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第69回2010.12.22

インタビュー:福山市市長公室秘書広報課  広報担当次長 安原 洋子さん(上)

 自治体のイメージ戦略というのが重要な時代になってきた。地域活性化のためにも、自治体のイメージをいかにつくりあげていくのか、自治体のブランドをどのように醸成していくのかは、各市町村にとって欠かすことのできない重要な戦略である。
 自治体の広報の第一線に、首長が登場することが多くなった。だが、首長一人だけで、自治体のイメージ戦略は展開できないし、地域活性化もできない。それを支える職員が必要である。さらには、地域活性化支援室といった部署の職員だけではなく、当該自治体の全職員が意識を共有して自治体のイメージ戦略を展開できれば、これほど強いものはない。
 今回はそのような取り組みを始めた福山市に出向いて、安原さんにお話をお聞きする。


稲継 今日は広島県福山市にお邪魔して、秘書広報課の安原洋子さんにインタビューをさせていただきたいと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。

安原 よろしくお願いしたします。

稲継 初めに、安原さんは今、広報担当次長として、どういうお仕事を担当されていらっしゃるのでしょうか?

安原 はい、都市のブランド力を向上させるため、地域資源を磨き上げて広報するといった仕事をしています。6年後には、市制施行100周年を迎えますので、100周年に向けて活力あるまちであり続けるために、情報発信力を高めて、都市のイメージアップをして、全国的な知名度を得るというようなところを目的にしています。

稲継 都市のイメージづくり、都市のイメージアップの仕事が、今の安原さんの主たる仕事になるわけですね。都市のイメージづくりというと、様々な取り組みがあると思うんですけど、具体的にはどのようなことをやっておられるんでしょうか?

安原 そうですね、毎月発行している広報紙の編集では、市民にもっともっと福山のことを知っていただいて、「今まで気付かなかったけど、結構いいまちに住んでいたんだな」と、わがまちを愛してもらえるよう、魅力の紹介に努めています。また、市の広報テレビ番組やラジオでも福山市ならではのサービスや頑張っている人、オンリーワンの取り組みなどを積極的に発信して、市外の人からも、「福山市が何か面白そうなことをやっているよ、行ってみようか」と、興味を持っていただいて、交流人口・定住人口の獲得につながるよう、まちの魅力の発信が都市格といいますか、都市のブランド力に繋がりますので、そういったことで、情報発信には力を入れていますね。
 特に、福山市は中四国地方で5番目の人口規模を誇る中核市でありながら、首都圏での知名度がまだまだ十分でないということで、こちらに「えっと福山」という総合情報誌がありまして・・・。

稲継 なぜ「えっと」なんですか?

安原 二つの意味がありまして、一つは「えっ!?」って、こんな素晴らしい、素敵なものがあったのかっていう、魅力満載の情報誌ですという・・・。

稲継 驚きの「えっと」ですね。

安原 もう一つは、福山弁、備後弁で「えっと」というのが「たくさん」という意味があるんです。

稲継 そういう意味なんですか。

画像:安原 洋子さんと「えっと福山」
安原 洋子さんと「えっと福山」

安原 はい。「ええもんがえっとあるんじゃ」っていうのが福山弁なんですけど、「福山には魅力がたくさんあるんですよ」という意味なんです。その2つを掛け合わせて、「えっと福山」ということで、福山出身で活躍中の人やおいしいもの、観光名所や企業など、福山のキラキラと光る魅力を全国の皆さんに知っていただくという情報発信ツールが、こちらの「えっと福山」です。

稲継 なるほどね。

安原 主に首都圏や、中国地方の道の駅などに置いています。

稲継 拝見したところ、一般的な自治体の市勢要覧とはイメージが、かなり違いますよね。

安原 そうですね。若手職員の発案で、平成19(2007)年度に市勢要覧を全面改訂し、市民の笑顔でまちの魅力を紹介する今の総合情報誌が誕生しました。

稲継 普通だと、まちの歴史や成り立ちなどを、ダラダラっと書いているイメージがあるんですけど、こちらは、いきなり市長が出てきて観光宣伝をやっていたり、商店の人や工場の人が顔写真入りで出てきて、福山市にはこんな人たちがいるんだよとか、こんなことをしてるんだよということが直に伝わるような珍しい作りになっているんです。どうして、このような総合情報誌を作ろうと思われたのでしょうか?

