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第93回2014.12.24

2014年の多文化共生10大ニュース

日本における多文化共生社会の形成にとって大きな影響を及ぼすであろう2014年の10大ニュースを選びました。

安倍首相が移民受け入れの是非に言及 衆議院予算委員会において、安倍晋三首相が、「将来的に移民を受け入れるべきか否かについては、我が国の将来の形や国民生活全体に関する問題として、国民的な議論を経た上で、多様な角度から検討していく必要がある」、「EU諸国のさまざまな経験も...勘案をしながら、国民的な議論が必要だろう」と答弁しました。そして、経済財政諮問会議のもとに設置された「選択する未来」委員会では、目指すべき日本の未来の姿の一つとして、出生率が2030年に2.07まで上昇し、2015年以降、毎年20万人の移民を受け入れることによって、2060年そして2110年において1億1000万人程度の人口を維持するシナリオが提起されました。(2月)

在留外国人数が再び増加へ 2013年末現在における在留外国人数が法務省から発表され、前年末に比べて、約3万人増加して、206万6445人となったことが明らかになりました。日本経済がリーマンショックに襲われた2008年以降、毎年減少を続けていた外国人数が、年末の統計としては、初めて、上昇に転じたことになります。この一年の間に、在留外国人の主要出身国である中国、韓国・朝鮮、フィリピン、ブラジルの順位に変化はありませんが、ベトナム、台湾、ネパール出身者が大きく増加したことがわかります。(3月)

外国人児童生徒の日本語指導が特別の教育課程に 義務教育諸学校における帰国・外国人児童生徒等に対する日本語指導を充実させる観点から,当該児童生徒の在籍学級以外の教室で行われる指導について、「特別の教育課程」を編成・実施することができるようになりました。「特別の教育課程」による日本語指導とは,学校生活を送る上や教科等の授業を理解する上で必要な日本語の指導を,在籍学級の教育課程の一部の時間に替えて,在籍学級以外の教室で行うことを指します。日本語指導が学校教育の中で正規に位置づけられたことは、これまで、一部の外国人の多い自治体を除くと、日本語指導が担当教員のやる気次第になっていた状況から大きな前進と言えます。(4月)

建設業等、外国人材の活用へ 建設分野における外国人材の活用に係る緊急措置を検討する閣僚会議において、東京オリンピック・パラリンピックの建設需要に対応すべく、建設分野の技能実習修了者の時限的(2015~2020年)受入れが決定されました。また、経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議において、「内なるグローバル化」について審議され、技能実習制度の抜本的見直しや国家戦略特区の設置による外国人材の積極活用の方針が打ち出されました。一方で「移民政策と誤解されないように配慮」することも強調されました。これ以降、政府にとって、「移民」はタブーとなります。(4月)

増田レポートが地方の人口減少を警告 増田寛也元総務大臣が座長を務める日本創成会議が、全国自治体の2040年の人口推計を発表し、このまま人口減少と地方から首都圏への人口流出が続けば、全国自治体の半数において若年女性(20~39歳)は5割以上減少し、消滅する可能性が高いことが示されました。これ以降、地方の人口減少そして「消滅」に大きな関心が集まるようになりました。人口減少の危機意識が高まる中で、移民受け入れへの関心も次第に大きくなるかもしれません。(5月)

50年後の人口1億人維持が政府目標に 2030年に出生率を2.07まで上昇させることで、50年後に1億人程度の人口規模を維持する目標を提起した「選択する未来」委員会の中間整理を受け、政府は経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)で「50年後に1億人程度の安定した人口構造を保持」する目標を定めました。戦後の政府で人口目標を定めたのは初めてのことです。また、日本再興戦略において、「外国人材の活用」が正式に政府の成長戦略の優先課題として位置づけられました。なお、「骨太の方針」には、「外国人材の活用は、移民政策ではない」、日本再興戦略には、「中長期的な外国人材の受入れの在り方については、移民政策と誤解されないように配慮し、かつ国民的なコンセンサスを形成しつつ、総合的な検討を進めていく」とあります。(6月)

地方創生の基本理念と総合戦略の策定へ 地方の人口減少そして「消滅」への危機意識の高まりを受けて、9月に発足した安倍改造内閣では、石破茂前自民党幹事長が新設された地方創生大臣に着任し、安倍首相を本部長とする「まち・ひと・しごと創生本部(地方創生本部)」が発足しました。そして、11月の解散直前の国会において、人口減少抑制や東京一極集中の是正に向けて地方創生の基本理念と総合戦略を策定することなどを定めた「まち・ひと・しごと法案」と自治体を支援するための「地域再生法改正案」が可決、成立しました。国が日本の人口動向を分析した長期ビジョンと今後5か年の施策を示す総合戦略を2014年内に定めるとともに、自治体においても人口ビジョンと総合戦略を策定します。自治体の中には、多文化共生の観点を取り入れた総合戦略を策定するところが出てくるかもしれません。(9、11月)

大学のグローバル化が加速 文部科学省は、スーパーグローバル大学創成支援事業に、全国の37大学(国立21、公立2、私立14)の構想が採択されたことを発表しました。この事業は、世界ランキングトップ100を目指す力のある大学(タイプA)や日本社会のグローバル化を牽引する大学(タイプB)を10年間、重点支援することで、日本の高等教育の国際競争力を強化することを目的としています。留学生の受け入れや送り出しを推進することで、大学は多様な人々が活躍する社会づくりの推進役を担うことが期待されます。(9月)

外国人集住都市会議、第2ステージへ 外国人集住都市会議の首長会議が東京で開かれ、2015年4月から組織再編することが打ち出されました。再編の柱は、第1に会議の構成都市を南米系外国人の多い都市に限定せず、多文化共生に取り組んでいる都市に広げること、第2に会議の目的として、外国人住民にかかわる課題の解決に向けて国に働きかけるだけでなく、外国人住民の存在を積極的にとらえ、多様性を生かしたまちづくりに取り組んでいくことです。(11月)

最高裁、ヘイトスピーチを違法と認定 ヘイトスピーチと呼ばれる差別発言による街宣活動で授業を妨害されたとして、京都市の朝鮮学校が「在日特権を許さない市民の会」(在特会)を訴えた訴訟の上告審で、最高裁は在特会側の上告を退ける決定をしました。その結果、学校の半径200メートル以内での街宣活動の禁止と約1200万円の損害賠償を命じた一、二審判決が確定しました。ヘイトスピーチの違法性を認めた判断が最高裁で確定したのは初めてのことです。(12月)

<番外編>

衆議院総選挙で与党圧勝、続く円安? 衆議院総選挙の結果、自民、公明両党は定数の三分の二を超える議席を獲得し、安倍首相は長期政権への足場を固め、「アベノミクス」が継続する見込みとなりました。安倍政権が誕生した2012年12月に円相場は1ドル84円でしたが、2年後の現在119円となり、35円も円安になっています。多くの市場関係者は今後も円安が続くことを予想しています。円安傾向が続くことは、外国人観光客の誘致には有利に働きますが、安倍政権が掲げる「外国人材の活用」には逆風となるでしょう。特に、英語圏を中心に先進諸国の争奪戦となっている「高度人材」の誘致は、日本にとってますます困難になることが予想されます。(12月)