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コラム
国立大学法人琉球大学地域連携推進機構 生涯学習推進部門 特命准教授 空閑 睦子 氏
2019.01.23
自治体における広報の役割〜わかりやすい広報とは〜
1. 住民一人ひとりが地域の課題を「自分ごと」として捉えられる広報
これまで自治体における広報は、自治体の取り組み、取り扱うサービス等に関することを「一方的に告知する」ことに主眼が置かれていた。しかし、地域の主体性が問われ、住民が直接の当事者となる地域づくりへの移行が進む現在、地域の人々が、「内容に共感し、自分ごととして考えて、動いてくれる」、つまり地域の人々の行動の動機づけになるような広報が求められる。さらに、地域内だけでなく、地域外を意識した広報手法も必要になる。
広報におけるメディアは、ホームページやSNSなども含め多様化している。だが、中心となるメディアを定めておき、そこから情報を派生させる方法が、情報の統一が取れることもあり適切であろう。そして、現状においてもやはり、中心となる広報メディアは、定期的に発行される印刷媒体である広報紙(誌)(以下、広報紙)が最適と思われる。
さてでは、地域の人々が、「内容に共感し、自分ごととして考えて、動いてくれる」広報を行うためにはどうすればいいのか。広報紙制作を念頭に置きながら、4つの考え方を挙げる。
①広報紙制作に当たっては、地域の特性に合わせて明確な目的・目標を立てる
これは、いわゆる編集方針を明確にすることである。
②指導・教育・啓発色が強くならないようにする
編集方針である目標・目的を意識するのは大事だが、「~しなくてはだめ」「このままだと○○になる」などといった表現が増えると、指導・教育・啓発という上から目線の紙面になる。こうなると読み手はうんざりし、共感は得られない。
③情報発信とその浸透の難しさを理解する
情報が浸透し、読者から何らかの反応が出るようになるには時間がかかる。反応をつかむのはそう簡単ではないと覚悟し、目標や目的に沿って紙面をつくり続けるという「継続」の姿勢が必要になる。
④「住民一人ひとりがリーダー」の時代を支える意識を持つ
広報紙の制作者は、編集者・制作者という実務上の役割だけでなく、同時に、ファシリテイター(促進者)、インターミディエイター(仲介者)、トランスレイター(翻訳者)の役割を担っているのだということを意識することも必要になるだろう(図1)。
図1 「リーダー」の時代から「住民一人ひとりがリーダー」の時代まで
次に、では具体的にはどのようなことを行えばいいのか。いくつかの例を挙げてみる。
①明確になった編集方針を、わかりやすく伝わりやすい言葉で表し、広報紙の題字のそばに入れるなど、毎回意思表示をする。
②ロゴマークやキャラクターはイメージがダイレクトに伝わりやすいという特徴があるので、地域のロゴマーク、キャラクターなどと連動する。地域のテーマカラーを設定する方法もある。
③住民が情報をシェアして会話につながるような記事や企画をつくる。たとえば、a)地域の人に参加してもらいやすい紙面にする、b)風土や歴史を振り返る、c)地域の人の表情がわかる写真の掲載を意識する、d)工夫を凝らしたカレンダーを付ける、といったことが考えられる。
2. 地域外コミュニケーションの役割を持たせる広報
広報紙による、地域の外とのコミュニケーションも重要となる。魅力的な資源や文化など地域の価値を、他の自治体組織、地域づくりに関連するNPO、一般企業、マスコミ、近隣地域の住民、元地域住民、UI ターン希望者、地域ファン、大学等教育機関などの、さまざまな意味で地域と利害関係を有する人や組織、いわゆるステークホルダーに情報発信することが重要になっていく。
3.PDCA サイクルを取り入れ、広報紙の内容を客観的に評価する広報
Plan、Do、Check、ActionというPDCAサイクルを実行し、広報紙の内容を客観的に検討する。これにより、制作に伴う不安感の解消も期待できる。
4.広報紙制作上の留意点
最後に改めて、わかりやすく伝わる広報を実現するためにはどうしたらいいのか、重要と思われる3点を挙げる。
①読者(情報受信者)の再確認
「誰に対して何を発信するのか?」を常に考えることが大事である。
②類似メディアの研究
他の自治体の広報紙、一般市販雑誌や新聞の記事などをよく研究して、いいと感じたものは積極的に取り入れる。
③記事の分量を絞る判断力・決断力を磨く
読者に情報を効率的に伝えるためには、思い切って記事や文字数を減らす、大きくメリハリを付けるといったことを検討することが大事である。
もっとも、自治体の広報紙の制作においては、内部的あるいは外部的に様々な制約もあり、なかなか自由にはできない部分もある。しかし、そうした制約の中でも、読者に楽しんでもらう、あるいは読者に考えを深めてもらうことを第一に考えながら、記事や写真を取捨選択し、デザインに工夫をこらし、自分たちなりのものを仕上げていくこと、そして読者からのフィードバックを得ること──それがいわゆる「編集」という作業の醍醐味であり、広報紙を制作する面白さややりがいもそうした作業の中から生まれてくるのではないかと思われる。