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コラム

同志社大学大学院総合政策科学研究科・政策学部 教授 新川 達郎 氏

2019.02.26

議会改革のこれまでとこれから

 1990年代に活発化した地方分権改革運動は、近代日本の抜本的な体制変革として位置づけられることもあるが、これ以後、地方公共団体の長や議会のあり方に関する議論も盛んになって来た。地方分権改革それ自体は、実は住民自治や住民代表機関としての議会については、その検討を後回しにしてきた。それらは、むしろ地方自治制度の問題として整理され、地方制度調査会が扱うものと考えられた。そして地方分権推進委員会のような地方分権のための審議・勧告組織においては、議会改革やそのあり方は地方分権とは関係がないかのごとく扱われてきたように思われる。

 もちろん、地方分権改革において議会が俎上に上らなかったわけではない。議会の活性化や議会自身による改革努力が求められるとともに、議会の自己組織権の拡大をはじめとするさまざまな議会に対する規制をなくす努力はされてきた。例えば2000年の地方分権一括法では、議会議員定数の大括り化や議員提案の議員数を定数の8分の1から12分の1にするなど、制度面での手当てもないわけではなった。しかしながら、執行機関との関係において、また国との関係において議会の権限を拡充することについては、遅々とした歩みにとどまっているのであり、議長による議会の招集すら実質的には2012年の法改正まで待たねばならなかった。とはいえ、抜本的な議会改革には程遠いが、さまざまな議会制度の改革が地方自治法改正を通じて積極的に進められるようになってきたことは確かであり、こうした動きそれ自体は歓迎すべきであろう。

 これまでの地方自治法改正を中心とする議会制度の改革によって、実は、議会の権限や関与の範囲は広がり、その活動の根拠を大きく与えられてきたとも言える。そこには、議会の活動や組織編成を自由にするような改革がある。例えば議員定数規定の完全条例委任や通年議会制度の導入、委員会構成や所属の自由化などは、議会の独自の工夫を可能にしている。また議会権限に関してもその制限をなくす方向に向かっているともいえる。例えば、法定受託事務への関与、専決処分に関する要件の明確化、決算の不承認に対する長の措置責任などからは、議会の権限を長のそれとの関係で取り組んできた。

 もちろん議会の改革は、それぞれの議会の自主的な活動を通じてしか具現化しない。制度枠組みがどのように改正されても、それを活用しなければ意味はないのである。そして、近年の地方分権改革や地方制度改革などよりもはるか以前から、議会には強大な権限が戦後改革によって付与されていた。戦後改革で最も権限が大きくなったのは議会だといわれてきたが、それが活用されてこなかったところも部分的には指摘できるのである。

 歴史的に見れば、地方公共団体の議会は、かつての名誉職議員の伝統を引き継ぎつつ、地域社会における住民福祉の向上に貢献してきた。しかしながら、福祉国家状況が進み行政サービスの水準が底上げされるとともに、議会の存在意義に対するさまざまな疑問が提示されるようになってきた。議会活動の低迷が問題視され、議会や議員に対する批判の目は厳しくなっていった。とりわけ、ポスト福祉国家的な行財政改革運動が1970年代後半から国・地方を通じて顕著になるのであるが、それらが進められるなかにおいて、議会もその改革を進めざるを得ない状況となり、80年代以降は、地方行政改革の一環として議員定数削減や議員報酬・費用弁償などの経費削減を余儀なくされていくのである。しかしながらこうした議会改革は、経費節減という具体的な成果を挙げたかもしれないが、その効果額は相対的には小さく、最も重要な議会としての審議や議決の機能の低下を招くことになった側面がある。

 2000年代以降、議会改革を進めている現状は、一世代前の議会と比べると隔世の感がある。いまや地方公共団体で議会改革を進めていない議会はほとんどない。そしてこの改革は停滞することを許されないということも強く意識されている。議会が本来の役割を果たしているなら、そしてそのことが広く認められているなら、議会改革などという必要もないはずである。残念ながら公共部門に対する一般的な不信感や、税金の無駄遣いに見える事象に対する批判は、人々が地方政治に関する情報を受けとることが多くなればなるほど厳しくなっていくようにも思える。これもまた時代の変化として受け止めなければならない状況であると同時に、住民自身の政治的成熟を促しているかもしれない。

 ともあれ、こうした事態を受けて、伝統的には地方議会の自主的な改革は議員定数削減と報酬等経費の見直しから始まった。そして情報公開の時代に入ると議会の公開性や透明性が問われ、従来は非公開であった委員会等の諸会議の公開や議事録の整備が進み、いまやネット上の配信が当たり前にすらなりつつある。公開性の追及は、同時に議会への住民参加を促進し、住民懇談や議会報告会の制度化につながっていった。そして地方分権改革は、議会にも地方公共団体の自主性自立性を担う役割を求めることになり、政策形成過程への議会の関与を強めるべく、議員提案による政策条例の制定や総合計画の議決事件追加などを生むことになった。さらには分権改革後の地方公共団体のガバナンス(自己統治)を確立する鍵となる役割を監視機関としての議会にも求めるようになっているのである。

 今後の議会は、これらの期待に対して議会改革の歩みを緩めるわけにはいかない状況にある。地方自治がその本来の役割を果たしていくために、議会はその政策過程の一方の責任者として主体的に関与をし続けること、同時に地方自治の運営における公平・公正と効果・効率のガバナンスを実現することが期待されている。おそらく議会改革の次のステップは、議会の政策能力や監視能力を高める組織的な組み立てと、その能力を拡張するための外部諸力との連携協働にあるといってよい。一部の議会では、予算決算と政策議論を統合的にかつ通時的に検討する常任委員会組織を立ち上げて、政策課題を明らかにするとともに監視機能の強化を図ろうとしている。その努力が大きな成果を得るためには、議会の議員や会派、また議会事務局による内部の努力には限界があり、それを補うために住民の視点や知恵が求められるし、外部の専門家や専門的な団体、試験研究機関などの協力が必要となる。これからの議会は、住民や専門性との多様なネットワークを構築し、それらを活用するノウハウを蓄積していかなければ、住民の負託にこたえることはできなくなるであろう。