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コラム
内閣府地域活性化伝道師(株式会社KITABA相談役) 大下 茂
2025.05.02
イベントと地域の活性化のためのテーマ選びの発想法と仲間づくりの基本思考
地方都市において、伝統的な風物詩を含むイベントの継続的な開催が危惧されている。そのような地域からの相談内容は総じて、①イベントの集客力が低下してきていること、②運営スタッフの減少と確保が困難なこと、③開催経費の高騰による運営資金確保が難しくなってきていること等が共通した課題である。少子高齢化と人口減少による影響で片づけられるものではなく、むしろこのような状況だからこそ、地域独自の愉しみ方を表現したイベントで地域を盛り上げることが求められているのではないだろうか。
□人口減少期は文化創造のチャンス
筆者は様々な機会で人口減少期の地域づくりの特徴を論じてきた。詳細は先行拙稿に委ねるが、簡潔に総括すると、わが国はこれまで人口増加期と停滞期を繰り返してきており、今次の人口減少期は、江戸中期から幕末に至る約150年の停滞期に次ぐ4度目の経験に当たる。人口増加期は「地域をつくる時代」であるのに対して、人口停滞期は、新たに地域をつくることに投資するのではなく、「(人口増加期につくった)地域をつかい」ながら、人々の暮らしの中での愉しみにつながる文化を創出して地域活力を維持してきたのである。見方を変えれば、地域づくり・施設づくりの時代は一部の施設の維持・更新のためのメンテナンスを除いて終わりを告げ、その投資を文化創造に振り替えられる時代の到来を意味している。その格好の対象が地域ならではのイベントともいえる。
□地域の個性を表現するテーマ発見のための7つの発想法
地域らしさをテーマとしたイベントとすることで、参加・集客が期待される人々の期待感や納得感が高まり、イベントの集客力は向上する。では、イベントのテーマとなる地域資源を発見する発想法にはどのような方法があるのだろうか。
拙著にも示しているが、地域資源の発見には、地域の中で再発見する4つの方法と、地域内で新たに創造する3つの方法、あわせて7つの発想法がある。
再発見の方法とは、①地域の風土や先人たちの暮らしの知恵、地域の珍しい気象や自然環境等をテーマとする「風土・暮らしぶり再認識型の発想法」、②地域の成立ちや歴史・史実の中からテーマを見出す「歴史・史実発見型の発想法」、③かつて行われていたものの今やなくなってしまった催事や風物詩等をヒントにする「喪失再認識型の発想法」、④地域の中で方言等の恥ずかしいと感じていることや猛暑・極寒等のマイナスだと思っていることをテーマとする「マイナス資源着想(プラス転化)型の発想法」である。
創造する発想法としては、⑤食やライフスタイル等の分野においてこれからの社会の動向を先取りする「動向先取り着想型の発想法」、⑥人は何に惹かれるかをテーマとして表現する「願望着想・初物追及型の発想法」、⑦他の地域で開催されて集客しているテーマを持ち込む「他事例着想・モノマネ型の発想法」である。ただし、⑤~⑦で見出したテーマについては、地域で開催する必然性(地域個性の付加)を加える等の一工夫を講じておかないと、地域に受け入れられないこともあるので注意が必要である。
□手づくりイベントの基本"一人二役一貢献"と "4つの気"を意識した仲間づくりを
地域ならではの文化の継承や創造が求められる時代を迎えて、行政や諸団体にイベントの企画を委ねるのではなく、企画段階から志民(志をもつ住民という意味で「志民」と表現している)が集い、企画・発案者の抱いている期待や実現したい夢、地域に活力を生み出すアイディアを盛り込んで運営するイベントが各地で生まれることを期待したい。
自らがそのイベントを運営する一方で、参加者としても愉しむ、いわば"一人二役"を演じることで、地域の盛り上げ・活力向上に貢献するのである(埼玉県北本市の事例参照)。
夢を形にするためには、志を同じくする仲間を広げていく必要がある。理解はいただけるもののなかなか「やる気」になってくれないということをよく聞く。最初から「やる気」になってもらえることは少なく、最初は「その気」になるような小さな取組みから始めることが求められる。「その気」から「やる気」へ、そして徐々に形づくられていくプロセスを愉しさと感じ、その経験を積み重ねることで「本気」へと導くことが肝要である。そして何よりも大切なことは、それを「根気」づよくつづけることにある。「その気」「やる気」「本気」と「根気」の"4つの気"を意識した仲間づくりを行うことで、いずれは、「〇〇の時期には〇〇イベントが開催される地域」として名を馳せる、いわば地域のブランド力を高める―イベントを通じて地域に活力が生み出せる地域へと育っていくことを見守っていきたい。
埼玉県北本市では、市役所前の広場を舞台に、市民参加型ワークショップ 『マーケットの学校』によりマーケットを通じて自分たちの暮らしやまちの楽しみ方を一緒に考え、それを『&green market』として実践、人と人とのつながりを生み出す場を創りだしている(埼玉県北本市提供)