安原 東京事務所に駐在の職員などが、福山市の知名度が十分ではないということを元々感じておりました。そこで、若手職員で構成する「福山きらりプロジェクト」というチームがあるのですが、そこで、何か取り組めないかということになりました。そのチームは、福山市が大好きという職員が集まりまして、福山市のイメージアップや知名度向上のために、どうしたらいいかを本気で考えようということで、勤務時間外に集まって活動しているんです。
 その中のメンバーが、東京での知名度不足を解消するために、ターゲットを絞って、首都圏のアンテナショップなどに情報誌を置いたらいいんじゃないかということを提案してくれました。それで、きらりプロジェクトの事務局である秘書広報課から予算計上して、認められまして、今年は6万部を超える部数を配布しています。

稲継 なるほどね。この「えっと福山」を作られたり、他にはどういうことを取り組まれているんですか?

安原 そうですね、JR福山駅の新幹線のホームに、大型の都市宣伝看板を取り付けました。これはハリウッドにまで発注をした巨大なものです。

稲継 ハリウッドに発注ですか(笑)。

安原 そうなんです(笑)。なぜハリウッドかと言いますと、見る角度によって、鯛が海から飛び出てきたりですとか、福山城の前を江戸時代の旅人が歩いていたりとか、様々に動く仕掛けが施されています。

稲継 特殊効果があるんですね。

安原 はい、この特殊効果に係る技術が日本の企業では施工が難しいということで、ハリウッドで製作されたものなんです。

稲継 ちなみに大きさはどのくらいなんですか?

安原 大きさは、縦3メートル×横27メートルです。当初、これは新幹線の運転士さんが、注意を引きすぎるので危険ではないかということがありまして・・・。

稲継 そうですよね。運転している最中に、鯛が飛び出てきたら、なんか止まっちゃいそうな気がしますけど(笑)。

安原 そうですね(笑)。その難しい交渉は、私が広報担当次長として現在の職場に来る前年に、担当職員が相当苦労して、JRへ日参してクリアしたそうなんですが、初めにJRに構想を提示したときは、「危ないから駄目です」と・・・。

稲継 普通ならそこであきらめますよね。

安原 そうなんですが、注意を引き過ぎるということであれば、何とかクリアできることがあるのではないかということで、粘り強く交渉を重ねる中で、新幹線を降り立ったホームがいかに観光面で市の窓口になっているかというところを、何度も熱意を持って伝えた結果、JRの方からも「それはそうですね」ということで、「ぜひコラボをして、一緒になって観光宣伝をしていきましょう」というところまで理解をいただいて、設置に至ったという経過ですね。

稲継 最後は上手く、丸く収まったんですね。

安原 そうですね。JRも大きな組織ですから、このような前例がない大型の看板設置ということになると、即「はい」という返事はしてくれません。ですから、いかにその重要性、必要性を理解していただけるかということで、何事も誠意を尽くしてお話をするということと、本気が相手に伝わるということが大事なんだなというのが、着任早々よく分かりましたね。着任1日目の仕事が、この大型観光宣伝看板のお披露目セレモニーで、駅長と市長のにこやかな顔がとても印象的でした。

画像:見る角度によって変化する都市宣伝看板
見る角度によって変化する都市宣伝看板

稲継 なるほどね。今、お話の中で「きらりプロジェクト」っていう言葉が出てきたんですが、これは一体どういうものなんですか?

安原 公募の福山市の市職員で構成をするもので、平成19(2007)年度に発足をしました。主に若手を中心にして、仕事の後にみんなで集まりまして、福山市の知名度アップとかイメージの向上に資する事業を企画立案し、アイデアレベルに留まらず実施に移していくチームです。

稲継 それがスタートしたきっかけは何だったんでしょうか?

安原 平成19年度にスタートした第四次福山市総合計画で、都市ブランド力を高めることをまちづくりの基本方針に掲げて、福山市の知名度向上のため、都市ブランドの創出と発信に本格的に着手したんですが、都市間競争ということも言われ出していたのもその頃からですね。福山市には、観光資源においても、鞆の浦福山城ばらのまちということで、あふれるぐらいの魅力があるんですけど、それを発信しないことには、福山市が魅力あるまちなんだということが伝わりません。
 せっかくの魅力も知られなければ意味がないんです。魅力を発信してこそ、「楽しそうだから、行ってみたいね」ということで、周りから人が集まってきて都市の求心力とか拠点性というところにつながって、全国的な知名度アップというところにまでつながっていきます。ですので、やっぱり都市間競争の時代には、発信が大事だろうということで、魅力を「見える化」して発信しなければということで、都市のイメージアップや知名度向上に繋がるアイデアを出し合おうと、「福山きらりプロジェクト」が始まったんです。

稲継 このプロジェクトは、ある部署だけが行っているわけじゃなくて、全庁的にボランティアを募って、行っているんですか?

