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コラム

広島県教育長(前・文化庁政策課長) 篠田 智志

2024.06.26

文化庁京都移転1年

 文化庁の京都移転から1年が経過しました。文化庁は、昨年(令和5年)327日に移転し、515日からは職員の大半が京都を拠点としています。本格的に京都で業務を開始してから1年ということになります。
 文化庁の京都移転は、単に、東京一極集中の是正だけでなく、文化芸術のグローバルな展開、文化芸術のデジタル・トランスフォーメーション(DX)化、観光や地方創生に向けた文化財の保存活用など、新たな文化行政の展開が期待されて行われたものです。
 単に国の行政機関の引っ越しというだけでなく、生活の中に文化が息づく千年の都において日本の文化の本質的価値を感じ考えながら施策に反映させつつ、グローバルなことも、DXも、そもそもの課題として地方創生もしっかりやるというミッションを帯びての移転です。
 京都に移転した職員も初めてのことが多く、試行錯誤してきましたが、京都勤務を1年経験した職員として感じたことを紹介したいと思います。

 その1:現場が近い!

 京都の街を歩けば、歴史的な街並みがあり、多くの文化財を目にします。神社仏閣を訪れれば、悠久の時を超えて佇む荘厳な空間に身を置いて歴史を感じ、千年以上もの間、人々から親しまれてきた仏像などの彫刻や絵画などを見ることができます。
 地域ごとに様々なお祭りがあり、葵祭、祇園祭、時代祭など古くから続く季節ごとの伝統祭事もあります。能、文楽、歌舞伎などの伝統芸能の公演を身近に見ることができますし、一方で、京都国際マンガミュージアムや東映太秦映画村もあり、アニメやゲームなどメディア芸術も盛んです。京料理などの食文化、暮らしに息づく生活文化もあります。
 また、本当に素晴らしい子どもたちの文化芸術活動があります。今年初めには、児童生徒の芸術祭として「京都未来芸術祭」にお招きいただきましたが、小中高生の皆さんのステージ(ダンス、マーチングバンド、吹奏楽、合唱)に心の底から感動し、全身が震えました。ステージでのパフォーマンスのレベルが非常に高かったのはもちろんですが、ライブで訴え感じるものを目にして涙腺が崩壊してしまいました。
 このほかにも本当にたくさんの幅広い年齢の方が参加・鑑賞する文化芸術があります。挙げればきりがないのですが、大変恥ずかしながら、霞が関で業務を行っていた時には、それほどまでには身近に感じなかった「現場の近さ」を感じています。
 まさに、文化芸術の真っただ中で国の文化行政に当たらせていただいていると実感しています。空間軸としての暮らし・生活の中に文化があり、時間軸としても、長い歴史としてだけでなく、一人一人の人生においても文化があり、なくてはならないものだと実感しています。
 移転後、京都において、こうしたことを直に感じておりますが、文化庁の移転は、京都府・京都市・京都商工会議所など多くの関係者の支援なくては実現し得ないことでした。大変ありがたいことに、移転後も「これからが本当の始まり」として、様々にご支援いただくとともに、互いに連携させていただき、「地元」関係者との対話がかなり増えているところです。
 京都府や京都市、滋賀県など近隣の自治体の文化行事に参加させていただくこともありますし、若手職員同士の交流・共創活動としての勉強会も行っています。現場の政策課題への対応をより具体的に考えることにつながり、文化行政の企画立案の現場という意味でも大変近いと感じています。郷土食など食文化の振興、地域の魅力ある文化財を活用した文化観光の推進など伴走型で進めていきたいと思います。
 さらに、関西地方の自治体だけでなく、多くの地方議会の議員の皆様、自治体職員の皆様が、文化庁の視察と意見交換に来られました。中央省庁の移転が実際どのようなものかを一度見て話を聞きたいということでしたが、役所への予算要望や定例的な施策提案とは異なり、文化芸術による地方創生をテーマに率直な意見交換の機会が多く持てたことは大変有意義でした。こうした対話を今後も是非続けたいと思います。

その2:オンラインを活用した新しい働き方

 東京の霞が関を離れての業務ですので、文部科学省本省など東京勤務者との連絡調整や打合せなどは、メールや電話、オンライン会議を活用しています。大臣ほか幹部との打合せには、専用のテレビ会議システムを使用し、臨場感あるスムーズなオンライン会議ができています。関係省庁との打合せや、国会議員の先生方への説明についても、ご理解をいただき、概ねオンラインでの対応ができており、オンラインを活用した新しい働き方が中心になっています。
 一方で、オンライン会議や、メール、その他のコミュニケーションツールを同時に使用するようなマルチタスクに対応したパソコンのスペック強化や通信環境の更なる改善の必要性も感じているところです(当座必要な増強策は年度内に実施済)。
 また、東京で急な業務が生じた場合に迅速な対応が取りにくいということはありますが、オンラインの活用と東京勤務者との連携による対応も徐々に習熟してきました。
 オンライン対応が中心になったことで、逆に、ひざ詰めで議論して納得解を見出すようなものなど、対面で議論すべき場面や内容が、より明確になったと感じています。
 引き続き、オンラインを活用しつつ、リアルも交えたケースバイケースで新しい働き方に対応していきたいと思います。

 最後に、文化庁の京都移転は、移転によって何かが完成したというものではなく、移転後が新たな始まりです。今後、京都に限らず、全国各地域において、移転の成果を感じていただけるよう、文化芸術による地方創生、そして、文化芸術と経済の好循環を図ってまいります。

 

写真左:京都庁舎除幕式

写真右:岸田総理・永岡文部科学大臣(当時)の訓示(京都-東京のオンライン接続)

(いずれも令和5327日)

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 (令和6年3月末執筆)