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第77回2013.08.28

大学と多文化共生社会

1990年代に外国人住民にかかわる課題が顕在化して以来、多文化共生に関する研究が盛んになると同時に、多文化共生に関する大学の講義も増えてきました。それだけでなく、大学の社会貢献の一環として多文化共生社会づくりに具体的にかかわる取り組みも広がりつつあります。今回はそうした取り組みをいくつか紹介したいと思います。

 まず、人材養成やネットワークづくりに取り組んでいるのが東京外国語大学です。2004年度に多文化コミュニティ教育支援室、2006年度に多言語・多文化教育研究センターを設置した同大では、2007年度から多文化社会を担う人材養成のプログラムを実施するとともに、全国の研究者や実践者が集まる多文化協働実践研究・全国フォーラムを年に一回開催しています。

 次に、もう一つの人材養成の取り組みとしてユニークなのが、群馬大学と群馬県が連携して2009年度に立ち上げ、今年が最終年度となる「多文化共生推進士」養成ユニットです。両者は2002年度から連携して、多文化共生社会づくりに取り組んできました。「多文化共生推進士」とは多文化共生の視点を持って社会システムづくりを行い、新産業の創出を目指して地域の活性化を担う人材を指します。履修生は1年目にアナリスト・コース、2年目にプランナー・コース、そして3年目にコンサルタント・コースを受講すると、県から「多文化共生推進士」の認定を受けます。2013年度までに、90名の履修生を対象とした教育を行い、約10名の多文化共生推進士を輩出することを目指しています。

 三番目に、多文化共生の先進自治体として注目される浜松市にある静岡文化芸術大学が2012年6月に立ち上げた「多文化子ども教育フォーラム」です。同大は、2010年度に策定した中期計画で多文化共生を重点目標研究領域の一つに位置付けました。このフォーラムは、浜松市内の外国人児童生徒支援にかかわる多様な市民団体や学校関係者、行政職員らが集まる場として設けられ、これまで5回の会合が開かれています。大学が地域の多様な関係者をつなぐコーディネータの役割を果たしている貴重な実践と言えます。

 以上は、国内で連携した取り組みですが、国際的な連携の取り組みとして、今月始めに、東海大学で在日ブラジル人教育者向け遠隔教育コースの卒業式が開かれました。このプログラムは、ブラジルの初等教育の教員免許所持者を増やすことで、日本のブラジル人学校などで働く教育関係者の能力向上を目指し、2009年7月に300名が参加して始まった取り組みです。ブラジルのマトグロッソ連邦大学が中心となり、東海大学が協力し、三井物産やブラジル銀行、駐日ブラジル大使館などの支援も受け、学費無料で実施されました。卒業式には、163名の卒業生と家族、両大学の学長、駐日ブラジル大使らが出席しました。

 多様性を受け入れ、日本を世界に開かれた社会に変えていく推進力として、企業と大学は大きな可能性をもっているといえます。大学のミッションとして、グローバル人材の育成に関心が集まっていますが、そこに多文化共生の視点を取り入れる大学が増えていくことを期待したいと思います。なお、私が所属する明治大学大学院にも、ささやかながら多文化共生社会を支える人材養成をめざした多文化共生・異文化間教育研究領域が2012年度に設けられました。

東京外国語大学多言語・多文化教育研究センター
http://www.tufs.ac.jp/blog/ts/g/cemmer/

群馬大学「多文化共生推進士」養成ユニット
http://jst-tabunka.edu.gunma-u.ac.jp/

静岡文化芸術大学「多文化子ども教育フォーラム」
http://wwwt.suac.ac.jp/~ikegami/fice00.html

東海大学ニュース
http://www.u-tokai.ac.jp/TKDCMS/News/Detail.aspx?code=news&id=6419