メールマガジン

第46回2009.01.28

インタビュー:札幌市円山動物園 経営管理課経営係長 北川 憲司さん(上)

 2005年の4月に「分権時代の自治体職員」としてはじまったこのメルマガも、今回で第46回になる。
 第1回から第26回は、人材育成にかかわるさまざまの問題提起を私が行って、読者からいただいたメールとのキャッチボールも交える形で書き進めた。
 第27回からは、実際に、人事行政の現場で、人材育成や人事管理に取り組んでおられる人事・研修担当者に登場頂いて、その方々にインタビューをするという形で進行した。日頃なかなか聞けない生の話や本音、あるいは、基礎的な考え方を知ることができたことと思う。
 さて、今回からは、本シリーズのタイトルに戻り、「分権時代の自治体職員」というにふさわしい活躍をしておられる自治体職員の方々に登場していただくこととする。分野は人事行政に限定しない。
 トップバッターは、2003年4月に日本で初めて「自治体コールセンター」を立ち上げて、当時、一躍「時の人」となってしまった札幌市役所の北川憲司さんに登場していただく。北川さんは、その後、札幌市円山動物園の経営係長という、それまでの行政改革・IT推進とはまったく異なる分野での仕事に携わっておられた。


稲継 今日は札幌の円山動物園におじゃまして、経営管理課経営係長の北川さんにお話をおうかがいします。
北川さん、どうかよろしくお願いいたします。

北川 よろしくお願いいたします。

稲継 北川さんは、この円山動物園に赴任されたのはいつのことでしょうか。

北川  平成18(2006)年の4月から着任しております。

稲継 それまで動物園関係の仕事はされたことはあるんですか。

北川 全く初めてですね。

稲継 われわれがイメージする動物園というのは主に獣医さんですとか飼育員の方とかがいらっしゃって、事務員の方ってそんなにいないようなイメージをもっているのですけれども、北川さんはここに来られるまではどういうイメージをもっておられたのでしょうか。

画像:北川 憲司さんの写真
北川 憲司さん

北川 そうですね、僕も同じように飼育員が中心となった組織で、まぁ、当然事務員もいるのでしょうけれど、それほど活躍しているようなイメージはなかったですね。

稲継 ちなみに、職員数をお聞きしたいのですが、この動物園全体で職員はどれくらいいらっしゃるのですか。

北川 正職員で41名です。

稲継 そのうち獣医師さんとかといった内訳で言いますと、どういったことになるのでしょうか。

北川 獣医が3名おりまして、飼育員が約20名ぐらい、それから、施設を管理します施設管理の建築職だとか電気職だとか、そういったチームで5名、あと、経営係で5名、そんな感じですかね。

稲継 北川さんが、この円山動物園に配属されることになったきっかけというのがありましたら教えていただきたいのですが。

北川 市長が円山動物園の再生に強い思いを持っておりまして、それで園長を筆頭に経営管理課長と経営係長の私が送り込まれたのがきっかけです。

稲継 なるほど。じゃあ、まさにトップ人事だったわけですね。なかなかトップが、こういっては何ですが、一係長の人事にかかわるって、非常に珍しいことだと思うのですけれども、それは、それまでに、あとでお話をお聞きすることになる自治体初のコールセンターだとか、そういったことの実績を市長は高く評価しておられたということなんでしょうかね。

北川  もちろん人事部門が総合的に勘案して人事異動の判断をされたんだろうと思いますが。

稲継 それで、市長としてもかなり思い入れがあって、この動物園を何とかしたいということで、北川さんが送り込まれたわけですけれども、そのときに、北川さん一人が送り込まれたわけではなくて、何人か事務の方も送り込まれたわけですね。どういうメンバーが送り込まれたのでしょうか。

北川 そうですね、動物園の園長というのは、今まで、獣医が歴任していたわけですが、史上初の事務職の園長が送り込まれまして、そこで、経営改革をきちっとしようと。動物の視点も大事ですけれども、市民の視点で動物園をもう一回見つめ直そうということで、動物園長から私までの縦ライン3点セットで送り込まれたという感じですね。