安原 そうです。都市ブランド力の向上ということで、多岐にわたる分野の提案がありますので、それを実現するためには、横の連携を図ることが必要になります。企画の発案段階から実際に進めていこうとすると課題、難題がかなり降ってきます。それをJRのときと同じように、1回であきらめるのではなく、いろんな部署と折衝し、粘り強く前に進めていく役というのが要りますので、秘書広報課が事務局を務めています。
 この間、鈴木章さん、根岸英一さんが、複数の炭素原子をパラジウム触媒で結合させる開発でノーベル化学賞を受賞されていましたが、何かと何かをつなげる役、融合まで導いていく役というのが、物事を成就させるというか、新しいことを始めるときには重要だと思っています。私は、きらりプロジェクトの事業を完成まで導いていくための触媒にあたるのが、事務局を務める私たち秘書広報課の役割だというふうに思っています。

稲継 なるほどね。そのプロジェクトに、何人ぐらいの方が加わっておられるんですか?

安原 15名です。介護保険や支所の各部署、建設関係の技師に病院の事務から、人事や企画、総務などの管理部門など、メンバーも多岐にわたる部署から集まっていまして、5人ずつの3班に分かれて提案をいただいています。

稲継 いろいろなアイデアが出てくるでしょう?

安原 そうですね。

稲継 例えば、どういうのが出てきますか?

安原 お金のかかるものも、かからないものもあるのですが、かからないもので素晴らしいなと思いましたのが、福山市では「ばらのまちづくり」に取り組んでいるのですが、福山では平和を願う折り鶴だけでなく、折り紙を使った、「折りばら」というものも広がりを見せているんですね。一つ折りあがるのに30分くらい、初めての人だと1時間くらいかかるんですが、髪飾りやピンバッチなどにもなって素敵ですよ。

稲継 そういうものがあるんですか、折りばらとは(笑)。

安原 はい(笑)。比較的新しいので、お年寄りなどは折れなかったりするんですけど、全市民が折りばらを折れるようになって、世界に平和の発信をしていければということで、大学に行く前の高校生にカリキュラムとして折りばら授業を行って、そこで折りばらが折れるようになって、全国へ散らばっていくというのはどうかというようなソフト面の提案もありましたね。

稲継 おもしろいですね。

安原 こういう経済状況が厳しい時代ですので、福山市でも「再」、リメイクとかの「Re」で、「再(Re)」ということで、平成22(2010)年度から事務事業のゼロベースからの見直しをやっています。厳しい時代だからこそ、みんなのアイデアで、先ほどの「えっと福山」ではないですけど、みんなが「えっ」と驚くような施策、住民が元気になるような施策をどんどん行って、市民の人にも一緒に参加して、楽しんでいただく。市民が生き生きと輝いてこそ、都市ブランド力の向上ということにつながりますから、本当に必要なことは何かということを例外なく全施策で検討しています。

稲継 そうですね、市民が生き生きとすると同時に、また職員一人ひとりも生き生きとしていないと、なかなか都市ブランド力は強くなりませんよね。その辺のところで、何か工夫しておられることはありますか?

安原 福山きらりプロジェクトというのは、もちろん仕事以外ですので、損得なしなんですね。みんな、やりがいで動いています。例えば、平成20(2008)年度に実施した「都市PR用トラックシール事業」があるんですが、これも「首都圏での知名度が十分じゃないよね」、ということで、福山市に本社があり全国に輸送網を持つ福山通運とコラボしたんです。東京などでは、福山通運は福山さんが社長の会社だと思っている方が、かなり多いらしいんですけれども・・・。

稲継 多いかもしれないですね(笑)。

安原 そうではなくて、広島県福山市の会社なんですということを知っていただこうということで、都市の知名度アップと、ばらのまち福山という都市のイメージアップを狙って、福山通運の首都圏を中心に運行するトラック4,300台に都市PRシールを貼って、3年間運行していただくという事業を、きらりプロジェクトの発案で実施しました。シールの内容も「好きです。ばらのまち福山、広島県福山市」とすることで、「福山市という市が、広島県にあって、ばらのまちなんだ。市民はみんなばらを愛しているんだ」ということを、たったこれだけのスペースでPRできてしまうんですね(笑)。

稲継 メッセージが力強いですね。

安原 そうなんです。自分たちの企画したものがこういう形になって、首都圏を走っているという姿を想像するだけでもワクワクしますよね。企画書に書いたことが、実際に実現をするということになると、かなりのモチベーションになります。自分たちの考えたことが、まちづくりに活かせているなということが、きらりプロジェクトのやる気につながっていると思います。ただ、企画が実施するまでには、かなりのハードルがありますけどね。

稲継 どのようなことがあるんです?

