メールマガジン

第130回2016.01.27

インタビュー:高山市 ブランド・海外戦略部長 田中 明さん(上)

 平成の大合併で日本一面積の広い市となった岐阜県高山市。名古屋駅から特急電車で2時間20分。乗車時間はちょうど名古屋駅から広島駅へのぞみ号で向かうのと同じである。この必ずしも利便性が高いとはいえない人口9万1千人の高山市に、宿泊客だけで年間28万人以上の外国人が訪れる。いわゆる爆買いで訪れる中国人ではない。中国本土から来る人は2%未満で、アジアではタイ人の方がはるかに多い。世界各国からまんべんなく飛騨高山の地に観光客が押し寄せている。いったい何が起きているのか。
 それを探るべく高山市に赴き、ブランド海外戦略の中心で活躍されている田中明さんにお話をお聞きした。

稲継  今日は高山市にお邪魔しまして、田中明さんにお話をお伺いします。どうぞ、よろしくお願いいたします。



田中 明氏

田中  お願いいたします。

稲継  先ほど、「ワイドビューひだ」を降りたときに、列車に乗っている方の6割ぐらいが外国人のような気がしたのですが、普段もあのような感じなのですか?

田中  おかげさまで、高山は外国人の方に結構来ていただいておりまして、昨年は泊まりベースで28万人の方々に来ていただきました。

稲継  28万人、泊まっている。

田中  人口が約91,000人ですので、3倍以上の方にお泊まりいただいているということです。特に、4月が一番多いのですけれども、2つ目のピークが10月ということで、ちょうど先生にその時期に来ていただいたということです。ありがとうございます。

稲継  そうですか。東洋人というか日本人に見える人でも、実は日本人じゃない。声を聞くと、分からない言葉をしゃべっている人がいたりして、中国語でも韓国語でもないような、あれは、どこの国の方なのでしょうか?

田中  たぶん、タイの方々ではないかと思います。

稲継  タイですか。

田中  高山に来ていただいている外国人で一番多い国や地域としては台湾なんですけども、その次がタイなんです。その次が香港、アメリカという順に続きます。ただ、特に今の時期ですと、ヨーロッパの方が多くいらしていると思います、スペインとか...。

稲継  白人の方がすごく多かったので、とてもびっくりしました。東京でもあれだけ集まっている所は、なかなかないですね。

田中  町が小さいので、来られると余計に目立つということもあると思います。導線が分散しませんので。
 それと、ほとんどの方がJRを使っていらっしゃいます。中には高速バスや、団体ですと観光バスでいらっしゃる方もおりますが、JRで来られる方は結構いらっしゃいます。

稲継  なるほど、なるほど。彼らの目的は、要するに観光ということですかね?

田中  観光になると思いますね。

稲継  高山を観光するということですか。

田中  ありがたいことです。こんな遠く、先生も今日、来ていただくとき、遠いなと思われたと思います。

稲継  いえ、あまり言えないですけども。東京からのぞみで1時間40分、ワイドビューに乗って2時間ちょっと......

田中  2時間20分ですか

稲継  そうですね。でも、景色が良かったので。ずっと川を見ながら、天気も良かったですし、とても楽しく参りました。

田中  ありがとうございます。

稲継  でも、外国人の方がわざわざ高山を目指してくるというのは、どういうわけでしょうか?

田中  高山自体が、要するにインバウンドと言われている外国人への誘客活動をかなり前から積極的に取り組んでいまして。本を正せば約30年前、昭和61年に国際観光都市宣言というのをしました。今、考えると、30年前に国際観光都市宣言をすること自体がすごいと思います。私も、次の年くらいに役所に入ったんですけれども、当時の方々は先見の明があったのではと思います。
 特に、ここ10年とか15年ぐらいは台湾とタイをターゲットにしていますし、欧米は当初からずっとやっています。あと、多言語での表記や外国人を迎えるための受け入れ体制の整備も一生懸命やっています。それが、今、花開いているかなという気がします。

稲継  彼らは高山の何を見に来られるのですか?

田中  アンケートによりますと、やっぱり伝統的な日本の風景とか、建物とか、史跡とか、そういったものを求めていらっしゃいますね。あとは食事ですね。食事といっても、日本でいろいろ食べられますので、高山の地のものを食べて「これが日本食か」というふうに思っていらっしゃるんでしょうね。

稲継  なるほど。昭和61年に宣言されて、その時に来られていた外国人は?

