メールマガジン

第18回2016.09.28

多文化共生と国際協力

 多文化共生は、在日外国人との共生社会づくり。
 国際協力は、海外で暮らす人たちへの支援活動。

 そんなふうに捉えている人は少なくないかと思います。
 実際、私も長い間そうした理解のもと、自団体と他団体の活動を区別していた時期があります。そうではないと思うようになったのは、2014年に台湾で、7言語で24時間対応の移民向け多言語コールセンターが開設されたという報道[i] を目にしたのがきっかけでした。対応言語には日本語も含まれていて、台湾での生活にさまざまな困難を感じる日本人がいて、それを支援している人がいるということを知りました。落ち着いて考えてみれば当たり前のことなのですが、ちょうど日本国内での外国人相談対応の仕組みづくりに関わっていたときだったこともあり、ずっと多文化共生に取り組んできた私には「海外で生活する日本人を支援する」という発想がありませんでした。このニュースを聞いたとき、そうした海外での取り組みに自分たちも何らかの貢献ができるのではないかと考えました。つまり、日本と海外の各相談窓口がつながれば、渡航前〜現地滞在中〜帰国前〜帰国後と、切れ目のないサポートが可能になるのではないかと。

 在日外国人への生活支援を行う中で、「こういうことは来日前に調べられなかったんだろうか」と思うことが何度となくあります。今の時代、情報は溢れています。10年前と比べればインターネットの利用環境は飛躍的に充実しているし、日本から帰国した人の話を直接聞くこともできるでしょう。ちょっと調べればわかったんじゃないか、事前に知っていればこんなには困らなかったんじゃないか、だれか教えてあげる人はいなかったんだろうか、といつも残念に思います。
 しかし、活動を続けていると、いかに情報が届いていないか、また当事者にとって必要な情報へのアクセスがいかに困難かを何度も痛感させられるのです。決定的に不足しているのは、情報を出す側と受け取る側を「つなぐ人と、その仕組み」でした。受け手には「ここにあなたが必要としている情報があるよ」、送り手には「こんな情報を必要としている人がいるよ」と直接伝える人がいない、国内と海外とで情報をきちんとつなげる仕組みがないのです。その背景には、当時の私のように国内と海外での支援を分けて考えてしまっていることや、同様の課題に気づいても、継続的に情報をつなぐ仕組みを構築できていないという現状があるのだろうと思います。少し調べてみると、実際、過去にそうした取り組みにチャレンジしていた団体もありますし、現在でも細々と行っている団体もあるようですが、必要なのはもっと大きな枠組みです。

 ここ2,3年、アジア諸国のNGOや研究者と何度か意見交換する機会があり、この問題提起をしたところ、だれもが、国境を超えた相談体制構築の必要性を感じていると言います。今年も韓国とフィリピンを訪れ、現地の支援団体の活動を視察する中で、今後来日を目指している人や、日本から帰国した人たちに出会いました。そしてやはり、本人たちにも、支援者にも、必要な情報が"事前に"提供されていないことを知り、きっと後で困るだろうなと感じましたし、すでに困っているという声も聞きました。そこで現地の支援団体に、来日前に知りたいことがあれば可能な限り情報提供するし、こちらから知らせたいことを本人に伝えてほしいと持ちかけたところ、それができれば非常に助かると喜ばれました。

 人が国境を超えた移動を何度も繰り返している状況において、ある地点・ある時点に限った支援だけでは、常に後手後手の対症療法になってしまいます。その状態から脱するには、国内外のNGOが連携し、同じ方向性でもって問題の発生を未然に防ぐことに注力する必要があります。もちろん、これはNGOに限ったことではありません。世界各地に姉妹都市・友好都市等をもつ自治体も、その国と日本を行き来する人たちへの情報提供等を考えてみてはいかがでしょうか。観光情報だけでなく、生活情報や過去のトラブル事例、FAQも含めて。

 自治体もNGOもともに、きっとこれからは「多文化共生or国際協力」ではなく、「多文化共生×国際協力」がカギになると思います。


[i] Yahoo!ニュース「在日外国人向け相談ホットライン開設、日本語もOK=台湾・移民署(中央社フォーカス台湾 2014年1月27日12時35分配信)