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コラム

合同会社チノアソビ /合同会社TAO 代表 林田 暢明

2024.07.24

ワークショップ中にファシリテーターが留意すべき4つのポイント

1. はじめに〜多摩市若者会議とファシリテーション〜

 2017年度から3年間にわたって私が企画・設計した「多摩市若者会議」は、主に「ワールドカフェ」と呼ばれるファシリテーションの手法を用いて進捗させた。ファシリテーションという言葉が世に広まって久しいが、いったい、どういう意味かというと会議を促進させるということである。

 ▼ワークショップ風景(左)、2017年度 多摩市 阿部市長への報告会(右)

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 例えば、50名が参加する会議を取り仕切ることになったと想像してみて欲しい。きっと、議場は静まりかえり、予め定められた台本にのっとって議長が粛々と議事を進行していくことになるのは容易に想像できる。こうした手法にも価値がないことはないが、ネゴシエーションによって定められた予定調和をこなす会議では、少なくともクリエイティブなアイデアは絶対に生まれないだろう。

  

2. クリエイティブなワールドカフェのための基本設計

 会議をよりクリエイティブなものにするために、多摩市若者会議では4人1組のテーブルに分かれて、あたかもカフェのような空間で対話を進める。ワールドカフェを考案したアニータ・ブラウン博士は「カフェ的会話が未来を創る」と言った。まさに、街の中のカフェで友人と話すが如く、多摩市の未来について語り合うのである。
 こうした会議の手法は、近年、特にアメリカで企業の会議でも活用され、ファシリテーターという職業人が実際に存在する。実際に日本でも、いろんなファシリテーターにお会いすることは多いが、往々にしてコーディネーターや司会になってしまっていることが多い。
 ファシリテーターとは、司会ではなく、先生でもなく、リーダーでもない。会議全体に対話を巻き起こし、その対話の見届け人となることだ。それでは、参加者によって巻き起こる対話をどのように見届けていけば良いのか、普段、私が留意しているポイントを次章で簡単に説明したい。

  

3. ファシリテーターが留意すべきポイント

ファシリテーターの仕事の50%は「問いの設計」
 自治体や企業に限らず、ファシリテーションの中で「参加者にどんな問いを投げかけるのか?」は会議の主催者としては気になるところである。もちろん、信頼関係が既に築かれているクライアントとの間では、全てを一任されることもあるが、クライアントと会議のゴールをどう設計していくかを共有しておくことは重要だ。
  これが十分に為されていないと、主催者が期待していたゴールにたどり着かずに「ファシリテーション楽しかった!」という会議の結末を迎えることになる。よく「ファシリテーションは意味があるのか?」と不信感を抱いている方にお会いするが、彼らは「会議を楽しくしてくれるファシリテーター」に遭遇したに違いない。言うまでもなく会議自体を促進(ファシリテート)させなければファシリテーションの意味はない。

仕事のもう半分は「問いのデザイン」
 ファシリテーターは会議中、暇そうにしていると思われているが、実はとんでもなく忙しい。それは何故かというと、上述した「問いの設計」とアンビバレントな話になるが、実は「設計した問い」が絶対ではないからだ。
  例えば、ある現場で「この地域の魅力を再発見してみよう」という問いを立てていたとする。参加者の対話の内容に聞き耳を立ててみると、魅力ではなく課題の話ばかりしている、という状況は現実的にあり得る話である。
 このときに「設問と違う話をしているので魅力について対話してください」という指示を、ファシリテーターは絶対に出してはならない。

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 その理由は、ファシリテーションの一つの目的として、「参加者の本音を引き出す対話の場」を醸成することがあるからだ。言わばファシリテーションとは「ライブ」である。野外フェスで雨が降っても、雨に濡れて演奏する、聴くというのがライブの醍醐味である。もしライブでなくて良いのであれば、台本に沿って進む従来型の会議と何も変わらない。
 では、設問とは全く真逆の対話が行われているとき、ファシリテーターはどうすれば良いかというと、フレームワークを活用しながら新たな問いを即興でデザインしていかねばならないのだ。 

参加者のマインドセットと未来志向のリフレーミング
 では「地域の魅力について対話する」という問いにおいて「地域の課題」について参加者が対話しているとき、ファシリテーターはどう振る舞うべきだろうか。まず「魅力」ではなく「課題」なら出せるという参加者の「マインドセット」について理解することが第一だろう。
 マインドセットとは、個々の価値観や信念をベースとした思考の傾向を指す。参加者の「この地域に魅力があるはずがない」というマインドセットを解くためには、現在地で眺めている景色をリフレーミング(眼鏡のフレームを変える)することが必要だろう。
 そのため、私であれば、次に準備する問いは「皆さんが出した課題が解決した後の地域の姿を想像してみよう」というものにするだろう。まず、魅力ではなく課題を出した参加者を否定することはしない。次に、課題と感じていることは現状に対する不満なのだから、将来、その課題が解決した後の地域は、どんな魅力的な姿になっているだろうか、と問いかけるのである(2分割リフレーミング法)。

ゴール設計ではなくプロセスデザインを大事にする
 この時点で、会議前にクライアントと共有していた「問いの設計」からは逸れてしまっている。しかし、共有したゴールから外れていなければ、さして問題ではない。もっとも重要なのは、参加者が「誘導された」と感じることなく、自らの力でゴールにたどり着くことである。
 さらに言えば、テーマによってはクライアントとのゴール設計で「参加者が拒否した場合、企画自体を諦める」というところまで共有したこともある。例えば、多摩市若者会議の事例で言えば、多摩市は当初「若者会議の中からメンバーが起業する」ということをKPIに設定していたが、私は「起業するかどうかは、参加者が決めることであり、市がKPIとして設定すべきではない」と主張し、多摩市は認めてくれた。
 だが実際は、私がコーディネートした3年間の多摩市若者会議が終了したとき、メンバーの中から起業する者が現れたのである。しかも、それは多摩市が誘導したものではなく、市民が自ら掴み取ったゴールである。
 つまり、主催側と参加者とが本気で目標に向き合ったときに、その結果は大きく相違しないということである。ファシリテーターは、ゴール、KPIの達成に固執するのではなく、参加者の流動的なプロセスをデザインすることに留意すべきであることを示している。

. おわりに 

 上述のように、ファシリテーターにとって必要なのは、様々なフレームワークを活用しながら、参加者の本音と本気を引き出し、共有したゴールに向けてプロセスをデザインしていくことである。フレームワークの種類については、現在、北九州市立大学大学院において90分×15コマという分量で教授しているため、本稿では一例しか出せなかったことはご容赦いただきたい。