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第91回2014.10.22

地方創生

2014年9月29日に第187回国会が開会し、安倍晋三首相による所信表明演説が行われました。その中で特に強調されたのは、「地方創生」と「女性の活躍」でした。地方創生の分野では、人口減少抑制や東京一極集中の是正に向けた地方創生の基本理念と総合戦略を策定することなどを定めた「まち・ひと・しごと法案」と、自治体を支援するための「地域再生法改正案」の審議が始まっています。

地方創生が政府の中心テーマとなったのは、2014年5月に民間研究機関「日本創生会議」が公表した「ストップ少子化・地方元気戦略」と「消滅自治体リスト」により、地方の人口減少問題にスポットがあたったことがきっかけでした。同リストは、20~39歳の若年女性の人口の将来推計を自治体別に試算したものです。その結果、約1800の市町村のうち、若年女性が2040年までに半数以下に減少する自治体は896(約5割)となることがわかりました。こうした自治体を「消滅可能性都市」と呼び、このうち人口1万人を割る523自治体については消滅の可能性が特に高いと結論づけました。リストの公表によって、地方の人口減少に対する危機意識が一気に高まると同時に、全国で最も出生率が低い東京に地方から若年層が移動することで、日本全体の人口減少が加速する問題にも注目が集まりました。

一方、政府は、今年1月に、今後半世紀を見据え、持続的な成長・発展のための課題について検討するため、経済財政諮問会議のもとに「選択する未来」委員会を設置し、望ましい人口規模に関する議論を行ってきました。そして、2014年6月に策定された「骨太の方針」で、50年後に1億人程度の安定した人口構造を保持するという目標を打ち出しました。マスコミは同委員会の議論を当初から積極的に報道しましたが、こうして、人口減少問題への関心が高まる中で「リスト」が公表されただけに、大きなインパクトがあったといえます。

地方の人口減少そして「消滅」への危機意識の高まりを受けて、9月3日に発足した安倍改造内閣では、石破茂前自民党幹事長が新設された地方創生相に着任し、安倍首相を本部長とする「まち・ひと・しごと創生本部(地方創生本部)」も同日に発足しました。

今回の首相の所信表明演説では、成長戦略の一環としての国家戦略特区への言及の中で、「創業や家事支援に携わる、能力あふれる外国人の皆さんに、日本で活躍してもらえる環境を整備します」と触れただけですが、特区の設置や技能実習制度の拡充などを通じた「外国人材の活用」も現政権の主要テーマの一つとなっています(第86回拙稿参照)。

今のところ、「地方創生」と「外国人材の活用」を関連づけた議論はほとんどされていません。但し、「選択する未来」委員会、日本創生会議、そして地方創生本部の委員を務め、人口減少問題のオピニオンリーダーである増田寛也前総務相の最新刊『地方消滅』では、東京圏が世界有数の国際都市をめざし、高度な技術を持った海外の人材や資源を大胆に誘致し、世界の多様性を積極的に受け入れるベースとなること、そして、生産年齢人口の減少に対応するため、高度人材や留学生、そして介護従事者や建設労働者の受け入れを推進することが説かれています。

まち・ひと・しごと法案が今国会で成立すると、国が今後5か年の施策を示す総合戦略を定めるとともに、自治体においても総合戦略の策定が求められます。かりに国の総合戦略に外国人材の活用が位置付けられなくても、自治体の中から、国内外の外国人材を積極的に活用し、多様性を生かしたまちづくり(多文化共生2.0)の観点を取り入れた総合戦略を策定するところが出てくるかもしれません。

第百八十七回国会における安倍内閣総理大臣所信表明演説
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement2/20140929shoshin.html

日本創生会議
http://www.policycouncil.jp/

経済財政諮問会議「選択する未来」委員会
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/

まち・ひと・しごと創生本部
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/

増田寛也編『地方消滅-東京一極集中が招く人口急減』(中央公論新社、2014年)