田中  約18,000人程度です

稲継  年間?宿泊で?

田中  そうです、宿泊された方々で、ほとんどが北米の方だったと思います。

稲継  それが、今は28万。

田中  28万人。今年はおそらくもっと、30万人は確実に突破するはずです。

稲継  そうですか。宿泊する人の数ですよね?

田中  そうです、そうです。

稲継  宿泊せずに通過する人の数はカウントに入れてない?

田中  数えようがないものですから入っていないんです。ただ、バスの駐車場などで統計をとると、結構来ていらっしゃいますね。国別でも把握はしていますが、それが全てではないものですから、統計上はちょっと反映できないんです。ただ、かなりの方が日帰りで、高山の後は金沢に行かれるとか、名古屋に行かれるとか、近場で泊まられるとか、そういう方が結構いらっしゃると思いますね。

稲継  宿泊客の統計はホテルに依頼して集計するということですか?

田中  今やっていますのは、4カ月に1回、市内の宿泊施設から国別に集計を出していただくのですが、それとは別に、サンプル調査ということで毎月、主なところを調査させていただき、おおまかな傾向を掴んでいます。最終的には、毎年1月の末には、前年の1月から12月までの数字を国別に集計して公表しています。

稲継  そうですか。

田中  今は、来られる国もかなり多様化していますので、例えば、ベトナムとかフィリピンとか、あとは、珍しいところですとイスラエルとか。宿泊施設の方々にはかなり手間は取らせてしまっているんですが、そういった国まで調査を広げて、実際の状況に基づいて集計した数が28万人ということですね。

稲継  私、先ほど駅に着いて、すぐ近くのベストウェスタンホテルというところにチェックインしたんですけれども。

田中  ベストウエスタンにも結構外国人の方は泊まられますよ。

稲継  周りはみんな外国人で、日本人は私だけで、フロントの方も名札がもう漢字じゃなくてアルファベットになっていて、ちょっと日本じゃないような雰囲気なんです。みんな英語をしゃべっていますし、ちょっと別の国に来ているような印象を受けたんです。

田中  そうですね。例えば、夜も私たち市民が行くような居酒屋さんや食堂もそんな感じですね。時期的なものはありますが、4月から10月はパッと扉を開けると外国人だけが目に入ってきて「ここはどこだろう」と思わずわからなくなってしまうほどです。

稲継  今、外国からの観光客がすごい状況になっているのですが、昭和61年に宣言してから、どういう取り組みを今までやってこられたのですか?

田中  まず、やりましたのは、多言語化ですね。先生も市内でお気づきになると思いますが、必ず主な場所には外国語で表示された看板に、こっちは陣屋、こっちは古い町並などと表示されています。最初はやっぱり英語だけだったんですけれども、今は中国語とかハングル語が記されています。それと、商店街の中、交差点の足元にはブロックがありますよね?

稲継  はい。

田中  ブロックでも道案内をしています。

稲継  下を向いたときに、足元でということですか?

田中  そうです。そうした場所でも多言語化で案内をしています。
 あとは、メディアです。外国の方が見るメディアの方を招聘して、地域を見ていただいて、紹介していただくのももちろんですけれども、どういったところを改善したらいいのか、というようなことをアドバイスいただき、改善するといったように、地道にずっと続けています。

稲継  海外のメディアですか?

田中  海外のメディアです。

稲継  どういうふうなルートで?

田中  例えば、JNTOさんといったところに紹介していただいたり、当時は自分たちで調べて、「ここがいいのではないか」という所へ直接コンタクトを取ったり。

稲継  どうやって調べるんですか?

田中  メディアや本がありますよね、冊子とか。そういったものを実際に見て、「じゃあ、ここにコンタクトをしよう」とか。昔は空振りになるときも結構あったみたいですけど。地道に、おそらく怖い者知らずで、やったのではないかな?他には、日本に住んでおられる外国人に声をかけて、ジャパン・クエストとかいって...。

稲継  ジャパン・クエスト?

