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コラム

富士市監査委員事務局 局長 吉野 貴雄

2025.04.23

これからの地方自治体における監査機能を考える

 監査機能には、財務情報の信頼性を付与する「保証機能」があり、特に民間企業の会計監査(財務諸表監査)では、監査の本質的な機能とされてきたが、地方自治体の監査では、根拠法令となる地方自治法に「保証」という用語はなく、監査を実施するに当たっては、同法第2条第14項及び第15項(住民の福祉の増進に努め、最少の経費で最大の効果を挙げること、組織及び運営の合理化に努めるなど)の趣旨に則っているかが求められている。

 地方自治体における監査制度の歴史を辿ると、監査委員制度が創設された当時は、国による関与・監督を弱め、地方自治を強化する時代背景があり、監査委員の独立機関たる地位を確保するための改正(例えば、地方自治体の吏員が監査委員になることの撤廃、長の指揮監督下からの独立、監査委員を補助する書記その他の職員の設置、監査委員による監査結果の公表など)が行われているが、地方自治体への住民参画を推進するためには、独立した第三者が法令等との整合や財務情報の正否を判断し、その結果を公表する必要があるということから保証機能が求められていると示唆される。

 しかし、実際に、現行の監査委員制度で保証機能の役割が果たされているかというと、①監査の独立性の不備、②監査の専門的技量の不足、③監査の性格上の位置付けが不明確(内部監査の様相を呈す点)、④監査実施体制の不十分さ(監査委員を補助する専任職員の数が十分でないなど)などの諸課題が解決されないと、保証機能の役割を果たすことは現実的に難しいという問題がある。

 また、監査委員が行う監査には、決算審査、財務監査、行政監査、財政援助団体等監査、例月出納検査、住民監査請求監査など幾種類もの監査があり、それぞれの監査で目的が異なる。全ての監査に隈なく保証機能を発揮することは、監査実施体制が少人数の市町村では、監査の対象範囲や時間、試査の範囲や数などが十分に確保することができず、監査以外の業務と兼務するという所も多いので監査を行う環境が整っているとは決して言えない。加えて、事務局職員は人事異動で配置された同一組織内の職員であるため、精神的かつ外見的にも監査の独立性が確保されている状況とは言えない難しい環境下にある。

 このような中、監査機能には、副次的な機能として位置づけられるが、内部監査部門が組織に対して提供する「コンサルティング(助言)機能」や、問題点を個別に指摘し自主的な改善を企図する「指摘機能」がある。この両者を比較した場合、組織の業務やプロセスの向上を目指すという点では共通しているが、問題の改善策まで含めて提案するという点で、コンサルティング(助言)機能の方が、より専門的な知識や能力が求められ、監査実施体制が十分でない小規模自治体では困難が予想される。

 しかし、指摘機能は、少人数の監査実施体制でも財務や会計の従事経験者であれば、何らかの問題点を発見し指摘するのは可能であるので、監査等の種類に応じて保証機能と指摘機能の最適性を整理し、有機的な連携を図れば、監査の実効性を高める可能性がある。実際に、各地方自治体のウエブサイトで公表されている財務監査(定期監査)の報告書を見ると、監査結果が是正・改善すべき事項を例示する「指摘型」の監査報告書が監査実施体制の規模の大小に関わらず確認できる。

 社会的には、自治体職員による不適正経理や公金横領などの報道は絶えることがなく、監査機能が十分に果たされていないという意見もある。今後、人口減少による人手不足問題の影響が地方自治体にも及ぶと、職員の募集をしても定員割れが生じるなど、地方自治体でも人員確保が難しくなり、その結果、組織の定数は縮小を余儀なくされ、これまで複数の目で確認していた組織内部のチェック機能は十分に働かず、事務処理の誤り、忘失、遅延等による住民等に損失を与えるリスクは高まることが懸念される。

 しかし、このようなリスクも、将来的にはAIの普及により自動化できていく可能性があるとすれば、人による保証機能を求める監査の範囲は小さくなり、今後求められる監査機能は、組織運営や業務改善に資する「指摘機能」がより重要な監査機能となる可能性が考えられる。