メールマガジン

コラム

首都大学東京都市環境学部 客員教授 山本 康友 氏

2018.11.28

人口減少社会におけるファシリティマネジメント

 国立社会保障人口問題研究所から、平成30年3月に、「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」の報告があった。この推計では、すべての都道府県の総人口が、平成42(2030)年以後は、一貫して減少し、今後30年で2000万人以上減少することになる。とりわけ、ひどい落ち込み方をするのは都市部より地方であり、3割以上の減少の地域が数多く出ると見込まれている。さらに、南関東(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)の総人口割合は、全国の総人口に占める割合が上昇をし続け、平成57(2045年)には、31.9%に達し、一極集中の様相がますます大きくなると推計されている。

 年少人口(0-14歳)の人口と人口割合は、低い出生率に伴い、今後も、すべての都道府県で減少を続けることになる。また、生産年齢人口(15-64歳)も、東京都を除いて、今後も一貫して減少し、さらに平成37(2025)年からは、すべての都道府県で減少することになる。生産年齢人口比率は、2045年には、52.5%に落ち込み、労働人口が2人に1人の時代になりつつある。

 一方、高齢人口(65歳以上)は、平成32(2020)年までは、全都道府県で増加するが、その後は減少する県も出現し始めるが、大都市圏や沖縄県は大幅に増加すると推計されている。そして、2045年には、すべての都道府県で、65歳以上の人口割合が30%を超え、秋田県においては、50%超えになると推計されている。

 つまり、今後の人口構成状況などを考えると、社会保障費の増大を生じ、税収の減少をもたらすことになる。そして、生産年齢人口が大幅に減少することは、消費の中心となる人口が着実に減少していくことであり、それに比べて、年金生活の高齢者が多数を占める社会では、消費を抑えていくことになり、経済が縮小していくことになる。

 また労働人口が限られると、人手不足が慢性化し、例えば、宅配便は人手不足のため、現在でも生じ始めてきているが、配達が深夜までに及ぶようになってきている。つまり、人手不足解消のためのネット販売にも限界が生じてきている。

 また定年についても、年金の支払いや健康保険等の社会保障費の破綻が、徐々に現実化し始めてきていることや人手不足とあいまって、70歳までへの定年延長が叫ばれ始めている。元気な高齢者が増えていることもあり、その方々の活用をされることは、大いに喜ばしいことであるが、青年層の比率が減少することで、企業や地方公共団体の職員の年齢構成や管理職割合の高齢化が推測できる。特に、行政を担う職員数も、人口減少に合わせて減らすことが必要となる。取り分け、その配分も、社会秩序を保つためにも、公安や消防関係の人員は維持しても、それ以外の一般職員は減らさざるを得ないことになる。

 このような総人口の減少は、これまで必要とされていた公共施設の余剰化や遊休化がさらに進展することが予測され、利用者の減少に伴い活用が十分に行われていない公共施設が増加し、特に、過疎地域などに、その傾向は顕著になると考えられる。  

 また、少子高齢化の進行が急激に起こっている地域では、地域活力の低下や地域コミュニティの衰弱などが課題となっている。こうした人口構造の変化は、公共施設のあり方に大きな影響を与え、首都圏では保育所不足が深刻であるが、全国的にみると保育所等の児童福祉施設、幼稚園・学校等の教育施設の余剰が発生するとともに、急速な高齢化に伴ったことにより、高齢者福祉施設、介護施設などの不足をもたらしている。

 このことを考えると、社会的な役割を終えた公共施設や、国や他の公共団体や民間企業などが整備して競合化している施設を廃止・再編することが必然となる。

 そして、今後の公共施設は、住民や行政のニーズに的確に対応することが必要であり、さらに財政的なコストの制約もあり、それに伴って維持更新でき得る施設総数・規模にも限界がある。このような課題解決に対しては、公共施設の縮減や再編に向けては、今までの考えや縦割りの行政では、これらの課題克服はできないと考える。民間との役割分担や利用日数・人数を考慮した公共施設の配置が考えられる。佐倉市や海老名市で実施されている学校プールを民間施設で代替することや、複数学校や近隣自治体との共同利用などの従来の考えに捉われないことが大事となる。さらに、施設機能の再編が行われ、公共施設として保持することとなったら、それらの施設については、耐用年数を考慮しての長寿命化を推進し、今まで以上に、長く公共施設を利用することが重要である。なお、一部の地方公共団体では、コンクリート強度等を無視して、財政対策上からの長寿命化の考えが浸透していることを憂慮している。

 従来は、公共施設の状態が悪くなってから改修、更新などを行ってきてきた。しかし、悪くなった後での対応は、手の付けられない状態になってしまっていることが多いため、その後の補修などの対応が手遅れになることが多く、補修では済まなくて、更新を選択せざるを得ないものもある。そのため、今後は、すべての公共施設等を事後保全(状態が悪くなってから対応すること)から予防保全(あらかじめ決められた時期などに改修などを実施すること)を行うことで、的確な状態にすべきと言われているが、これには莫大な金額が掛かる恐れがある。このため、コストと状態の見合いで、予防保全についても、時間基準保全(時間の経過に合わせて、定期的な更新等を行うこと)と状態基準保全(機器等の状態に応じて修繕等を行うこと)を行いながら、さらに事後保全の組み合わせをすることによって、いかに適切な時期に最小のコストで行えるかが重要といえる。

 また、「ロボットやAI(人工知能)の活用」も、ますます重要となる。機械化できるものはロボットに任せることや議事録等の速記についてのAIの活用、さらに、ビッグデータについても、部署を超えた利用がますます必要になると考える。

 最後に、秋田県美郷町の職員の方に言われた言葉をお伝えしたいと思います。「高齢者にとって必要なのは、病院と買い物であり、公共施設が近くにある必要はなく、申請などを行う際に大事なのは、その内容を理解し易くし、簡単に行われることである。そのためには、職員が、高齢者のところへ足を運ぶことが大事である」と。