田中  日本を探訪するということをテーマにして、高山とか周辺地域に来ていただいて、帰ってからPRしていただいたりしました。そうした取り組みを地道にコツコツやって来たんですね。

稲継  そうなんですか。徐々に、徐々に伸びてきたということなんですね?

田中  そうですね。

稲継  主として観光誘客をするということ、特に、海外の人を観光誘客するということは、市にとってどういうメリットがありますでしょうか?

田中  先日、たまたま日本人のお客さんが高山に来られて、10人ぐらいで、地元の者も行くような郷土料理の店に行ったんですね。なんと、私たち10人以外は全部外国人だったんです。店内も、割といっぱいになっていまして、私たちはその時少し酒も飲んで、一人あたりだいたい5,000円ぐらい支払いました。ただ、お店のおかみさんが言うには「あんたたちが来るよりは、外国人の人が来る方がありがたい」と。半分冗談とはわかっていますが。

稲継  単価が高い?

田中  その通りです。外国人の皆さんは、一枚4,000円くらいの飛騨牛ステーキを、12人いれば、ほとんど全員が注文されるそうです。もちろんステーキを食べるだけではありませんので、ご飯を食べて、お酒も飲む。単価はだいたい7,000円から8,000円ぐらいだそうです。おかみさんに「海外の方はそれぐらい食べるんだよ」と言われて、思わず「申し訳ありません」って言って帰って来ました。
 先生が先ほどおっしゃったように、少子高齢化が進んで人口が減っていくと、やはり国内のマーケットがだんだん小さくなり、必然的に海外に目を向ける必要があるのだと思います。そういう意味では、外国人の方の消費が地域経済の活性化に占める役割も、本当に年々大きくなっています。今、私の方で、一体いくら位使って、どのくらい泊まって、そういった調査をWi-Fiなどを使って調査させていただいていまして、それを今度は国別や経年で比較して今後の参考に使うつもりです。そして、言い方は悪いのですが、これからは、よりたくさんお金を使っていただける、そういった国々とか層からのお客様の取り込みをしていきたいと考えています。目に見える形での経済効果を図りたいと思っています。

稲継  なるほど。今、Wi-Fiとおっしゃっていますけれども、具体的にはどういう取り組みなのでしょうか?

田中  Wi-Fiは去年設置したんですけど、第一の目的は、海外の方がスマホを使う時、通信の関係で割高になりますよね。

稲継  とても高いですよね。

田中  Wi-Fiを整備して無料で使っていただいて、できれば高山での体験などをSNSを活用していろいろ発信していただくということが目的の一つです。そのためのいろいろな手法を考えたんですが、民間でもNTTさんとかドコモさんとかいろいろやっていらっしゃいますので、そうした手法を活用できないか考えました。
 ただ、私たちがこだわったのは、せっかくWi-Fiを整備するだから何か市にもメリットがないと...ということで、予算ベースで920万、去年は中心地で11カ所に13基のアクセスポイントを設置しました。
 最初、もっと使いやすくした方がいいなど、いろいろと議論があったのですが、現在の方法で設置しました。 Wi-Fiをつなぐとぱっと、「FREE Wi-Fi TAKAYAMA」というのが出てきます。

稲継  初期画面が出てくる。

田中  そうです、それをつないでブラウザを立ち上げると、初期画面が出てきて、そこで「どこから来ました?」とか、「何日滞在しますか?」といった簡単なアンケートに答えていただいて、メールアドレスを添えて送信していただくと、パスワードを送信し、それを入力すれば7日間無料で使えるという仕組みにしました。

稲継  7日間って大きいですよね。

田中  昨年の8月1日から始めましたが、この9月末現在で2万人ぐらいの方に利用いただいているんです。本当は、もうちょっと増やしていきたいんですけど。

稲継  今年の9月末?

田中  そうです。

稲継  1年経って?

田中  ほぼ、1年ちょっとですね。このように1つ目の目的は無料で使っていただくということです。
 2つ目の目的は、いただいたメールアドレスに高山に滞在中にいろんな情報を送ることです。
 システムで配信時間が設定できるものですから、例えば「今日6時からどこどこで盆踊りをやるよ」「味祭りが明日ありますから」とか、そういう情報を送ります。加えて、例えば、昨年ですと、忘れもしない8月18日なんですけれど、豪雨があって、外国人の方が宮川まで様子を見に行かれたみたいです。

稲継  いっぱい水があるぞと喜んで?

