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コラム

甲南大学マネジメント創造学部 教授 前田 正子 氏

2018.12.19

保育所での安全・安心

保育所での安全・安心

 保育所には様々な子どもが来るようになり、保育時間も長くなっている。そんな中で保育の安全確保はどうなっているだろうか。保育室内や園庭の安全管理、アレルギー対応、避難訓練、緊急の際の連絡体制の確認や救急救命の訓練などは行われているだろうか。保育で危ない時は声を出して確認したり、職員会議での意思疎通はうまく図られているだろうか。

 実は保育所での死亡事故は認可・認可外に関わらず起こっている。2015年は14件(うち10件は認可外)、2016年は13件(同7件)、2017年は8件(同4件)である。死亡事故は事故後の検証が必須である。それも保育施設が実施する訳ではなく、認可保育所に関しては自治体が第三者委員会を立ち上げて検証する。実は検証制度が導入されるまでは、死亡事故は数十件起こっていたにもかかわらず、検証されたものはわずか4件程度だと考えられている。さらに事故検証によってはじめて、保育所側の説明と大きく事実が違っていたこと、さらに認可保育所として基準違反であったにも関わらず、長く自治体が監査でそれを見すごしていたことが判明したケースもある。

事故報告制度の導入

 それではそもそも、これまでは保育所での事故はどのように扱われてきたのだろうか。

 実は最近まで保育所の事故がどの程度起こっているのか、さらになぜ事故が起こったのかはわからないままだった。2004年から厚生労働省は国に報告のあった保育施設での事故件数の公表を開始したが、事故の内容や経過が不明確なケースが見られた。そこで、2010年には事故報告様式や記載例を例示し、2013年には保育施設での事故防止の徹底を通知している。だが実際に起きた重大事故のすべてが報告されているかどうかも分からず、事故の状況も行政のチェックなしに施設側の報告に基づくものが多かった。そのため他の施設が学ぶこともできず、同じような事故が繰り返されていた。例えばドアのスキマに子どもが指を挟む切断事故などである(これは今も繰り返されている)。死亡事故も殆ど検証されておらず、本当の要因が分からないままであった。

 一方で2015年度からの新制度開始に当たっては、保育施設の多様化が進み、さらに保育定員が拡大することが予測されていた。そこで新制度発足に合わせ、2015年4月から死亡や治療期間が30日を超える重大事故について、認可保育施設はすぐに自治体に報告する制度が導入された。さらに自治体はそれを当日か翌日までに国に報告することとなっている。それに合わせて、内閣府のホームページで重大事故防止や事故発生時の対応などについてのガイドラインが公表されると共に、2015年6月から事故報告件数と事故内容が公表されるようになった。また2017年10月からは認可外施設も同様の報告が課せられている。

 さらに死亡事故等重大な事故に関しては、再発防止のため自治体において検証を実施することが2016年4月より求められている。

 特に死亡事故の場合、警察が一連の資料を押収するため、死因が分からないことも多い。だが検証の目的は犯人捜しをするのではなく、保育プロセスに課題がなかったどうか、事故を防ぐためにはどこかに改善点があるのかなど、次の保育に活かす学びのプロセスでもある。だが保育の質の底上げには、個々の保育施設の導入力だけでなく、行政の保育への監査や指導、保育施設長や保育士の研修体制整備の取り組みも重要である。事故を個々の保育施設の責だけとせず、自治体内の保育全体の質の向上や改善に対してどういう働きかけができるかを、検討実施することも必要である。

事故の背景にあるもの

 すでにこれまでいくつかの事故検証がなされ、当該自治体によって公開されているものがある。事故は公立・社会福祉法人の認可保育所、認可外保育所で同じように起っている。いくつかの検証から分かるのは、基本的な保育がなされておらずに事故が起こっているということである。

 例えば、一歳児で保育所に入所したばかりで慣れずに泣き続ける子どもを別室に寝かしていたケースがある。これも「みんなでみよう」と言っていたものの、誰が責任を持って見守るかを決めておらず、誰も見守らないまま長時間一人で寝かされていた。呼吸チェックなどもなされていなかったのだ。

 プールでも一緒に遊ぶ人と監視役を置くことが求められているが、それを怠り子どもが水死した事例もある。この保育所では他の職員は事故を起こした中堅職員の漫然とした保育に常々疑問を抱いていたものの、注意はしていなかった。そして子どもの命が失われたのだ。

 また、様々な事故や経験を経て昔は「大丈夫」と思われていたことが、「危ない」と気づかれたこともある。例えば、近年、嚥下力のまだ不十分な子どもには与えてはならない、とされたものにホットドッグがある(柔らかいパンと噛み切るのに力がいるウインナーは危ない組み合わせで、保育所ではないものの、小さな子どもの窒息死がすでに数件起こっている)。しかしこれが今も保育所でおやつとして与えられ、やはり子どもが窒息している。しかもこの事故は公立保育所で起こっている。ということはこの事故があった自治体の公立保育所の献立を作成している栄養士には、適切な食材の知識がないと考えられる。

 事故を防ぐには、昔の知識のまま慣れの中で漫然とした保育をしておいてはダメなのだ。保育士が自覚を持ちながら、日々の学びや気づきを忘れないことが必要である。あなたの保育やあなたの保育所は大丈夫だろうか。