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第16回2016.07.27

留学生支援と地域貢献

2015年5月1日現在、日本に在留する留学生は208,379人(注1)であり、日常生活においても留学生と出会う場面が増えたと実感する人が多いでしょう。言語や文化のちがいによる壁に直面する留学生が多く、大学などの受入機関をはじめ、国際交流団体や市民ボランティアによる支援事業が全国各地で展開されています。その事業内容は日本語、文化理解支援にとどまることなく、住宅や医療、教育など多岐にわたっています。今回、留学生支援事業に大切な視点は何か、私自身が関わった団体の活動を通して見えたヒントについて留学生OBの視点からご紹介したいと思います。

和歌山市内にNPO法人WINコンコードという(以下WINという)小さな団体があり、地域をよくしていこうと、25年間も留学生支援をボランティアでやって来られました。その熱い思いと素晴らしい行動力、継続力こそが活動を支える秘訣だと思いますが、なぜWINの事業が留学生のハートをつかんで離さないか、言い換えれば留学生支援事業に大切な視点は何かについて意見を述べたいと思います。

まず、よい活動、事業につなげるには安心感を与えられることが前提となります。留学生だけではなく、異国の地で暮らす人々には心細さ、もっと言えば厳しい環境で懸命に生きていかなければならないというストレスが日々続くので、安心感が必要です。安心感を与えるためには、信頼関係が必要で、信頼関係は共に生活していく中で、丁寧に築いていくほかはありません。WINは1年中、1日24時間常に留学生のそばにいて、留学生一人一人にきめ細かく生活のサポートをしています。実績があるWINの場合は、後輩留学生が来日前より既に先輩の留学生からWINの存在を聞いており、そのことも信頼関係づくりに大きくつながっているように思います。

次に留学生が心から望んでいることは何か、そのニーズにいかに対応できるかが重要です。近年、留学生のバックグランドや家族構成、ライフデザインなどが複雑化し、ニーズも多様化しています。日本語が不自由で、日本社会のシステム、評価されるポイントをまだまだ理解できていない留学生の中には、どのように道を切り開いていけばよいのかがわからず、目標すら見失うケースも多くみられます。一人一人の個性、おかれた環境、課題もしくはニーズを見極め、寄り添いながら共に考え、サポートできているのがWINの活動のように思います。留学生支援を単なる一方的なサポートで終わらせないために、時には役割を与え、留学生が自身の成長を実感できるよう、その切っ掛けをつくることも大切です。WINでは年間様々な事業をやっており、留学生を事業に巻き込み、自国文化の紹介や日本留学を通して学んだことを発表したり、他の留学生のサポートをしたりするなど、その留学生に合った課題を与えるようにしています。

更に留学生と地域をつなげ、双方にとって望ましいマッチングポイントを模索することが地域貢献につながるポイントです。今から30年前、地域をよくしていこうと有志でグループを作った当時のメンバーたちは地域の留学生の厳しい現状に気付き、何とか助けようと留学生支援を始められました。WINの活動そのものが地域貢献につながっていると思いますが、代表的な事業としては何と言っても就職支援です。卒業後も日本で生活したい留学生の活躍の場を何とか提供したいとの思いからWINは、就職支援活動をしています。ビジネスの場で必要とされる日本語や、就職の面接について教えるだけではなく、地元企業の見学、事業所の職員と直接対話できる機会を提供しています。WINがコーディネートしたケースは、留学生、企業の両方にとってよい雇用につながっています。

活動規模、地域が小さいからこそ、できることがあるかと思いますが、和歌山で就職、定住する留学生が後を絶たないのは、やはりWINの存在が大きく、またWINの活動成果の証しでもあるように思います。留学生にとってWINとの出会いは留学生活を充実させる大変よい切っ掛けであり、私自身もWINとの関わりを通して人や社会の役に立つことをする大切さを学ばせていただきました。

最後になりますが、WINのような活動が各地で展開され、また日本の地域を愛し、地域で活躍する留学生がますます増えることを期待しています。

NPO法人WINコンコードのホームページ
http://win-concord.jp/

WINの事業の詳細については「自治体国際化フォーラム」(2014年12月号p40-41(一財)自治体国際化協会(CLAIR))をご覧ください。
http://www.clair.or.jp/j/forum/forum/pdf_302/15_closeup01.pdf

注1)平成27年5月1日現在
   独立行政法人 日本学生支援機構(JASSO)
  「平成27年度外国人留学生在籍状況調査結果」
http://www.jasso.go.jp/about/statistics/intl_student_e/2015/index.html