田中  そうなんですね。豪雨のとき、おじいさんが様子を見に行って、そのまま流されて行方不明になったといった事故があるので、そうなったら困るということで、Wi-Fiのメールで「川に近づかないでください」と注意を促しました。また、御岳が噴火した時も「安全です」と。また他の例では、去年は割と街中に近い場所でも熊が多く出没したんです。白山公園や寺町あたりに熊が出て、クマへの注意を促すために「近づいたとしても気をつけてください」といったメールを送りました。
 実は、最初の登録時のアンケートで「帰ってからも高山の情報がほしいですか?」という問いかけをしているんですが、大体3割の方が「ほしいです」という回答をいただいています。その3割の方々に対して、帰国してから、例えばシンガポールで国際観光博がある時に、「高山が出ますからぜひ、来てください」とか、その方々を対象としたファンクラブを作るとか、「高山で撮った写真を投稿してください」とか、そういった試みをしたいと思っています。
 加えて、帰ってからは29項目ぐらいの質問をしています。実際に宿泊以外で使った金額、2次交通は何を利用したか、高山以外にどこに行かれたか、かなり細かいアンケートを行っていて、今それを集約しています。皆さん、結構、まじめに答えていただいています。それを集計して、今後の戦略に反映したいな、と思っています。これは、これからも続けていきたいと思っています。

稲継  Wi-Fi、920万円かかったけれども、ものすごい効果ですよね。

田中  そうですね。920万円では、こうした情報は得られないと思いますし、実際に2万人の国別のメールアドレスを全部うちが所有しています。それを得ようと思うと、かなりの労力というか、不可能に近いので、今のWi-Fiをやったからこそできているということがあります。今は、宝ですね。これから、いろんなことに活用させていただきたいと思っています。
 Wi-Fiを接続することが第一義的な目的なんですけども、それ以上に、行政だからこそのメリットがあるようなことにかなりこだわってやらせていただいています。

稲継  行政にとってもメリットがありますし、逆にお見えになった方も無料で使えるメリットがありますね。

田中  無料で使えますので。これは屋外にはなりますが。

稲継  普通は海外に行ったときにWi-Fiアクセスポイントを使うと、1日やはり 1,000円とか軽くかかっちゃうので。

田中  どこか使えるところがないか、と探しますよね。

稲継  そうなんですよね、だから、それはすごくありがたいなと思いますよね。お見えになる方にとってもすごくアピールできるポイントでありますよね。なるほど、ありがとうございます。
 そういうWi-Fiの取り組みや、あとは、多言語化とおっしゃいましたね。これはいくつぐらいの言語ですか?

田中  これは、ホームページ自体で11言語です。(参考:タイ語のHP

稲継  11言語。

田中  ロシア語とか、私が来た時には入っていました。


街中に設置されている
多言語化された地図

稲継  そうですか。

田中  タイ語もそうです。ポルトガル語、英語、フランス語、ドイツ語、全部11言語が入っていますし、パンフレットも7言語が使われています。あとは地図も、ちょうど先生が持っていらっしゃるのは日本語ですか?

稲継  これは、日本語ですけれども、ホテルには、これと同じものがいっぱい、7つぐらいありましたかね。

田中  12あります。

稲継  そんなにあるんですか。

田中  今年はヘブライ語も作らせていただきました。

稲継  どうしてヘブライ語を作 るんですか?

田中  統計を取る中で、今、イスラエルの方が増えてきていることがわかったんです。4月単月だけだと、イスラエルから日本に来られる75%の方々 が高山を訪問しているんです。

稲継  なぜ、75%も来るんでしょうか?不思議ですね。

田中  それで、調べてみました。大体グループでいらっしゃっているんですけれども、イスラエルと言えばユダヤ人の社会です。そこで、日本のシンドラーと言われた杉原千畝さん。

稲継  杉原千畝、行政学でも教えました。

田中  12月5日に、唐沢さんって...

稲継  唐沢寿明さんですか?

田中  そうそう。唐沢さんが主演で、ちょうど杉原千畝の映画が封切りになるんですけど。その杉原千畝さんが生まれたのが岐阜県の八百津町というところなんです。

稲継  八百津町?