稲継 なるほど、「一番柱になる部分を全部、新規メンバーでやれ」と、こういうことだったわけですね。それで、新規メンバーでスタートした平成18年4月なんですけれども、最初に動物園にお見えになったときの印象といいますか、中に入ったときの印象はどういった感じを受けられましたでしょうか。

北川 そうですね、実際、動物園にプライベートで来ることもあまりなかったので、久しぶりに動物園を見てですね、施設も古いし、手すりはさびているし、すれ違う職員、すれ違う職員、別に挨拶もないですし、実際お客さんも少ない。これは、なるほど右肩下がりも分かるなという印象はありましたね。

稲継 寂れていく動物園の姿がそこにあったということなんですね。それで、北川さん自身は、経営改革ということで送り込まれてきたわけです。じゃあ、何をどういうふうにしなければならない、あるいは、どういう手順で、誰と相談してというふうにそのときに考えていかれたんでしょうか。

北川 そうですね、やっぱり3点セットで送り込まれていますので、この3人が、やっぱりキーになっていくということで、3人の間で、どのように進めていこうかという相談は、かなり綿密にしまして、やっぱり、不祥事があって市民からも批判を受け、行政監査を受けてさらに専門家からも痛烈に批判され、完全に意気消沈して、自信を失っているような状態でしたので、もう一回、ここから立ち上がって、「やるぞっ」という気持ちになるには、自信を回復しなければいけないだろう。そこからはじまりました。
  もう一つは、われわれは、動物園の素人3人が集まって入ってきたわけですから、われわれは動物園のことも知らないのに、自分で勝手にアイデアを出してやらせる、あるいは「君たちはダメ飼育員だから、俺たちが管理するぞ」というやり方でもし動物園に入ったら、この改革は絶対に失敗するだろうと考えました。本来、円山動物園がこれからの競争に勝てるポテンシャルがあるとしたら、それを信じて彼らの中から、改革の火種があがってくるような展開をしなければいけないだろうということで、まず、園長が先にやったのは、全飼育員からマン・ツー・マンで徹底的にヒアリングを行ったんですね。その中で、一人ひとりの想いを聞き出した。確かに、いい想い、いいアイデアを持っている飼育員というのはいるのですね。そういう、円山動物園の持っているポテンシャルのようなものを棚卸ししたというか、そういうところからはじめています。

稲継 ポテンシャルの棚卸しをまずした。飼育員からのヒアリングによって現状分析をしていったということですね。

北川 そうですね。あと、問題意識がどれくらい蓄積されているのかということですね。

稲継 なるほど。それで、ネクストステップとしてやられたことは、どういうことでしょうか。

北川 次はですね、その全飼育員にヒアリングしたときに、自分の担当動物のことを一生懸命しゃべる飼育員もいれば、円山動物園がこれからどうあるべきかという、園全体のことをしゃべる飼育員もいるわけですね。園長の中で、そういう見極めをしながら、この飼育員は動物園の将来を憂いて、まだ闘う気持ちがあるなと思う人を何人かピックアップをして、改革チームをつくったんですね。

稲継 改革チームをつくった。これは飼育員が主体となった改革チームということですね。

北川 そうですね。飼育員も入って、われわれ経営のスタッフも入ってチームをつくったということです。まず、動物園を再生するための長期計画である動物園基本構想というものを1年かけてつくろうと。それにあたっては、飼育員も参加して、動物園の将来をみんなで考えようということで、職員のプロジェクトチームをつくったということです。

稲継 それまでは、長期計画のようなものは存在していなかったということですか。

北川 全くなかったです。これだけの動物の施設があってですね、長期の整備計画すらなかったんですよね。

稲継 なにもなく、毎年の予算をもらってその範囲内でなんとかやるということを繰り返してきたわけですね。

北川 ですから、新たな投資はおろか、古くなった動物舎を、どう、いつ建て替えるのかというそういう計画すらなかったんですよ。

稲継 そうなんですか。

北川 そういったことも監査の中で指摘されていました。

稲継 そういうことも含めた長期的な計画をつくるためのプロジェクトチームをつくられました。これは、構成メンバーとしては、先ほどおっしゃっていたピックアップされた改革チームの方と経営部門の縦の方々が一緒になって議論していったということですね。どのくらいの回数で、どれくらいの頻度、この会議は開かれたのですか。

