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コラム

防災企業連合 関西そなえ隊 幹事 湯井 恵美子

2024.08.28

特別支援学校の強みを生かす防災減災

はじめに

 特別支援学校は障がいのある児童生徒の教育施設としての選択肢の一つである。多くは都道府県立の学校で、その通学域は複数の市町村を含み、広域である。在籍する児童生徒のニーズに合わせ、教育のみならず、保健、福祉、医療事業の災害時の事業継続計画(以下、特別支援BCP)を丁寧に検討する学校が増えてきた。更に、児童生徒の多様な困りごとに対応するため、特別支援教育で作成されている個別の教育支援計画に防災関連情報を掲載し、大規模災害に備えようとする動きがある。特別支援学校の強みを見いだし、防災に活用しようとする試みである。

特別支援BCPとは

 特別支援BCPとは、特別支援学校において、災害時に欠くことのできない重要な事業や業務を、許容された時間内に復旧できるようにし、命の危険にさらされるような保健、医療、福祉に関連した重要業務は中断させないようにするために様々な観点から対策を講じるための基準となるべき方針、体制、手順などを示した計画をいう。福祉事業者では自然災害及び感染症に対するBCP策定が義務付けられたが、特別支援学校にBCPの作成義務はない。
 その運用には、学校と地域が連携しつつ、平時から安全な環境整備を協働で実施し、防災人づくりの教育、訓練の実施、計画の策定・点検や改善などを継続的に運用するための仕組みと方策が必要となる。大阪府教育庁の学校防災アドバイザー派遣事業では、実施校は周辺の他の学校・園や自治会等と一緒に防災計画を協議し、訓練を実施している。通学域の複数の教育委員会や危機管理部局と一緒に通学バスルート上に災害時の緊急避難場所を設置した実施校があるが、その多くは大型スーパーや企業など民間施設であり、毎年、特別支援BCPが共有されることから、防災を通じて障がい理解が進む効果も期待できる。

個別の教育支援計画の防災への活用

 過去の大規模災害では、障がい児者は避難行動と避難生活の両方において大きな困難を経験してきた。令和3年度の災害対策基本法の改正において、個別避難計画策定が自治体の努力義務となり、厳しいハザードが想定され、かつ支援度の高い人の計画策定が優先的に進められている。 個別避難計画では当事者の避難生活に適した避難場所の選定と、そこまで安全に移動する手段や支援者、支援内容を検討するが、本人の様子を日頃からよく知る福祉関係者と一緒に作成することで実効性の高い内容となる。
 一方で、特別支援教育の現場では、本人と保護者、教師が協議して教育目標を設定する個別の教育支援計画が作成される。計画は、成育歴や病歴、家族の情報等を記載する個人基礎情報と3年間の各教科の教育目標と大きく2つに分けられる。特別支援BCPを運用する中で、防災教育の指導計画に個別の教育支援計画を活用する学校がある。災害時の対応を保護者と担任教師と一緒に共有でき、関係者の防災力を向上させる効果が見込める。

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個別の教育支援計画策定プロセス(防災教育)

特別支援学校の災害時利用

 令和3年には福祉避難所の確保・運営ガイドラインも改訂され、個別避難計画に応じた直接避難など、より踏み込んだ対応が示された。その中で、福祉避難所に適した施設として、障がい特性に応じたバリアの少ない施設設備をもつ特別支援学校の活用が強調されている。教職員は児童生徒と信頼関係が構築され、障がい特性も十分に理解しており、電源や食料などの備蓄品や避難生活の環境が整備され、避難所運営を支えるノウハウを持った人員の確保ができれば、障がい児者の避難先として優れた選択肢の一つとなりえる。
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 ここで重要なのが、災害時優先業務を検討する特別支援BCPである。日常業務の重要度を評価し、人手など少ない災害時の資源を集中させて福祉避難所を設置運営する。ガイドラインでは複数の市町村が共同で協議体を設置して、話し合いの場をつくり、協力して設置運営する福祉避難所のあり方が示された。まさしく特別支援学校の福祉避難所運営スキームである。

 

みんなで助かるために

 特別支援BCPの運用や個別の教育支援計画の中で避難先や薬の備蓄等を検討するプロセスの中で、自治会・自主防災会や病院や福祉事業者など多様な主体とのつながりが構築される。作成された情報は卒業後の所属先に引き継がれ、個別避難計画に活用することができる。
 だからこそ、特別支援学校の安全管理の運用には地域協働は欠かせない。特別支援学校は地域により支えられるだけでなく、障がい児の安全安心を地域全体で考えることで、地域共生を身近にとらえる機会となるからである。平時であっても災害時であっても、誰もが大切にされる地域は良い社会である。