田中  岐阜県の南東に位置していますが、その杉原千畝が、日本通過ビザを発給してロシアの大陸を経由して、日本にたどり着いた最初の港が福井県の敦賀なんです。

稲継  敦賀。

田中  八百津と敦賀の間にちょうど高山がありまして、高山を通過するツアーがあるんです、杉原千畝を巡るツアーが。

稲継  なるほど。

田中  高山と杉原千畝さんは全く関係ないんですけど、八百津の周辺には観光する場所が少ないこともあり、代わりに高山に寄って、金沢に寄って京都に至るというルートでいらっしゃるんです。

稲継  記念館はあるんですね?

田中  そうです。それが、ツアーに組み込まれているのが分かって、「だからか!」と。

稲継  だから、イスラエル人観光客の75%はお見えになると。

田中  この間、八百津町さん、敦賀市さん、そしてせっかくなら白川村と金沢市さんと一緒に会合をもって、このルートをこれから売っていこうということで話し合いをしたところです。これから本格的にイスラエルを突破口にして、最終的には世界中の、特に北米のユダヤ人の方々をターゲットにプロモーションをしたいと思っています。ユダヤ人の方々の情報網は結構ありますし、ユダヤ人の方々は、相対的に社会的な地位は...。

稲継  非常に高いですね。

田中  あとは、経済的にもかなり高い位置にいらっしゃいます。観光という意味では厳しい目を持っていらっしゃるようですけれども、そういった方々をターゲットに本気でやっていこうということです。
 ちょっとニッチな世界ですけど、たぶんどこもやってらっしゃらないと思うので、

稲継  やってないと思う。

田中  漁夫の利を得るというか、たまたま八百津町と敦賀市のちょうど真ん中に高山市があったので、ルートができるということだけのことなんですけれど、やっていこうかなと思っていますね。

稲継  それで、ヘブライ語のパンフレットも作られるということなんですね。なるほど、いろんな国の方を集客するということで、最近インバウンドの取り組みをいろんな自治体がやっていますけども、どちらかというと、中国人の爆買いを招くようなところが多いんですけれども、そうではなくて、いろんな国をターゲットにしておられるというのは......。

田中  やっぱり、3年前でしたか、ちょうど領土の問題がありまして、パタッと中国の観光客が減った時期がありましたよね。それまでは、本当に上り調子で中国の方に来ていただいていたところが、どーんと落ち込んでしまいました。ようやく昨年あたりから中国の方が増えてきたという状況です。
 観光というのは水ものみたいなところがあって、例えば、MERSですか、かつてはSARS、あとはリーマンショックや領土問題。韓国との領土問題や政治的な問題があって、それがインバウンドはかなり影響を受けています。それで、なるべくそういった影響を受けないような層とか、つまり同じ中国でも団体旅行ではなく、個人で来られるような方の層であるとか、経済的にも政治的にも安定している国や地域をターゲットにしています。また、ある国から来なくなったらそれでおしまいなのではなくて、それ以外の国や地域からの誘客を行うことによって、安定したインバウンドにつなげるといった方策が必要であることをその時に実感しました。

稲継  なるほど。

田中  高山は割と中国の本土からの観光客は少ないんですね。韓国の方も少ないんです。高山は、中国や韓国の方々が来られるコースから外れています。それと、高 山へのツアー料金がどうしても高くなることも要因です。高山に来るための二次交通が高くつくのと、高山にはビジネスホテルがあまりないので、どうしても宿泊単価が高くなり、相対的にツアー料金が高くなるわけです。特に韓国や中国の方々は、安くて、たくさん見られるというツアーに集中されると思うんです。ただ、今はビザの緩和などで、数次ビザを持っていらっしゃる方が増えるにつれて、個人で旅行がし易くなり、そうした方々がこれから地方に訪れるようになると思っています。

稲継  ああ、そうですか、メインランド・チャイナの方ですね。

田中  そうですね。そういった方は、結構、裕福でもありますね。さっきからお金の話ばかりして申し訳ないんですけども、割と旅行単価も高いです。そういった誘客はどんどん増やしていきたいなと考えています。ただ、先ほど申し上げましたように、どこかに一点に集中するのではなくて、

稲継  リスク分散ということですね。

田中  そうです。それと層。例えば、ユダヤ人の方々は世界中に分散して住んでおられます。そういうところも狙っていこうかなと。

稲継  なるほど、先ほど、タイや台湾が多いとおっしゃいましたが、それは何か理由があるんですか?