北川 そうですね。ゴールデンウィークが終わってからぐらいから、ほぼ1年かけて月2回ぐらいの頻度でやっていました。業務後に夜中まで、机をたたきながら喧々諤々という感じで。その日が週休日の飼育員でも、その時間だけ会議に出てきて。会議が終わってからも喫煙コーナーで議論が続くような、そういう熱い議論を交わしましたね。

稲継 このメンバーみんな、この動物園を何とかしたいという気持ちは共通していたわけですね。
 1年ほどかけて長期計画をつくっていかれている。これは、非常にロングランの見通し、打開策ですね。それと同時に、今、走り続けている中での細かい小さな戦術的なこともされていったと思うのですけれども、どういうことをされていかれましたでしょうか。

画像:
"栄光への階段"

北川 やはり重要なのはモチベーション対策だというふうに思っていました。先ほど言っていましたとおり、意気消沈して、自信を失っていた状況でしたので、一つはですね、具体的な仕掛けと言いますと、先ほど、階段を上がってくる途中にもあったと思いますけれども、"栄光への階段"という名前が階段についているのですけれども、お客様から園内のご意見箱に集まったご意見の中でプラス評価、ポジティブな評価のもの、ようするに褒めてくれているものだけを階段に張っていったんですね。 最初の内は、「旭山動物園はおもしろいのに円山動物園はつまらない」みたいなそういう批判的なものが多くて、その中からいいのを探すのが大変だったんですけれども、それでも「ライオンかわいかった」だとかそういったものをピックアップして、毎日飼育員は、そこを通って仕事に行くんですよ。毎日毎日、プラスの声が増えていくんですよね。それを足を止めて、こんなふうにきているって、それを見ながら仕事に行くんですよ。それがどんどん増えていく。書かれている内容も、「頑張れ」とか「応援してます」だとか具体的な提案「こういうふうにしたらもっといいと思うよ」とか「感動した」とか「飼育員に声をかけてもらってうれしかった」だとか、そういうものがどんどん増えていって自信を取り戻していくという、そういうのを円山動物園に来てすぐに取り組みましたね。

稲継 それは、やはり何か大きな改革につながったと考えていいんでしょうかね。職員の方のモチベーションも相当高まったでしょうね。

北川 もちろんそれだけでなく、さっき言った職員プロジェクトで一人ひとりのアイデアを活かすということが常日頃から行われていった。ようするに、われわれの取った手法というのはチーム作りをしっかりやりましょうということです。
  たとえば、今までだったら飼育員が「こういう動物でこういうイベントをやりたい」というアイデアを持っていたとしても、経営を任されていた係長が、「そんなの予算ないからできないよ」と言っておしまいというのが、だいたい通常のパターンだったみたいですね。
  それだと、だんだんあきらめ感が出てきて「言ってもダメなんだからもう考えなくてもいいや」という感じになるんですけれども、われわれが来てからは、そういう飼育員からの提案があった場合には「それすごくおもしろいじゃないか」と、「今までやったことないし、是非試してみよう」ということで「予算はないけどじゃあ我々がスポンサーを探してくるから、飼育員たちはその中味を考えておいてくれ」という感じで、実際に我々が営業マンになって民間会社に頼みに行って、「今度、動物園でこういうイベントをやるので是非スポンサーになってください」ということをしてお金を持ってくるんですね。そうすると信用しますよね。自分の思いに役職者が応えてくれて、お金まで持ってきてくれて、しかも「あなたの好きなようにやれ」というふうにバトンを預けてくれた、背中を押してくれたという。誰に強制されなくても、そういう飼育員はものすごく頑張るんですよ。ものすごくいい企画をたてるんですね。
  ぼくらも信じていたのは、円山動物園の技術が高くて、しかも普通の一般の職場と違って、小学生のころから飼育員になりたいと決めているような人たちなんです。それで、好きなものを好きな人が語ると一番おもしろいんですね。やらされ仕事で語らされるよりも、自分が好きな動物のことを語るわけですから、一番それを聞くのが楽しいわけですよ。だから、当然そこでもイベントが成功して、また成功したことが自信になって、「次にもっといいことをやってやろう」そういう気持ちになっていく。

