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コラム
執筆者:徳島県小松島市法務監・弁護士 中村 健人
2017.10.24
民法大改正~自治体実務に与える影響~
1.民法の改正は自治体には関係ない!?
本年(2017年)6月、改正民法が成立・公布されました。施行は公布の日から3年以内とされており、現在のところ、2020年1月1日か4月1日の施行が有力とされているようです。
さて、「民法」の大改正ですから、民間企業をはじめとする民間の法律実務に及ぼす影響が大きいことは想像がつきやすいだろうと思います。
では、自治体実務に対する影響はどうでしょうか?
実は、今回の民法改正は並大抵のものではなく、自治体実務にも広範囲にわたって影響を及ぼすと考えられます。
以下においては、自治体実務に影響を及ぼすと考えられる改正項目のうち3つを取り上げ、具体例を交えながらご紹介いたします。
2.消滅時効
現在の民法では、一般の債権の消滅時効期間は10年とされています。ただ、これとは別に「短期消滅時効」という制度があり、消滅時効期間が1年、2年又は3年とされている債権が存在します。
そして、自治体の有する債権の中で、この短期消滅時効が適用されるものがあるのです。
その代表例が上水道料金で、時効期間は2年とされています。
ところが、今回の民法改正により、これらの短期消滅時効制度はすべてなくなります。
では、上水道料金の消滅時効期間は何年になるのでしょうか。
答えは、「5年」です。
10年ではないのかと思われるかもしれませんが、今回の民法改正では、短期消滅時効制度がなくなるだけでなく、一般の債権の消滅時効期間も原則5年に変わるのです。
3.時効の更新・完成猶予
「時効の更新」は、これまで「時効の中断」と呼ばれ、「時効の完成猶予」は、これまで「時効の停止」と呼ばれていたもので、その実質的な内容は同じです。
しかし、関連規定も含めてこれまでと全く同じというわけではありません。
本コラムで特に触れておきたいのが、時効の完成猶予について、権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、その合意があった時から原則1年間時効が完成しないという規定が新設されることです。
これにより、自治体としては、長期間手が付けられずに時効が迫っている債権、例えば公営住宅の未納家賃や住宅新築資金等の未償還貸付金について、時効の更新のためだけに訴えを提起するといった事態を避けられる可能性があります。
具体的には、債務承認(時効更新事由)まではしないけれども支払いに応じる余地のある債務者について、とりあえず債務の支払について協議しましょうといった話にして、その旨の合意書面を作成すれば、1年間は交渉の時間を確保できることになります。
この点については、履行延期の特約・処分(地方自治法施行令171条の6)による対応も考えられるところですが、債務者が無資力又はこれに近い状態にあるとき等の要件があって、債務者の資力の確認等に時間がかかってしまい、その間に時効が完成してしまうおそれがあります。
これに対して、権利についての協議を行う旨の合意であれば、書面を作成する必要はありますが、履行延期の特約・処分のような要件はなく、活用の幅は広いと考えられます。
4.保証人の保護
改正民法では、個人を保証人として根保証契約を締結する場合、保証の極度額の定めがなければその効力を生じないこととなりました。
根保証契約とは、特定の債務(住宅ローンなど)を主たる債務とするのではなく、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約をいいます。極度額とは、いわゆる上限額です。
自治体の場合、根保証契約の典型例は、公営住宅の入居の際の連帯保証人との間における連帯保証契約です。
公営住宅家賃の滞納額は、初めから金額が決まっているわけではなく、滞納が続く限り金額が膨らみ続けます。つまり、このような債務を保証する契約は根保証契約に該当するのです。
したがって、自治体としては、改正民法下で公営住宅に関して連帯保証をとる場合、極度額(上限)を定める必要があり、これを定めなければ連帯保証契約が効力を生じない、すなわち、連帯保証無しの契約になってしまうのです。
では、極度額(上限)をどのように定めるべきかというと、改正民法では、この点に関する規定はありません。
よって、各自治体において、相当と認められる極度額(上限)を設定する必要があります。
この点に関する考え方は主債務の性質や内容によって異なりますが、公営住宅についていえば、少なくとも家賃の滞納が始まった時点から明渡しまでに必要な期間分は保証してもらう必要がありますので、この点を勘案したうえで極度額(上限)を設定することになるでしょう。
5.民法の改正は自治体に大いに関係あり!!
本コラムでは紙幅(電子媒体でこのようにいうかどうかはともかく)の都合もあって詳細を述べることはできませんが、その他の改正項目で自治体実務に影響を及ぼすと考えられるものとして、売主・請負人に対する責任追及、契約解除・危険負担、連帯保証人に対する請求の効果、賃貸人・賃借人の義務、法定利率、意思表示の効力発生時期、免責的債務引受などが挙げられます。
より大きな観点でいえば、今回の民法改正を踏まえ、自治体であっても、①契約管理、②時効管理、の2つの観点から、これまでの実務を見直す必要があります。
具体的な見直し方法については他日を期す所存ですが、本コラムが、読者の皆様にとって、民法改正を踏まえた自治体実務の見直しのきっかけになれば、筆者にとってこれに勝る喜びはありません。