安原 都市PRシール一つとりましても、プロジェクトがせっかく練り上げたデザインにも、企業の方から、「自分たちの会社のトラックにちょっとこれはそぐわないんじゃないか」という突き返しもあります。お互いにWIN-WINでないとコラボは成立しませんから、容赦はないですね。また、市役所の内部組織で「福山市都市ブランド創出発信検討委員会」という、特別職や幹部職員で構成する委員会がありまして、きらりプロジェクトの提案をそこで揉んでいく作業があるのですが、その中で、方向転換を指示されることもあります。何度も何度も繰り返し、やり直しを命じられますので、物事を実現するためには、色々な越えるべきハードルがあるんだなということを、こうしたプロジェクト活動を通じて、仕事以外で経験をすることも、若い職員の成長に繋がっていると思います。トライ・アンド・エラーということで、エラーを恐れるんじゃなくて、何回も挑戦をしていくことや、あきらめない力が自然に身に付いているんではないでしょうか。

稲継 あきらめない力ね。

安原 そうですね。そして、仲間と一緒に、何としてでもこれをやり抜くんだという、チームワークづくりにもつながっていると思いますし、自分の部署以外の職員と、情報交換もしながら、時々は飲んだりもしながら一つの目標に向かっていくという、とてもいい経験ができています。それが、職員のモチベーションにつながっていると思いますね。

稲継 そうなんですね。今、手元に変わった名刺があるんです。安原さんの名刺を5種類いただいていて、全部裏にかるたのようなデザインがされているんです。

安原 都市PR用の「かるた名刺」です。

稲継 例えば裏面には、「ばら公園 戦災復興のシンボルじゃ」とか、「住む人に ハッピーいっぱい 福の山」とか、「歴史めぐりへ鞆の浦」といった言葉が書かれています。表側が自分の名刺になっているんですけども、職員が自分で、このかるたのタイトルを選んで、印刷できるようにしているわけですね?

安原 そうです。庁内イントラネットに掲載をしまして、表面は5種の絵柄から自分の好きなものを選んで、そこに通常の職名・名前などを入れて名刺を作りまして、裏面はPRしたいシティセールスのフレーズをいろはかるたのように歌った145種の中から好きなものが選べるようになっています。

稲継 なるほど、なるほど。

安原 こちらもきらりプロジェクトの発案で、きらりプロジェクトが自分たちだけの小さい枠の中で、15人だけで考えるのではなく、「職員全員参加型名刺事業」というふうに銘打ちまして・・・。

稲継 職員全員参加型名刺事業ですか。

画像:かるた名刺
かるた名刺

安原 はい。庁内イントラネット上で、こういうことをやりたいので、「デザインを募集します」「裏の標語を募集します」ということで意見を募りました。それを、またプロジェクトの方で改良を加えて、このように皆さんに喜んでいただけるものに昇華させたんです。情報担当部署も協力してくれました。

稲継 なるほど、これもやはり、今おっしゃったように職員一人ひとりがシティセールスの担当者にもなっていただけるような、そういう一つのツールなんですよね。

安原 そうですね。研修や視察に行った時などに、こういう名刺を出しまして、みんな饒舌な人ばかりではないので、クルッと裏にひっくり返すと、お話が上手でない人でもスムーズに話のきっかけ作りができるという優れものです。

稲継 そうですよね。裏返すと普通、何も書いてないことが多いんですが、裏返すと「何これ?」っていう感じですよね。

安原 ありがとうございます。

稲継 このアイデアはすごく面白いですよね。表の方にもちゃんと、福山市の位置を表すような柄とか、コウモリの柄とか、様々なものがあります。これを職員の皆さんが選んで、自分の名刺を作るわけですよね。これも全部、きらりプロジェクトから出てきたということで、ずっと携わっておられるわけですけれども、このグループは、自主研究グループという扱いになるんですか?

安原 そうですね。大きな括りにするとそのようになるかとは思いますが、市の自主研究グループには登録していません。都市ブランド力向上に資する施策を色々な部署と連携を取りながら、実現まで導いていくグループということで、実効性を高めるため、先ほど申し上げた「福山市都市ブランド創出発信検討委員会」の中核組織に位置付けさせていただいています。

稲継 中核組織なんですか。例えば、こちらに切手があるんですけれども、龍馬、いろは丸、出会いのまちというデザインです。これも、やはりそのプロジェクトから生れたアイデアなんでしょうか?