稲継 今のお話の中で、予算はないけれどお金を付けなきゃいけないのでスポンサーを取りに行くとおっしゃいました。
 具体的にはどういうところでどういうふうにアプローチするわけですか。

北川 ほんとベタな話なんですけども、例えばライオンに赤ちゃんが生まれたらライオンと名の付く会社に「協賛してくれませんか」と言いに行ったりだとか、カバが誕生日だったらカバがキャラクターの会社に「カバ舎の前で商品のサンプリングをしませんか」と言いに行ったりだとか、そういうレベルですよ。まぁ、当然断られる場合もたくさんありますけどね。
 それでも常日頃からそういう努力していれば、企業側もまた、何かあったときに動物園が使えるのだなと選択肢になってくるので。飛び込みでダメでも、それはそれでいいと。何かあったら、またお願いしますよと。

稲継 企業側の頭の中にも、何かちょっと残りますよね。

北川 意外と、今までそういう努力を一切してこなかったようなので、「動物園でそんなことできるんだ」、「知らなかった」という企業の反応が結構多くてですね、昨年度で言いますと年間にイベントが100件以上あるのですけれど、その半数以上が民間とのコラボイベントになっていますね。

稲継 そうですか。あの、チラッとお聞きしたんですが、ライオンの"ジェスパ"ですか、亡くなっちゃって、「やっぱりライオンがいなくては」という子どもの声だとかがあって、どうしてもライオンが欲しいが予算がない。それを園長さんがライオンズクラブへ行って講演して、「ライオン買ってください」と言ったら、実現したというのは、本当の話ですか。

北川 本当の話ですね。「皆さんはライオンズクラブなんだからライオン買ってください」って言ったら、「うーん、よし、買おう」ということに。
 やっぱり、企業側から見て、動物園って、まちの大事な場所なんですね。自分たちも子どものころお世話になった場所で、自分たちが企業に入って、社会貢献をしましょうといったときに、やっぱり恩返しをしたい。
 それが、これからの子どもたちにずっと楽しんでもらえる場所だということもありますし、最近で言うと、動物園は環境教育が仕事のメインになってきていまして、簡単に言えば、「地球温暖化で北極の氷が溶けて、ホッキョクグマが絶滅しそうになっているよ」と、そういう形で動物たちを通じて地球上で起こっている環境問題を伝えるという役割があるわけですね。
 そうすると、企業の側でも、CSR活動(社会貢献活動)、特に環境系のCSR活動、ひところは、「木を植えましょう」というものばかりだったのですが、最近は、そういうものも多様化してきて、そういった中で動物園を応援するということが一つの環境のメッセージになるんだということに気づいてもらえるようにはなってきましたね。

稲継 100件のうち半数以上タイアップというのは、かなりの数ですよね。北川さんが動物園にお見えになる前は、そういったのはゼロだったわけですよね。

北川 ゼロですね。

稲継 それだけでもものすごく動物園のイメージアップ、あるいは、収益アップに貢献していると言っていいんでしょうね。
 珍しいところでは、LOHASナイトですとか、あるいは、ナイトキャンプだとかいろんなことを仕掛けられておられますけれども、あれも飼育員さんの中から出てきたアイデアですか。

北川 LOHASナイトは、私のアイデアで、ナイトキャンプは園長のアイデアです。

稲継 そういうことは、どういったときに思いつかれるんですか。

北川 LOHASナイトはですね、夜の動物園を30名で貸し切って、動物を見ながら、あと道産ワインだとか道産食材を使ったオードブルプレートでお食事をしましょうと、それで、地産地消みたいなこととあわせて動物と環境みたいなことを考えようというイベントなんですけれども、僕が初めて動物園に赴任して園内の施設を見て回ったときに、とってもすてきな新しい施設がありまして、「わぁ、ここでワインとか飲んだら楽しそうだな」と思って、それで、ワインのイベントをやっている知合いがいたので、すぐ声をかけて、「こういうことできないだろうか」ということでお願いをしたのが始まりですね。

