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第04回2015.07.22

今こそ、考えるとき~NPOとの協働~

兵庫県北部に位置する豊岡市は、人口約8万2千人、そのうち0.6%(520人)が外国籍市民である。約半数を中国籍者が占め、フィリピン、韓国・朝鮮、ベトナムと続く。また、市内北部は日本海に面し、海水浴場や温泉地もあることから、海外からの観光客誘致にも力を入れており、東アジア諸国を中心に年間1万人近くが訪れている。近年このまちで、あるNPOによる興味深い活動が展開されている。

NPO法人にほんご豊岡あいうえお(河本美代子代表)は、JR豊岡駅から車で5分のところに事務所を構える。筆者が訪れたある平日の夜、事務所の一角で始まる日本語教室には多様な国籍をもつ人々が集まり、終始笑い声が絶えない。同団体は、日本語教育にとどまらず、外国人住民が抱える様々な生活上の悩み事を解決しようと集まった市民が、但馬地域に住むすべての人にとっての暮らしやすい環境づくりを目的に、2012年に設立。注目すべきは、寄せられた外国人住民の悩み事の解決を自団体の活動の範囲内にとどめず、行政等に対して具体的な解決策を提案し、協働で取り組んでいく仕組みを作っていることだ。

2014年、文化庁からの委託事業の一環として、外国人の子育てに関する悩みや各種行政サービス情報を病院や保健所、行政の関係部署等と共有する「子育てネット」を結成。あいうえおスタッフがコーディネーターとして、相談者と関係機関をつなぎ、適切かつ迅速に対処にあたっている。また、外国人住民向けの防災講座を開催し、市の担当職員を講師に招いたところ、通常の説明では外国人に十分に理解してもらうことが難しかった。担当職員は「これでは防災無線から災害情報を流しても伝わらない」と気づき、市はあいうえお事務所に防災無線を設置し、FAXと合わせて避難情報等を伝達することを決め、2014年11月10日に覚書を締結。あいうえおからは、やさしい日本語や外国語で外国人住民に情報を届ける。これを機に同月26日には、さらなる支援拡大を見込み、市と豊岡市国際交流協会との間にも同様の覚書が結ばれた。2013年度にJIAM多文化共生マネージャー養成コースを修了したスタッフの岸田さんによれば、今夏も台風情報等を多言語で発信し、外国人住民から「わかりました。助かりました。」といった声が届いているという。

そして今年、6月1日の改正道路交通法施行に際しては、「自転車のルール」を18言語に翻訳し、ウェブサイト上で公開。だれでも無料でダウンロードできることから、県外の外国人支援団体のサイトにもリンクが貼られるようになった。言語数の多さについて河本代表は「外国人観光客でレンタサイクルを利用する人も多く、情報提供が必要だと感じた」と、今後も翻訳言語数を増やす予定だ。なお、この翻訳は「やさしい日本語」版をもとに在住外国人の協力を得て行われており、彼らの社会参画としての意義もある。

外国人散住地域で、支援の担い手となる市民活動団体も少ないまちでは、こうしたマルチに活動を展開するNPOの存在意義は非常に大きく、公的機関にとっても頼りになる存在だろう。しかしあえて苦言を呈せば、子育てや災害、交通法規といった誰もが必要とする情報については本来、各情報の発信元が多言語で提供すべきだ。NPOの活動は、なすべきことがなされていない現状を課題と認識し、自主的に取り組むものである。そこに無償での依頼や過度な依存が続けば、活動はもとより団体の存続自体が危ぶまれることを忘れないでほしい。行政委託から外れたNPOが活動休止に至る団体や、それまで予算がついていた事業を無償または廉価での継続を求められ運営に行き詰まるケースが全国各地で散見される。好事例に支えられている今のうちに、今後の多文化共生推進における官民協働のあるべき姿を考えてみてはどうだろうか。

NPO法人にほんご豊岡あいうえお
http://www.eonet.ne.jp/~aiueo-nihongo/index.html

豊岡市「災害時における市内の外国人への情報伝達に関する覚書」
http://www.city.toyooka.lg.jp/www/contents/1415610055310/index.html