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公益財団法人仙台観光国際協会 国際化事業部 国際化推進課 課長 須藤 伸子 氏

第23回2019.03.25

これからの多文化共生の地域づくりに向けて

「一番行きたくないところは、役所と病院です・・」

 これは区役所職員向けの研修で、来日当時の体験を語ったベトナム人女性Aさんの言葉です。日本語で用件が言えず、聞かれたことにも答えられないため、手続きで区役所に行くのが怖かったそうです。どこに並ぶのかわからず右往左往したり、自分の後ろに長い列ができてしまって恥ずかしい思いをしたとのこと。病院では、更に難しい専門用語が出てくるうえに、体調も悪いのでは、不安は倍増したことでしょう。

 日本の人口減少が進む中、日本で暮らす外国人住民は年々増加しており、2018年6月末時点で約264万人と過去最高を記録しています。この中には、前述のAさんと同じように感じている人が少なからずいるでしょう。少子高齢化による人手不足を補うべく、技能実習生や留学生アルバイトが、地方の農業・漁業から、都会のコンビニまで、様々な場所で働き、私達の暮らしを支えています。外国人集住地域では、団地住民の7割が外国人、教室の半数が外国人児童という状況も見られるようになりました。それ以外の地域でも、「町の工場に人材派遣の外国人労働者が大勢引っ越してきた」「専門学校に留学生クラスができた」という突然の変化が起こっています。

 そんな中、政府は昨年、外国人材の受入拡大を発表しました。12月には出入国管理及び難民認定法の一部を改正し、在留資格「特定技能」が創設されることになりました。特定技能は、特に人材不足が著しい特定分野に認められる単純労働の可能な在留資格です。5年間で34万人という受入に向けて、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」が打ち出され、医療・保健・福祉・災害・交通安全・事件事故・消費者トラブル・人権問題・生活困窮・住宅・労働などなど、生活のあらゆる場面を想定して126の施策を策定、総額211億円の予算が措置されました。

 施策のひとつである「多文化共生総合相談ワンストップセンター(仮)」は、都道府県・指定都市・外国人が集住する市町村など全国約100カ所が想定され、設置する自治体には、その整備費・運営費が国から支援されます。外国人に関する相談を受け、法律や労働、福祉などの専門機関と連携して、解決につなげるための一元的窓口です。この原稿を書いている3月現在、各自治体では、まさに大急ぎで検討が進められているところですが、恐らく国際化協会(国際交流協会)や行政が、従来から行っていた外国人相談業務を拡大する形での設置が多いでしょう。名称や設置時期、業務内容の詳細については、各地域の実情に応じて決めることができますが、名称や利用方法をある程度統一するなど、外国人住民にとって、わかりやすい制度になってほしいものです。

 国際化協会職員として私が期待する施策は、「日本語教育の充実」と「外国人児童生徒の教育等の充実」です。日本語が不自由なことで生じる「言葉の壁」は、外国人住民にとって、その後の暮らしを左右する大きな問題です。ドイツやオーストラリアのように移民を多く受け入れる国では、数百時間という語学学習が国によって保障されていますが、日本では、多くの部分を市民団体による日本語教室やボランティア活動に頼っている現状です。特に子ども達の問題は深刻です。日本語がわからない状態で学校に編入し、友人関係がうまく築けなかったり、授業が理解できないまま学年が進んでしまい、受験を迎える、または途中でドロップアウトしてしまう、という子どもが数多く存在しています。初期の対応がその後の人生に大きく影響します。学校・教育委員会・国際化協会・市民団体等が連携して、今回出された施策を活用し、地域格差の無い支援体制をつくることが急務です。

 「受け入れるのは移民ではなく労働者」という説明をよく聞きますが、労働者は機械ではなく人間です。税金を納める住民として、行政サービスを受ける権利があります。逆に言えば、きちんと行政サービスを提供することで、暮らしが安定し、自立した市民を増やすことにつながります。すでに外国人集住地域を中心に、日本語学習支援や外国語ガイドブック作成、行政用語の「やさしい日本語」化など、全国で様々な取組がなされています。(一財)自治体国際化協会のウェブサイトには事例集も公開されています。時間と経費節約のためにも、まずは情報を収集し、既存のものを活用していきましょう。

 冒頭で触れたベトナム人女性Aさんですが、話の最後をこう締めくくりました。「日本の公務員はやさしい、とても丁寧に説明してくれます。今は日本語もできるので、これから日本に来るベトナム人の手伝いをしたいです。」外国語ができないので外国人住民の対応は苦手だ、と感じる人は多いと思いますが、まずは笑顔で「こんにちは」と声をかけるだけでも互いの緊張はほぐれます。それから、ゆっくりと、わかりやすい日本語で会話を始めてみてください。

外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(概要図)

http://www.moj.go.jp/content/001280352.pdf

外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(本文)

http://www.moj.go.jp/content/001280353.pdf

多文化共生事業事例集(一般財団法人自治体国際化協会)

http://www.clair.or.jp/j/multiculture/shiryou/jigyo-genre.html