稲継 ああ、そうなんですか。それは結構な人気で、すぐ売り切れるような感じですね。

北川 そうですね。過去、20回くらい開催していますけれど、すべてチケットが完売という形で、一晩買い取りで申し込まれる企業の方もいらっしゃいますね。

稲継 なんか、従来の、土日に家族連れを待っているだけの動物園のイメージとは違いますよね。かなり積極的に乗り出していって何かをやると...。

北川 そうですね、やっぱり僕らふんだんにお金があったり、珍しい動物ばっかりいっぱいいるわけでもない。円山動物園にはパンダもコアラもいないわけです。そういった中で、既存の資産でどれだけ勝負ができるかといったときに、今まで使ってなかったものをもっと使いましょうよと。
 例えば、今まで開放していなかった施設、そこでワインを飲むイベントをすることでそこの価値が上がる。あるいは、今まで使っていなかった夜の時間帯、そこを使うことで一般の人が体験したことのないイベントができると。そういったことを、観点としてはすごく重視してイベントを組んでいっていますね。

稲継 長期計画を立てつつも、そういったいろんなイベントも仕掛けていかれました。長期計画はだいたい約1年ぐらいでできたんですかね。

北川 はい。

稲継 それは、端的に言うとだいたいどういう中味のものでしょうか。

北川 基本的な理念、われわれが目指す方向性として、円山動物園は、「人と動物と環境の絆をつくる動物園」というものを目指していこうと。平たく言うと、環境教育の場にしていきましょうということですね。
 日本の動物園はどうしてもレジャー施設の側面が強くて、僕らの気持ちの中に円山動物園がレジャー施設でいいんだったら民間でやればいいじゃないかと。それは民間でやって、どんどんショーとかやって、人気出して、お客さんをジャンジャン呼んで、入園料600円とか安い金額ではなくて、2,400円だとか水族館並にお金を取って、ペイするような計画をすればいいじゃないかと。
 ただ、われわれは、市民の税金で動物を飼っている。市民の税金で動物を飼っていることに意味があるわけですよね。その理由は何かと言うと、動物と通じて命の大切さであったり地球環境を守っていくということをメッセージとして伝えるために飼っているんだよと。
 当然、昔から情操教育の場としては使われてきたわけですけど、昨今、環境のことを考えるにあたって、円山動物園だけでなくって、普通、動物園にいる動物って何って言ったら思い浮かぶようなもの、象、キリン、ライオン、虎、豹、ゴリラ、チンパンジー、ホッキョクグマ、全部、絶滅危惧種なんですよ。全部、今世紀中に、もしかしたら見られなくなるかもしれない。野生絶滅してしまうかもしれない。
 そういう現状を多くの人が知らないということがあったので、そういうことをきちんと伝えていける場所にしていきましょうと。そのとき、初めて、われわれは、市民の税金で動物を飼うことを許されるんじゃないだろうかというところから、そういう戦略を立てていったということですね。

稲継 環境教育の場というんですかね、環境を考える場としての動物園というものがベースにあって、まあ、その周りをいろんな概念が囲んでいると考えたらいいんですかね。
 赴任されて、今で2年半ぐらい経ったわけですが、今、お客さんの数は増えているんですよね。

北川 そうですね、改革の手が入る前の平成17(2005)年度が年間49万人。史上最低の数字だったんですが、そこから、今年度(平成20(2008)年度)の見込みでいいますと、70万人の見込みです。

稲継 かなり増えていますね。

北川 だいたい40数パーセントUPぐらいのところまできていますね。

稲継 これは、いろんなイベントもやられたということですが、イベントは30人とか数十人規模なんで、これだけ大勢の入園者数増加に直接は寄与しませんよね。これだけ大勢、入園者が増えた原因というのは、どのように分析しておられますか。


 北川さんたちは、長期計画を策定するなかで、「環境教育の場」としての動物園というコンセプトを大事にして、市役所が動物園を運営することの根拠付けを明確化した。同時に、経営面でもさまざまな努力を重ねることになる。北川さんたちが来るまでは1つもなかった民間企業とのコラボ事業も、年間数十件にまで増加する。企画の多くは飼育員の方々が自ら提案したものだった。「栄光への階段」と称した、(あまり豪華ではない)階段の壁に、お客様からの「ポジティブ」な声を貼り、職員のプラスモチベーションを引き出そうとした。ポテンシャルの棚卸しをして、これならいけると飼育員の方々の底力を確信し、それをいかに引き出そうかということに苦心する経営係長としての北川さんの姿がそこにはある。