安原 そうですね。平成21年度の予算を決めていく際に、22件の提案があったんですけれども、その中に、都市PR切手を作りたいという提案がありました。ちょうど郵便局がフレーム切手というものを出したタイミングで、予算が付きましたので、そのグループは、いろはかるた名刺を仕上げた後に、こちらに取り組んでくれました。

稲継 なるほど。職員の力を活かしてブランドを作るということを、きらりプロジェクトはどんどん進めているわけですね。その事務局として、それを回していく中で、何かご苦労とかはありますか?

安原 そうですね、やはり調整というのは一筋縄にはいきません。庁内の調整ということもありますし、先ほど申し上げたJR福山駅の看板やトラックシール事業などの民間の方々とお話をさせていただくこともあります。ただ、そこで「難しいんじゃないですか」、と言われた時に、すぐ引き下がるのではなく、よくよくお話をお聞きして、お互いに何を思っているかを、芯から知るというところですよね。
 また、本市の都市ブランド事業というのは、市制100周年を目指して都市を活性化していこうというもので、そこを目指して何ができるかをあらゆる職場で考えていくというところになるので、それぞれの部署の皆さんには、仕事を増やすことになってしまうんですね(笑)。

稲継 それはそうですよね。

安原 そのような状況の中で、越えるべきハードルもたくさんあったり、必要性を理解してもらうのが、まず大変だったりするんですが、よく内部管理部門は調整役だけで汗をかかないと揶揄されたりすることもありますよね。けれども、都市ブランド事業のコラボをお願いする以上、「一緒にやりますから」ということで取り組んでいますので、「広報担当が事業課になってるね」と笑われるんです。やっぱり市民の信頼を得ることも、職員の信頼を得ることも、自ら汗をかくということが基本ですので、それを心掛けてみんなでやっていくようにしていますね。
 また、「食のブランド化」も現在、進めているんですけれども・・・。

稲継 食のブランドとは?

安原 来年が市制95周年ということで、「福山に来たらこれを食べて帰らないと」という名物を、全国発信しようではないかということで取り組んでいます。でも、食というのは、行政が提供できるものでなく、作ったり、売ったりできませんので、市民会議形式で行ってみようということで、市民の皆さん中心に、「福山食ブランド創出市民会議」なるものを立ち上げていただきました。市内の食の専門家である有名ホテルの総料理長とか、割烹料亭の板長さんや、大学の先生、また、一般の主婦で料理好きのカリスマ主婦のような方もいらっしゃるので、そのような公募の市民も加えて、総勢21人で福山の食のブランドを創出しようと取り組んでいます。

稲継 そうなんですか。

安原 はい。これもまた秘書広報課は事務局として、主には回していく作業になるんですが、全国の先進地に視察に行ったりもしています。例えば、浜松で餃子とうなぎが共存している訳を調査に行ったりと(笑)。

稲継 浜松はB級グルメの餃子と高級なうなぎ、両方が有名ですね(笑)。

安原 そうですね。いろんな選択肢の可能性を探ることが大切ですし、その他にも、B級グルメフェスタの視察にも委員の皆さんをお連れして、これをやると福山市に何がいいことがあるのかを実感していただいてから始めましたね。

稲継 なるほど。

安原 食ブランド創出市民会議においても、事務局として会議やスケジュールの調整をしているんですが、こちらは福山の名物料理の開発がミッションですから、試食会の時など、委員の皆さんから、「もうあなた、そこまではいいから、早く帰って仕事しなさい」って言われるんですけど、皿洗いやごみ出しなど、皆さんが動かれることと、同じことを事務局も一緒にやっているんです。そうすると、「そこまで行政が本気でやられるんだったら、僕らも片手間にはできん」ということで、逆に皆さん、本気に火が付いて頑張っていただいているというか・・・。

稲継 本気に火が付く。

安原 そうですね。だからやっぱり汗をかいていくって重要なんだなって、この人は言葉だけじゃないな、っていうことを分かっていただくためには、とことん一緒にやることですよね。

稲継 行政が汗をかいて、市民の本気に火を付けるということですか。面白い言葉ですね。


 単に広報担当者だけがイメージ戦略に携わるのではなく、きらりプロジェクトに入った市役所の様々な部署の職員が、仕事の後に集まって、福山市の知名度アップとかイメージの向上に資する事業を企画立案し、アイデアレベルに留まらず実施に移していく。そのアイデアが、実際に実現し、まちづくりに活かせているなと感じることは、参加職員のモチベーションを大きく上げていることだろう。福山市のイメージを上げるんだという共通目標に向かって一致団結して取り組む前向きの意識共有に成功しているといえるだろう。これは職員全員参加型名刺事業にもいえることである。