーマでもある「外部人材」についても、2010年からスタートした地域おこし協力隊や、新たに注目されるようになった「関係人口」など、様々な「外部人材」が地域に出入りするようになり、その取り組みも各所で紹介されるようになった。ただ、注意しなくてはいけないことは、「外部人材」と言われる主体も様々である、ということである。「外部人材」というと、地域外に住みながら地域に関わる人材として捉えられているが、どのように"関わって"いるか、というところにはあまり注目があつまっておらず、地域で何をしたか、が主だった社会的関心となっている。故に、地域でゲストハウスを開業したことも「外部人材」の成果であれば、地域の小さな声に寄り添いながら小さな取り組みをスタートさせたことも「外部人材」の成果である。しかし、何のために外部人材を導入するのか、さらに言えば何のために地域づくりをすすめるのか、ということを改めて問い直す必要があるのではないか。
「地域づくり」や「まちづくり」はその語感の良さから、様々な場面で使用されているが、その定義についてはそれぞれが都合よく解釈したり発信したりしている。特に人口減少に悩まされているような地域おける「地域づくり」とは何か、ということを考えると、その前提としての地域の衰退を考える必要がある。一般的に人口減少や少子・高齢化が地域の衰退を表す現象として取り上げられるが、重要なのは人口そのものではなく、人口が減ることによってこれまでのように機能しなくなることだろう。このように「外部人材」についてもどの様な役割を期待するのか、人口減少に伴う課題に対して何を外部人材に期待するのか、ということを冷静に考える必要がある。
地域づくりの主役は地域であり、地域づくりの目的は"地域が"よくなることにある。外部支援が外部からの押しつけ支援になってはならない。外部から支援する際には常に地域の空気感に対して敏感である必要があり、その上でその空気を意図的に壊していくのか、あるいは空気感に合わせていくのかを考える必要がある。そして空気感を壊していくような場合は、その再生のプロセスまで丁寧に関わっていく自覚と責任が求められるだろう。
外部人材には何が求められているのか。地域の自治から考えてみると、外部人材がどのように地域の自治力向上に寄与しうるのかを考える必要がある。地域の自治力が何によって規定されるかというと1.企画力と、2.実行力であると私は考えている。企画力とは地域の実情に応じて必要な対策や戦略を企画立案することであり、実行力とは企画された事項を実行することである。人口減少、さらには少子高齢化の進む地方ではこの双方が衰退している。故にそれを外部に期待するのが「外部支援」といえるが、その前提として信頼関係の構築が何よりも必要だ。というのも大都市から地域に関わるような「外部人材」は特に企画力という点が期待されがちであるし、それが強みとも言えるが、実際には地域との信頼関係が築けていなければ地域側が新しいアイデアを受け取ることが難しい。特に実行力の担い手は大きな負担を負うことになるので、余計に「負担を負う意義」の理解が必要である。昨今の都市農村交流事業の関係人口獲得事業を見ていると、この「信頼関係の構築」という部分が不足している傾向がある。結果として外部人材のみが地域をフィールドに活動をし、それを地域住民が冷ややかに見る、という構図となってしまう。これでは持続性もなければ、地域が良くなることもない。少なくとも仲介者となる中間支援組織はコーディネーターとしてこうした認識を強く持つ必要があるだろう。逆に実行力についてはより具体的な個人の役割が期待されており、どちらかと言えば地域からの転出者や血縁者が想定されるだろう。このように外部人材はその役割によって属性も様々であり、必ずしも都市からやって来るもののみではない。
また、「地域」の範域によっても支援者像は変わってくる。例えば自治体規模で「外部人材」というと行政などへの専門的なアイデアの提供が種となり、契約的関係が見えてくるだろう。一方で集落単位のような土着的なコミュニティの規模で「外部人材」を考えると、地域のお祭の担い手や個々人との個別的な関係性など、信頼関係をベースとした関係が見えてくる。このように、ひと言「地域」と言っただけでもその外部人材像が変わってくるため、一概に「外部人材」といってもそれぞれの地域がどの様な課題認識を持ってどの様なスケール感でどの様な活動へ「外部人材」の活用を意図してるのか、を冷静に見ていく必要があるし、実施する側はそれに自覚的である必要がある。
こうした丁寧な検討の上で構築された地域と外部人材の相互補完の取り組みは、たとえ疎遠となったり一時的に距離が開いてしまったとしても、かつての旧友のように長く続く関係となっていくことだろう。