田中  台湾は、今はどこの自治体でもやっていらっしゃいます。結構、日本に来る台湾の方は多いんですけれども、高山が実際に台湾に誘客を始めたのは、10年以上前、平成9年です。高山は割と浸透していると思います。

稲継  台湾の国の中で、ですよね?

田中  はい。タイについても結構早くから取り組んでいます。今はタイの方が結構いらっしゃるんですけれども、7~8年ぐらい前から、金沢市さん、松本市さん、白川村さんと一緒にやらせてもらっています。それが、たぶん今、花開いているような気がしますね。
 だから、例えば先ほどのユダヤ人のこともそうだと思うんですけども、誰も狙っていないようなところを成果が残せるようにしっかりとやり続ければ、おそらくその成果は出てくるかなと思います。タイと台湾というのは、その典型的な例だと思いますね。

稲継  なるほど、ありがとうございます。ずっと観光誘客を中心にお話をお伺いしたんですけれども、ブランド海外戦略部長として、今後の海外戦略、今後高山をどういうふうに目指しておられるんでしょうか?

田中  国も今一生懸命やっていますし、他の自治体もやり始めていらっしゃいます。私どもとしては、競争するのではなく、できたら連携してやりたい。こんな言い方をすると、ものすごく生意気に聞こえるかもしれないのですけれども、競争する以前の立ち位置に立ちたいと思っています。「高山と競争?ちょっと勘弁してくださいよ」というくらいの立ち位置に立って、「できたら、一緒にやりましょうよ」と言っていただけるような、そういった施策をしたいですね。今やっていることは当然進めますし、連携は他の自治体の方とどんどんしていきたいです。ちょっと前も松坂市さんや、なんと京都市さんからも連携のお話しが来ました。

稲継  それは、すごいですね。

田中  そのくらいやっていって、できるだけ首都圏から地方にインバウンドを流すことを促すという意味でも、連携した施策を打ちたい。それが一つあります。

稲継  それと、経済波及効果を進めるという意味で、できるだけたくさんお金を使っていただけるような、受け入れ体制の整備と、しっかりとターゲットを絞った取り組みですね。

田中  それと、あともう一つは、一番難しいと思っているんですけれども、海外の方がたくさんいらっしゃると、宿泊施設、お土産物屋さん、普通に歩いている市民や朝市のおばちゃんたちも、言葉が違う方々、買い物の仕方も、価値観も違う方々を相手にしないといけなくなるわけです。となると、今まで自分のやってきた商売であるとか、売っているものとか、接している方法が「これでいいのか」ということに気づくはずなんですね。「今までどおりやるんだ。ただ、これはどうしても変えた方がいいのではないかな?」と思われる方も中にはいらっしゃると思うのです。そういったことを高山の市民の皆さんにやっていただきたいと思っています。
 要するに意識改革というと大げさですが、本当の意味で国際人になってもらいたいと思います。自分の今やっていること を変えるか変えないは、その方々の判断だと思うんですよ。ただ、いろんな価値観とか考え方とか、商売の仕方がある ということを知っているのと知らないのでは、かなり違うと思います。

稲継  違いますね。

田中  そういうプロセスを経て、もう一歩先に進めることができればと思います。それには、やっぱり意識改革が必要ですし、自助努力も必要です。だから、一番難しいかなと思うんですけれども、それによって本当の意味で「本物を提供していく」ことにつながると思います。そして、最終的には、国内外を問わず飛騨高山のブランドを確固たるものにしたいなと。たぶん、10年、20年とかかるかもしれませんけれども、その礎を今作っているんだな、ということは感じています。


 12か国語による観光マップ、多言語によるブロック道案内、市内中心部にめぐらせた旅行者向け無料Wi-Fiとそれを利用した情報発信および情報収集。JNTOをはじめさまざまな伝手をたどった海外広報。あの手この手で高山のまちを世界に売り込んでいっている。しかも、高山市という点ではなく、周辺の各市や県を超えた他の観光地との連携も次々に進め、面としての観光を進めている。