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第24回2017.03.22

安心できる妊娠・出産とは何か、外国人ママの目線から考える

 外国人住民の定住化が進み、労働、教育、地域とのコミュニケーションなど生活に係るあらゆる分野において多言語・多文化への対応が必要になっています。外国人住民の課題を解決するため、多言語化の取組みが広がっていますが、ところで、これらの課題は決して言語だけの問題ではないと私は思います。今回は、筆者自身の体験を元に日本の妊娠・出産ケアが外国人ママにどう見えているか、また外国人ママも安心して妊娠・出産できるために何が求められているかについて考えたいと思います。

 日本で生活して16年になる私ですが、初めての妊娠・出産をここ、日本で経験しました。母国の中国にはない母子手帳や妊婦健診補助券の配布、妊婦教室の開催、保健師による相談、それからお産のための医療環境などなど、どれも素晴らしいものだと感じました。日本滞在歴が長く、言葉の問題も特にないので、何の心配もないと思われがちですが、実際はそうではありませんでした。日本語能力のあるなしに関係なく、外国人ママゆえの大きな不安がありました。それは何だと思いますか。意外に思われるかもしれませんが、それはいろんな場面で出会う日本人が、外国人である自分を受け入れる心があるかどうかです。

 例えば、日本語が通じない外国人ママが病院に行く際、通訳が同行すれば、言葉の問題はなくなります。しかし、お医者さんの対応が快くなければ不安が募るばかりです。多くのアンケート結果の通り、ある程度言語が通じるが不親切な対応と、言語は通じないが親切な対応とどちらが安心かと聞かれれば、後者を選ぶ外国人住民が多いです。言語の心配より、ここの日本人は外国人の自分を見てどう反応するか、日本人と同じように親切にしてくれるかなど、言葉の問題よりむしろ外国人の自分に対する態度のほうがもっと気になります。特に妊娠、出産、病気など、健康や生命に係る場面なら尚更そのことに敏感になります。私が通っていた病院は外国語は通じませんが、なぜか片言の日本語しか話せない外国人ママたちも明るく入院していました。日本語がぜんぜん通じず、困るフィリピン人女性もいましたが、病院のスタッフはいつもご家族に電話して通訳を頼んでいました。文化のちがいで困る外国人ママもいました。例えばお産の仕方、産後の食事、新生児の体調管理など文化によって全然ちがいます。そのちがいに戸惑ったのは私だけではなく、ネパールやペルーの女性も同じでした。そこの病院は多文化への配慮はほぼありませんが、職員はとても親切です。外国人ママにある程度慣れているからなのか、何とか伝えようと写真や英単語で説明するお医者さんであったり、日本語が話せない外国人の患者さんのお世話をする助産師であったり、医療関係者として普通に患者さんと接しているだけかもしれませんが、そんな姿がとても微笑ましく思え、多くの外国人ママが癒されました。

 外国人ママも安心して妊娠・出産できるためには、様々な場面での言葉や文化面への配慮が大事です。しかし、外国人住民を受け入れる意識を示していただくことがそれ以上に大事かもしれません。例えば病院や保健センターの看板だけでも多言語で表示したり、外国人住民にも対応する意思をマークで提示するなど、「あなたが来ていいですよ」というサインを出していただければ、きっと少しでも外国人ママの安心につながるでしょう。

 妊婦健診の際、私はいつも外国にルーツをもつ医師がいる病院に通っていました。日本人とコミュニケーションができ、日本語に問題がないのに、なぜいつもそこを好んでいたのだろうと考えていました。そして外国人住民自身が直接外国人住民にサービスを提供できることは何より説得力があることに気がつきました。もちろん多言語表示や意識改革も大事ですが、市役所や保健センター、病院など、行く場所で普通に外国人職員に出会うようになれば外国人ママがきっと安心して妊娠・出産できると思いますし、そんな地域はきっと外国人ママだけではなく、全ての外国人住民が安心して生活できるでしょう。その日が来るのを心から楽しみにしています。